Run to the Another World第53話


しかし、ハールが構えを解いて背を向けたその時だった。

「くっ……」

グラカスが恐ろしい程のスピードで素早く立ち上がり、ハールを背中から狙おうとする。

「!!」

狙われたハールは対応するのが若干遅れる!

だがそこに割って入ったのが浩夜だった。浩夜はグラカスに横から駆け寄り、ダッシュからの

キックでグラカスを思いっ切りぶっ飛ばした。

「往生際が悪いっつーの」


と、その時だった。

「強いのね、貴方」

「お?」

ぱちぱちと拍手が聞こえ、次に声が聞こえて来た方を見ると

そこには1人の眼鏡をかけた女が立っていた。

「え、貴方は?」

「第3騎士団団長のメリラよ。成る程、貴方達の実力は大体わかったわ。

結構出来る。それも、素手の戦いは私達には引けを取らない位ね」


そんなメリラと名乗った女にエリフィルが声を掛けた。

「メリラ! どうしてここに?」

「何だかここで面白い事をやっているって言う話だったから見に来たのよ」

「そう、か……。それよりも、貴方達は全員こう言った武術を使えると言う事なのですか?」

「そうだな。やっている武術は同じ奴も居れば違う奴も居るけど」

その浩夜の発言にエリフィルが少し考える素振りを見せた。

「そうか……なら勝手な願いだと言うのはわかっていますが、私ともどなたか勝負をして頂きたいと思います」

「ぬ?」

突然のエリフィルの発言に目を丸くする異世界人達。

「おいちょっと待てエリフィル! こいつ等は俺がぶちのめす!!」

「グラカスは今負けたでしょう」

「あれは俺の油断だ。今度こそ……!!」

ギャアギャア喚くグラカスを放って置き、エリフィルは前へと出ようとした。


だが。

「御前達、そろそろ部屋の方へ戻るんだ」

鍛錬場の入り口から聞こえて来た声の主は、宰相のアルバスの物であった。

「グラカス団長との対決は終わったんだろう? 御前達は軟禁状態だからな」

「アルバス様!」

エリフィルがアルバスに駆け寄って礼をする。

「エリフィル団長は引き続き訓練を続けろ。グラカス団長とメリラ団長は執務に戻れ」

「ちっ……わかりましたよ」

グラカスが悔しそうに舌打ちをして、メリラと共に訓練場を出て行った。


残った12人も部屋へと戻される事になったが、部屋に戻った所で意を決してアルバスに藤尾が話を切り出した。

「あ、あの……俺達、お願いがあるんですけど」

「何だ?」

「俺達、メンバーがバラバラになったじゃないですか。ですからそのメンバー達を探して欲しいなぁと思いまして」

アルバスはその藤尾の提案に顔をきょとんとさせる。

「それは王国で探せと言う事か?」

「ええ、まぁ……俺達だと限界がありますし」


しかしアルバスからの答えは……。

「それは出来ない。こっちも何かと忙しくてな。それに御前達の疑いに関しても完全に晴れた訳でも無い。

魔力が無い異世界人と言っても、他国の密偵と言う可能性も否定出来ないしな。それと他の貴族達との

用がたっぷりあるから、御前達はどの道後回しだ。それに、その件は御前達の問題であって俺達には

無関係だ。俺達に聞く事では無いだろう」

「……そうですか」

最後に少しアルバスに怒られるというおまけ迄藤尾にはついてしまう。どうやら、これはさっきのアレイレルの

提案の前者の方を取らなければいけなくなってしまった様である。

「まずいな、このままじゃあ他のメンバーに会う事なんてとても出来そうに無いぜ」

「そうだな。流石に貴族が起こした国とあって、庶民の願いには国民でも無い限りは余り聞き入れてくれそうに無いかもな」

「私達は向こうの世界でも平民だしね」

だったら、この城から逃げ出してさっさと他のメンバーを探したり、ドラゴンに会いに行ったりしなければならない。

そうしなければ自分達が地球に帰る事も出来なくなってしまうかも知れないのだ。


その日はそれで就寝し、この世界に来て2日目の朝。どうにかして城の外に脱出する手筈を整えたい所である。

まずは朝食を摂って、そこから城内を探索したいと申し出たが当然の様にNGが出た。

異世界人の存在はあの場にいた一部の貴族達しか知らないので、なるべく外に出す訳にはいかないのだと言う。

王国の協力も期待出来ない、脱出の糸口も掴ませてくれない。となれば、これは強行突破に出るしかないと言う事になった。

だが強行突破をすると言う事になれば、当然このシュア王国その物から追われる立場になってしまうのは明白である。

だけどそのリスクを差し引いたとしても、この世界に居続ける理由も無い。本音は穏便に城から出して貰えると良いのだが。

「とりあえず、俺達は後どれ位でここから出られるのかを聞いてみようぜ。それからでも脱走の決断は遅くないと思う」

「ああ。2〜3日で出られるんだったらそれから行った方がリスクは低いかな」

その事を国王のレフナスに聞いてからも遅くは無いので、今の時点で脱走計画は一時保留と言う事になった。


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