第6部第5話
東京に戻ってきた竜介は、引き続き箱根でカテゴリーレースをして稼ぐ。すると、高山からまたメールが来ていた。
なんでも箱根で夜に待っているから来て欲しいとのことだ。
箱根のPAに向かうと、そこには初めて見る白いS13シルビアが1台。その横には紫の頭をした男が。
竜介はその男に声をかける。
「あの…すみません。高山さんですか?」
「ん…ああ、そうですが…あんたか!? 箱根と広島のスラッシャーを倒したって言う、野上さん!」
やけに元気が良い。間違いなさそうだ。
「初めまして。俺、高山 信幸(たかやま のぶゆき)って言います。突然ですけど、俺と下りでバトルしてください!」
「…俺とバトルか? いいだろう」
という訳で、箱根の下りでLFバトル。竜介が後追いだ。
最初のストレートでは、やはりパワーのあるシルビアがアクセラを引き離す。
しかし大字のFTOと同じように、FFとFRの違いはあれども下りではアクセラの
軽さを活かして竜介は喰らいついていく。
前に乗っていたGC8なら、パワーで最初に抜くことが出来るのになー…と思い始める竜介。
パワーの重要性が大きいことを実感し始めていた。
それでもこの高山という男、テクはあまり無いようである。ブレーキングではふらふらしているし、立ち上がりも安定しない。
後ろについていると危なっかしいので、スパッと抜いて決着をつけたのであった。
「やるな・・流石噂どおり。でも、俺も次は負けない。もっとテクを磨いてまた挑戦していいか?」
「ああ、いつでも来ていいぜ。が、俺はこれから群馬へ行くんだ」
その言葉に高山の顔がきょとん、となる。
「…群馬?」
「ああ。次のコースは榛名山だからな。そこに行かないと始まらないだろう?」
しかしその次の瞬間、高山の口から驚愕の言葉が。
「…あー…なるほど。俺もついて行っていいか?」
「……へ?」
その台詞に、クールな竜介は珍しく素の声を発した。
高山とのバトルを終え、広島の次は群馬県へ。石田のときも友也の時も出てきていた榛名山へ向かう。
…高山と共に。
あの後「…好きにしろ」と返したら本当に好きにして、ついてきてしまった高山。
高山は竜介と同じくカテゴリーレースで食い扶持(ぶち)を稼いでいるため、定職にはついていないのだ。
(出来れば…女が良かったな…)
何が悲しくて、こんな男と一緒に行かなければならないのだろう、と自分で了承したこととはいえ、ため息をつく竜介であった。
「竜介は…かなりテクニックを持っているみたいだけど、どこで身に着けたんだ?」
群馬へ向かう途中のPAで、食事をしながら高山が質問する。
竜介は別に隠すことも無いだろう、と思い、自分は元ラリードライバーだったということ、チームが解散してここに流れ着いたことを正直に話した。
「そうか…大変だったな。俺に出来ることがあれば、できる限り協力するよ」
「…すまない」
食事も終わり、アクセラとS13は群馬県へと入る。
ここらに来るとパワーのあるマシンも増えてきたが、まだまだアクセラでも戦える。
榛名についたときにはすでに日も暮れていたため、高山とともにバトルを兼ねて走り込みを開始。
下りでは引き離されるが、コーナーでなら追いつける。
この日の夜に来ていたライバルたちも、まだまだアクセラで戦えるレベルだ。
コーナーで勝負を仕掛けて抜き去る。下りの醍醐味と言ってもいいところだが、上りはそうは行かない。
事実その翌日から見かけるようになった、榛名ヒルクライム倶楽部という3人組には大苦戦。
100チェイサー、Z32,S15といったパワーマシン相手に、上りの直線ではかなり分が悪い。
幸いにもこの3人組は、竜介から見ればコーナーがタコレベルだったので、そのコーナーで差を詰めて撃沈。
それでもかなりギリギリだったので印象に残っている。
そこで高山のシルビアを貸してもらい、パワーの違いを体感してみることに。
インプレッサよりパワーも安定感も無いが、それでもアクセラから見ればターボもついているために、加速のパンチが全然違う。
やっぱり、パワーが無いとつらいよなぁと実感する。
と、高山がそんな竜介に対してこんな意見を出した。
「なぁ…ターボついているのがうらやましかったら、アクセラにつけてみたらどうだ? ターボキット」
竜介は目を丸くした。そうか、ターボをつければよかったのか、と自分の浅はかさに内心でがっくりする竜介。
幸い手元には、久米隆治を倒した金が手付かずで残っている。
食事代やガソリン代などは全て、カテゴリーレースで稼いだ金から捻出しているのだ。
カテゴリーレースで生活費、夜のバトルで賭けバトルをしてチューニング代を稼ぐのが日課になりつつある。
という訳で翌日。街のパーツショップに行きアクセラに適合するターボキットを購入。
自分で取り付けをすれば工賃はゼロだ。これによって、180馬力から一気に230馬力へとパワーアップしたアクセラ。
それに合わせて足回りのパーツをより良い物へ交換し、ボディの補強も少しだけ行う。
そして夜になり、榛名山へテストドライブへ。
まず最初に驚いたのが加速。NAだった頃と比べてマジで違いを実感できる。高山のシルビアにも直線で余裕でついていけるようになった。
上りでも少しは楽になり、ボディを補強したおかげでかっちりとした挙動になった。
前はどこかふらつくような感じがしていたのだ。走りこむ内に、思わず口元に笑みも浮かんでくるほどであった。
そんな竜介に、榛名のスラッシャーから挑戦状が書き込まれた。
高山がノートパソコンを持ってきていたためにわかったことなのだが。
「最近首都高のヤツ等が我が者顔で、この榛名を爆走しているらしいけど、
この俺の書き込みを見たら、榛名PAに堂々と姿を現して欲しい…
ここら辺で、白黒ハッキリさせようぜ。
この街道でどっちがキングかの証明だ!!」
その書き込みに返事をして、榛名へ向かった竜介と高山の前に現れたのは灰色に輝く、三菱ランサーエボリューション4。
「へぇ、あんたが榛名に突然現れたって、アクセラの人か」
水色と黄色の2色に分けられた髪を、後ろで束ねた男。この男がスラッシャーだろう。
「ああ。俺は野上。あんたは?」
「榛名のリーダー、松沢(まつざわ)って者だ。ここに来てくれた事に感謝するよ。今晩はどこまで楽しませてくれるかな??」
ランエボはラリーでもインプレッサのライバルとして出てきているので、負けられない気持ちでいっぱいだ。
勝負はいつものごとく、竜介後追いで下りのフルコースのLFバトル。
カウントは高山が入れる。
「3,2,1、GO!」
最初のスタートダッシュでは、松沢のエボ4がアクセラを引き離す。アクセラにターボをつけたとはいえ向こうは4WD。加速力が違う。
FF車は加速力が悪いので、スタートダッシュでは不利だ。
しかし第1コーナーへの突っ込みは、軽量化したボディのおかげもあってブレーキングで一気に食いつくアクセラ。
後ろから見る限り、エボ4はコーナーの立ち上がりでなぜかふらついているような感じがする。
(何だか危なっかしいな…あのエボ4)
早めに抜いて、竜介はハイスピードセクションに行く前に勝負をつけようとする。
加速ではエボ4が速い。だがコーナーではアクセラのほうが速いのだ。
ここのスラッシャーはたぶん、車の性能でトップに居るだけだろう、と内心がっくりとする竜介。
しかし勝負は勝負。その次に来た緩い右コーナーを曲がった後に来る、1つ目の右ヘアピンコーナーであっさりとオーバーテイク。
(あっ…! 前にもこんなことがあったような気がするぞ…!)
遅い車が前なのでアクセルを踏み込むことが出来ない松沢は、そのまま中盤のストレートまでにどんどん引き離される。
しかしストレートではパワーを生かして、何とか食いついていく松沢。
(簡単に勝たせてやるわけにも行かないんでね!)
ストレートで追いつかれてしまうので、ここから先のセクションで一気に勝負を決めることに。
入口が緩く、出口がきついスケートリンク後のコーナーを良い突っ込みでクリア。その後の中速コーナーが連続するセクションでは
エボ4を再び引き離すが、5連ヘアピンまでにだんだん差をつめられてしまう。
(さすがにあのマンガの溝落としは出来ない。が、突っ込みスピードはこっちが上だ。ここで終わりだ!)
5連ヘアピン1つ目の高速ブレーキングでエボ4を引き離し、そのままハイスピードでヘアピンをクリア。
どっかの赤いシビックが自爆したとされる最後のストレートに入った頃には、もうエボ4はバックミラーに映っていなかった。
「昨日、俺とバトルをして勝った走り屋!!
君の腕を持ってすれば、あのうっとうしい首都高のヤツ等を一掃できるかもな。
その時は手を貸してくれよな!!」
松沢を倒し、またしても賞金を手に入れた竜介。それから翌日はまたカテゴリーレース。そして残りのライバル狩りだ。
NSX−Rという物凄いマシンでやってくるハイギャンブラーが居たが、コイツも直線番長だったので何とか撃墜。
しかし、その次に出会ったレガシィB4は速かった。
PAでそのB4のドライバーを見た2人は、背筋が凍るような感じがしたらしいが。
「スバル!! スバル!! 水平対抗エンジンはやっぱ、最高だ!! 誰だ!! 低速トルクが無いなんて言う奴!!」
「…竜介、あの人、大丈夫なのか?」
「さぁ、な…。でも、スバリストなのは間違いなさそうだから、とにかく話しかけてみよう」
何だか叫んでいる変人だったが、話しかけてみると意外と普通の人物だった。
「あんた…スバリストなのか?」
「…ん? ああ。そうだ。……俺は石原 正勝(いしはら まさかつ)って言うメダリストだけど、俺とバトルしないか?」
ここにもメダリストが1人いた。竜介は快諾し、ダウンヒルのSPバトルで勝負。
しかし、やはりレガシィは直線が速い。コーナーではNSX−Rの奴と同じように喰い付けるが、
コーナー出口での加速がNSXよりなぜか速いのがこの石原のレガシィ。
しかも石原は結構コーナーも速い。
(速いな…前のレガシィ。直線だけでなく、そこそこコーナーワークも上手い)
直線では引き離されてしまうため、コーナリングスピードを限界まで高める。
重いレガシィとは感じさせないコーナリングに、竜介もポーカーフェイスの下では驚き気味だ。
(またストレートで負けるのか?)
竜介は、スケートリンク前の直線で少しずつ離れていくレガシィを見るが、顔つきは冷静だ。
なぜならこの後に待ち構えているのは…。
(ここまで差をつければ奴もあきらめて……あきらめ…て!?)
直線で思いっきり引き離したと思っていたのだが、きつい左コーナーへのブレーキングで追いつかれる石原。
アクセラのほうが軽量なのでブレーキも利きやすいため、思い切った突っ込みで飛び込む。
レガシィはボディがでかいため、コーナリングはあまり得意ではない。
反対にアクセラは切れるようなコーナリングでインに飛び込み、レガシィを抜き去った。
連続中速コーナーの区間でどんどん引き離し、アクセラがその後のヘアピンコーナーを抜けた後に来るストレートを駆け抜けると、
レガシィはゆっくりとスローダウンして行った。
(駄目だ…勝てない。やっぱりこんなに負けるのは、ツインターボ化を渋っているからなのかな…??)