第4部第4話
赤城山へと向かった友也は、意外な事に驚いていた。
(榛名より攻めやすい…)
道幅が全体的に広く、最初こそ低速連続コーナー区間があるが、中盤以降はスピードの乗るセクションになっている。
そして最後には榛名と同じく連続ヘアピンがあるが、榛名より速いスピードでクリアできてしまう。
S13の挙動にもすっかり慣れ、夜ごとバトルを繰り返す。
かなり速い奴もいたが、何とかぎりぎりで勝利。それだけでは物足りないので赤城から直接榛名山へも行き、
スカイラインだけのチームを撃破していた友也であった。
その後何十人かのライバルを倒し、社宅に戻ると赤城のスラッシャーからのメールが。
赤城の上りで勝負しろ! との事で、早速次の日に仕事を終えて着替え、赤城へ。
するとそこには見慣れない、白の80スープラが1台。
(あれかな?)
そのスープラの隣にシルビアを停めると、中からドライバーが降りてきた。
だが、そのドライバーを見た瞬間友也は絶句。
(えっ…)
何と、パンツ1丁にスニーカーというふざけた格好。お前はそれで運転してきたのかと問い詰めたい。小一時間は問い詰めたい。
「はっはー! お前が噂のS13乗りだな? 俺とこの上りで勝負してもらおうじゃないかはっはー!」
正直「お断りだ」と言いたかった。正直に言いたかった。でも悲しいことに、こいつがここのスラッシャーであることは間違いなさそうだ。
絶対にバトルが終わったら、Uターンしてそのまま帰ろうと誓った。
「ど、どうも…。あなたがメールをくれた頭のおかしい人ですか?」
「失礼な! 俺は頭はまともだぞ! まぁいい。俺は矢部 洋司(やべ ようじ)。そっちは?」
「林友也です…。と、取りあえず早速バトルに行きましょう。バトル形式はどうします?」
「俺が先行する先行後追いバトルで勝負だ。俺が負けたら100万やるよ。榛名と箱根の奴からももらっているだろ?」
その言葉に、ああそういえば、と友也は思い出した。
スラッシャーを倒すと、街道委員会からボーナスが出る仕組みになったらしい。
そのボーナスとして、大字を倒したとき50万、松沢を倒したときに100万をもらっていたのであったが、
S13を買うときはその存在を忘れていたため、手をつけていなかったのである。
ここでこいつに勝って100万を手に入れれば、一気に格上のマシンを買うことが出来ると判断した友也は思わずニヤリ。
「どうした、ニヤニヤして…」
「何でもないよ。始めよう」
2台がスタート地点に並び、スタート。
しかし友也、いきなり矢部のスープラに追突しそうになる。
(うおっと!?)
それもそのはず、車重はS13の方が軽いのでスタートダッシュはS13の方が速い。
あわててアクセルから足を離して車間距離をとり、まずは連続ヘアピンをクリア。
…しかし、そのときにはもう友也は矢部の前に出ていた。
何故かって?
矢部は連続ヘアピン3つ目のブレーキングでミスを誘発。オーバーアンダーを繰り出し、そこをあっさり友也にインからパスされる。
立ち上がりでは軽いS13が引き離し、突っ込みも軽いS13の方が上。中盤の連続S字セクションに入るころには
矢部の視界から友也の姿は消え去っていましたとさ。
その後、矢部が上りきってきたのを確認し、速攻で赤城の山を降りて行く友也の姿があったのは、言うまでもない。
変質者とのバトルから数日後の晴れた火曜日。友也は2人の女を目の前にしていた。
1人はロータスエリーゼに乗ったオレンジ色の髪の女、もう1人はA190のベンツに乗った金髪の女。
金髪の女から
「赤城のスラッシャーを倒したという噂を聞いて、バトルしてみたい」
といったメールが届いたので、仕事が一段落した火曜日にやってきてみると、
もう1人別の女がいて、迷ってしまったのが数分前の出来事。
オレンジの髪の女が島谷 飛鳥(しまたに あすか)、金髪の女が高柳 美紀(たかやなぎ みき)という。
「どうしますか? 私はどっちでもいいですよ?」
「私もどっちでもいいですよー」
バトルの順番に困っていたが、このような返答が返ってきたので、まずはメールをくれた美紀からバトルすることにした。
先行後追いで友也先行。カウントは飛鳥が入れる。
「行きますね? 3,2,1、GO!」
今回のバトル区間は、中盤の連続S字区間から麓まで。最初はあまりスピードも乗らないので美紀が食いついてくる。
背の高いA190できちんとついてくるあたり、ドライビングが丁寧だ。
(勝てるとは思わないけど、がんばって食いついて行ってみよう…)
持てる力を全て出し切り、友也へ食いついていく美紀。
ブレーキング、コーナリング共に丁寧で堅実なグリップ走行で、友也のS13を追いかける。
しかし友也だって負けてはいない。連続S字区間が終了し、左ヘアピンを抜けて短いストレートへ。
ここでパワーを生かして美紀を引き離す。その後の右ヘアピンでもいい突っ込みを見せ、さらに引き離していく。
その後に来るのはダラ〜ンと曲がる左コーナーの後に、ゆるいコーナーが入ったほぼストレートの区間。
このストレートで思いっきり引き離し、連続ヘアピンセクションに入る前に150mの差をつけて終了。
「負けました…。勝てるとは思っていませんでしたけれども…」
「強いんですねー…。では、次は私とですね」
さっきと同じように、今度はS13とエリーゼが一直線に並んで同じく先行後追いバトル。
区間は友也が美紀を引き離しにかかった、最初の短いストレート前の左ヘアピン前から。
そして友也先行だ。
「行きますよ〜。3,2,1、GO!」
のっけから飛鳥は軽い車重を生かしてS13の横に並んできた。
しかもその後、ヘアピンへのブレーキングで、アウト側からなのにもかかわらず前に出られてしまう。
(げぇっ…前に出られたって事は…これはやばいぜ!)
50mの差をつけられて負けてしまうことはごめんだ。そう思って猛プッシュをかける友也だが…。
(あ…)
さっきの美紀とのバトルでブレーキとタイヤを消耗していた。…が、ブレーキはまだまだ大丈夫そうだ。
問題はタイヤ。少し消耗気味なのが気になる。
友也はターボパワーとグリップ走行でエリーゼに食いつき、パワーの差から来る中間加速で
美紀を150m引き離したほぼストレートの区間で抜き返すことに成功。
(やるーぅ)
飛鳥もエリーゼの超軽量ボディを生かして突っ込みのスピードを高めていく。
そしてその手にはなぜかケータイが。
どうもメールを打ちながら運転しているらしい。一般道で見つかったら間違いなく違法だ。減点と罰金だ。
それでも、それを感じさせない走りで友也のS13の前にもう1回出ようとしたが、もう連続ヘアピンも残り一つ。
何とかブロックしきって、友也が先行でゴールしたのであった。
赤城と榛名でのバトルを一通り終え、今度は隣の県、栃木県へ行けるようになった友也。
実は買いたい車は決まっている。そして変質者から100万も手に入れた。
次の舞台は日光のいろは坂だ。