第4部第5話


いろは坂に着いた友也。だが、その前に友也にはやることがあった。

S13ではこれから先、パワー勝負になってくるところも増えてくるだろうということで、チューンするよりは

パワーのあるマシンを買ったほうがいいだろうと判断。

3人のスラッシャーからゲットした金総額250万を使って、目的の車を買いに中古車ディーラーへ出かけた。



その車とは、友也が最近失った車だった。

(やっぱこれだよな。これでもう1度…あのS2000にリベンジだ!)

真っ白のR33、日産スカイラインGT−R・Vスペック。

諸経費、税金全て込みで総額237万円なり。残った金は取りあえず生活費に回す。


その代わり、R32からのGT−Rは重いので、取りあえず自分で軽量化してみる。

リアシート、内張り、オーディオを外し、S13から外したバケットシートを移植。

そのS13はR33を買うときに、ノーマルシートに戻して売却済みだ。

エアコンは現場で働くので、帰りに涼しく風を浴びて帰りたいという理由で外していない。



さて、石田が居た1年前は第1しか走ることができなかったが、今回新たに第2いろは坂も走れるようになった。

これを聞いた友也は、いちいち往復するのもめんどくさいので第1から入る日、第2から入る日を1日おきに設定した。

こうすることで第1の走り屋とも第2の走り屋ともいっぺんにバトルできるので手間が若干省ける。


とは言っても、主に狙うのは第1いろは坂の方。

理由は第2より狭い上に、先行できればライトチューンのR33でも存分に戦える。

第2は長いストレートが上りでは序盤、下りでは終盤にあるため、高速コースになりがちなのだ。

果たしてR33でどこまで戦えることやら…。



取りあえず、まずは何周かして第1と第2で連続でバトルしてみる。やはりこのあたりからハイパワー化が進んでいるようで、

第2は上り、第1は下りとまだ一般道であった頃の走れる向きに沿っていったのだが…。

第2、かなりきついです。

取りあえず勝てそうなライバルを見て、第1は根こそぎ集まっているライバルを片っ端から倒していく。

パターンとして、R33の4WDのロケット加速で先行、ブロックしたままゴールする。


幸いにも先行後追いで、友也が後追いの状況で挑んでくる奴はいなかった…。

ただCAバトルになると若干つらい。4WDの上にGT−Rにはお約束のアテーサET−Sシステムがついている。



アテーサET−Sシステムは、基本的には後輪をベースに駆動し、走行条件に応じて前輪にトルクを0:100〜50:50の範囲で配分する。

そのために、後輪へは直結状態で駆動力を伝え、前輪へはトランスファー部で分岐させている。

トランスファ部に組み込まれた湿式油圧多板クラッチの押し付け圧力を変えることによって、前輪へ伝達されるトルクの大きさを変化させるのである。

このクラッチを放した状態では、後輪駆動。クラッチを結合した状態では、リジッド4駆になる。この間を無段階に変化させている。


さらに、このシステムには、前後4輪の車輪速度センサと、横Gをアナログ的に検出するGセンサを付けている。

これらセンサからの信号入力を受け、コントローラが油圧多板クラッチの圧着力を変化させて、前後のトルク配分を決定する。

したがって、通常の後輪駆動状態から、後輪にかかる駆動トルクの増大で後輪のスリップ量が大きくなると、

前輪へも駆動トルク伝達を行う。前輪へ伝達する駆動トルクの大きさは、横Gの大きさと前後輪の回転速度差に応じて変化する方式としている。



簡単に1行でまとめると、後輪が滑ったとたんセンサーが反応し、前輪に加速力を自動的にかける機械が作動し、スピンさせないように制御するシステム。

アテーサを切る事も出来るが、戻すのがかなりめんどくさい。

このシステムのせいで、大きな角度をつけたドリフトができない。

が…これを逆に利用すれば、ちょっと危険だが驚くほど鋭いコーナリングも可能だ。



それを第1いろは坂のスラッシャーとのバトルで見てみよう。

第1の方を先に潰していったおかげで、先に第1いろは坂のスラッシャーから書き込みが届いた。

その後パーキングに行ってみると、見慣れない赤い外車が1台。しかもワゴン…いや待て、あれは…。


(まさか…アウディのRS6…!?)

そう、その車はアウディRS6アバント。こんな峠に外車かよ! と思ってはいけない。

RSモデルはボディ、エンジン、サスペンション、インテリアなどすべてが特別仕様のため、最終工程はネッカーズルムの

クワトロ社の工場でハンドメイドにより製作される。

特別仕様とはポルシェチューン。ポルシェの手によって製作されたマシンと言っても過言ではない。そんなマシンが何故ここに…?


と、そのドライバーらしき男がこちらに歩いてきた。

「あんたが噂のR33乗りって人?」

「は、はぁ…。林友也って言います…よろしく」

「僕は小笠原 雄也(おがさわら ゆうや)。やっぱりこの車珍しいかな?」

「珍しいも何も…なんでこんな車を持っている人が、ここにいるのかなって」

「あはは…僕、弁護士やってるからね…。それに、ワゴンだと思って甘く見ないでもらいたい。

少なくともそっちのR33GT−Rには負けないと思うよ?」


その瞬間、友也はその一言にカチンと来てしまう。

「そんなこと…やってみなきゃわからないでしょう?」

「論より証拠か。いいだろう。そっちが先行で僕が後を追う。逃げ切れるものなら逃げ切って見せてもらおうか?」



先行後追いでバトルスタート。予想通りものすごい加速で前に出ようとしてくる雄也だが、

友也はR33のでかいボディを生かしてブロック。

このいろは坂では意識しなくても、大きなボディがスペースを潰してくれている。

(ふうん…ブロック戦法とは考えるね)

大きなワゴンボディをぶつけないようにコーナリングし、狭いいろは坂を駆け抜けていくRS6。


しかしR33のコーナリングスピードが、なんとなく速いように感じる…?

(まぁ、向こうのほうが小回りは利くけど、ストレートで追いつける!)

しかしこの考えが後で、盛大に間違っていることを知ることなど思いもしない雄也であった。



最初のヘアピンに突入し、サイドブレーキを引いてジムカーナの要領でくるっと回り、ドカンと加速するR33。

雄也もサイドブレーキターンで回るが、何と立ち上がりで追いつけない。

(あれ…? 僕のミスか?)

その後もコーナー進入では少しR33との差を詰められるが、コーナリングと立ち上がりでは引き離されるRS6。

(何故だ…この車なら追いつけるはずなんだが…! …まぁいい、最後の後半セクションまで我慢だ)


だがしかし! R33との差は開いていく一方。弁護士は段々過呼吸気味になってきている。

「くぅ…追いつけないのか…? もう…駄目なのか?」

ブツブツと雄也は何か呟いている。危険だ。

車間メーターを見れば、もうそろそろ150mに達しようとしている。それを見て雄也、戦意喪失。

アクセルをオフにして敗北を認めたのであった。

まぁ、こんなワゴンで、こんな狭いいろは坂を攻めようなんて、その考えが間違っているんだと思わないでもない。


それにもう1つ。友也はあの危険なコーナリングを実行していた。

まずはヘアピンのかなり手前からサイドブレーキを引き、その間はアクセルではなくブレーキを踏みつけて、前へ行く力を横へ分散させる。

段々角度がついてきてスピードも十分に落ちたところでドン! とアクセル全開。

そうするとアテーサによりスライドが止まり、前へR33は進む。


前へと進めばそこはヘアピンの出口。サイドブレーキターンのロングバージョンである。

それを実行し、向きを変えるのにR33より手間取るRS6を置いてきぼりにしてゴール。

そのまま社宅へ友也は帰っていった。


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