第4部第3話
可憐とのバトルを終え、翌朝仕事場に出勤すると…あった。群馬県での仕事要請。
すかさずそこに派遣願いを出し、翌週、彼は群馬県へ飛んだ。
期限は2ヶ月。
スターレットと共に荷物をまとめて、東名高速から都内へ。その後関越にのって群馬県へ。
目的の社宅につき翌日、仕事場へ挨拶へと向かう。
その後、仕事が終わった後に探索へ。やはり東京と比べると建物が少ない。
(まぁ…群馬ってこんなもんなのかなー)
そして夜も更け、彼は榛名山へ向かった。
…きつい。いや、体力的にではなく、車の差的にきつい。
榛名は長いストレートが3つもあり、しかも相手も2リッターのターボ車が多くなってきた。
下りなら何とかついていけるが、上りでバトルを挑んでも負けてしまう。
実際勝てないライバルだって何人かいるわけで…そう考えた友也は、車を買い換えることを決意した。
その車は2リッターターボのS13シルビア。
スターレットはノーマルパーツを持っていなかったので安く買い叩かれはしたものの、それでも今までの貯金を下ろして
売却費用と合わせてもお釣りが来たので問題は無しだ。
とは言ってもまだチューンできるほどの金は貯まっていない。
友也は昔C33ローレルに乗っていたが、それを宝条京介という男に取られてしまい、その後必死で働いて
R33GT−Rを購入したという経緯があるのだ。
C33ローレルに乗っていたときのことを必死で思い出し、ノーマルのS13シルビアを榛名を走りこんで手なずけようとする。
しかし今までR33、スターレットとスピンとはほとんど無縁の車を乗り継いできたので、苦労する。
ヘアピンでオーバーステアに対処できずにスピンしてしまい、思わずいらついてハンドルをバンバン叩く友也。
「あーーーーーーちきしょう!! FRってここまで難しかったかー!?」
それでも何とか気を取り直し、走り込みを続ける。
2日…3日…7日…日を追うごとに感覚を取り戻し、それに合わせてバトルもしていく。
やはり上りでの勝率は低い。だが、下りでの勝率は高くなった。
上りで勝つために、榛名の走り屋たちとのバトルでの賞金でシルビア用のパーツを買い込み、
自分でチューニング雑誌を見たりして何とか組み込んでいく。
余談だが、友也はR33を自分でチューンしていたのだ。
足回りはもちろん、エンジン本体にも手を入れ、タイヤも現時点で買える最高級のものを買う。
人を乗せることは滅多に無い友也なので、軽量化も施す。
某漫画で見たというパワーウレタンと呼ばれる、手軽に出来る剛性アップも施してみた。
そして峠仕様にセッティング。
これで何とか上りの勝率も増えてきた。下りはもう問題はない。
そしてバトルを繰り返し、3日くらいたったころであろうか。友也の元に榛名のリーダーから挑戦状が届いた。
「榛名ガーディアン」と呼ばれる、三菱ギャランに乗っている男だそうだ。
その挑戦状に返信し、S13と共に榛名山へ。そこには1人の男がギャランと共に待っていた。
「へえ…あんたが今ここで噂になっているシルビア乗りか。まぁ、俺もこの榛名を守る者として、でかい顔されて
黙っているわけには行かないんでね。バトルしてもらおう」
(うわ……この人守る者とか言っちゃってるよ…中二病か?)
内心あきれつつも、榛名を制覇するにはこの男を倒さないといけないのでバトルすることに。
「いいよ…俺は林友也。あんたは?」
「松沢 博文(まつざわ ひろふみ)だ。まぁ、名前なんてどうだっていいけど。先行後追いでそっちが先行でよろしく」
2台が一直線に並び、ギャラリーの1人がバトルのカウントダウンを始める。
「行きます! 3,2,1、GO!」
2台が走り出し、友也はチラッとバックミラーを見た。
だがギャランの松沢は不思議なことをしていた。
(あれ…? あいつ、ライト消してる。節電か? バルブ切れか?)
でもさっきまではしっかり点いていたよなぁ、と思いつつ、第1コーナーへ突っ込む。
S13の方が軽いので突っ込みは速い。だが立ち上がりではギャランが巻き返してくる。
さすがにランサーと同じ4G63を積んでいるだけあり侮れない。
(これは…ストレートに入る前になるべく引き離しておいたほうがいいな)
いつもの豪快なドライビングをなるべく抑え、丁寧に1つずつ、慎重にグリップ走行でコーナーを駆け抜ける友也。
そして、まずは最初のスケートリンクへの入り口がある、中盤のストレートへ。
そこでギャランが巻き返してくる…かと思いきや、なぜか差を詰めてこない。バックミラーで見ても不気味だ。
その後、連続S字コーナーを駆け抜けて行くが一向に差を詰めてこない。
むしろ引き離されていく松沢。
(俺が追いつけないだと? バカな・・向こうは明らかに格下のS13…ありえない!)
まずはライトを点けようぜと思いつつも、必死にS13を追う松沢。だが…。
(あっ…)
車間計測用のメーターが150mを突破していた。この時点で松沢は振り切られたことになり、敗北してしまった。
(………車を…買い換えるべきか……)
松沢博文、戦意喪失でスローダウン。特に苦労することも無く、何だかあっけなかった榛名のボス戦であった。
とりあえず来週から赤城へ行くことにした友也は、晴れの週末に再び榛名山へ。
すると、見かけない黄色のDC2インテグラタイプRが1台。
しかもドライバーは女。
(あれもラヴァーズか…?)
とりあえず可憐の時と同じように話しかけてみる友也。
「やぁお嬢さん。珍しいな、女の走り屋って」
「何ですか…? ナンパならお断りですけど」
「そんなもんじゃない。女の走り屋って珍しいから、バトルしてみたいと思ったんだが…ダメか?」
「いいですよ…」
しかし内心では、友也の事を馴れ馴れしくてウザッたい、と思っている女。
友也は早速、この女に悪印象を持たれはじめているようだ。
「本当か! あ、俺友也。林友也」
「越前 葵(えちぜん あおい)です。上りだからって私のインテ、甘く見ないでくださいね?」
「女でも男でも、俺は手加減しない。バトル形式は?」
「先行後追いで、私が先行します」
今回のスタート地点は名物連続ヘアピン前の、さらに2連続ヘアピンの少し前からスタートし、駆け上がっていく。
ゴールはスケートリンク後の2連続ヘアピンをクリアして、その後のストレートを抜けたところだ。
まずは葵のインテRが先行で飛び出していく。それに合わせて友也のS13もスタート。
だが、友也は葵の走りを見て驚く。
最初のヘアピンから良い突っ込みを見せた葵は、そのままサイドブレーキを利用してFFにも
関わらずテールスライドを誘発。
アンダーステアを恐れない過激な走りで、コーナーの突っ込みで若干後れを取ってしまった友也だった。
(本当に女なのか? あれ…)
しかし過激さ・・というより、豪快さではこっちだって負けてはいない。
葵に対抗するかのように、ハイグリップタイヤでありながらサイドブレーキドリフトで連続ヘアピンを駆け抜ける。
立ち上がりではドリフトでロスしたコーナーの分を、ホイルスピンをなるべく押さえることで取り戻す。
加速がインテRより若干だが良い。向こうはこっちよりパワーが出ていなさそうだ。
(離れない…私にぴったりついてくる!)
それはそうだろう。葵の走り方は突っ込みは良いのだが、コーナーでは互角、立ち上がりが負けている。
そこに気が付いていた友也は、相変わらず豪快な走り方をしながらどこで抜くかを考える。
(早めに抜いて、50mの差をつけて終わらせよう。万が一向こうがスピンしないとも限らないわけだしな!)
そう考えた友也。連続ヘアピンの最後の1つを立ち上がり、そのままパワーを活かして葵の横に並ぶ。
目前に迫るは左コーナー。
葵は左側にいるのでイン側を取るが、すぐに次の右コーナーがやってくるのでここで左コーナーの差を取り戻す友也。
その後緩い左コーナーを抜け、目前に迫ってくるのは右ヘアピン。
イン側にいる友也はまずギリギリで一旦引き、葵を突っ込み重視でコーナリングさせる。
だが友也はその後の長いストレートに全てを賭け、立ち上がりでもたつく葵のインテRを右からパワー勝負でパスしていった。
その後はあっけなく50mの差をつけ、頂上についてもノンストップでUターンし、榛名の峠を下って
温泉街へ消えていった友也であった。