第6部第12話


群馬、栃木、長野と北関東の峠を制覇し、一旦東京に戻ってきた高山と竜介。

高山は竜介と別行動をとることにした。

竜介はそんな高山を見送り、箱根七曲へと向かった。ここもショートコースだったが、すっかり行くのを忘れていたのだ。


連続ヘアピンのあるテクニカルコースで、頂上付近には天候が悪くなると霧がかかることがある。

が、晴れ限定のショートコースなのでそんな事は心配無用。

いろは坂に似ているといえば似ているが、道幅が少し広めなので追い抜きがかけやすいのも魅力だ。

更にこのコースのライバルはあまりチューニングがされていない車ばかりで、入れ食い状態で撃破していける。

運のいいことに3日連続晴れだったため、連戦連勝の無双状態で箱根七曲を制覇しようとしていた。

こんなこと、他のコースではありえなかった。


だがその後2日、雨が続いた為に箱根のカテゴリーレースで稼ぐ竜介。

1日1日、毎日金を稼いでいかないと生きていけない。いくら金が貯まってきたとはいえ、これは今でも変わらない。

更に街道サーキットでバトルを重ねていく内、竜介にはある計画が浮かんだ。

それには高山の協力が必要だが、それよりも先に必要なのがまず金だ。金が無いとこの計画は成り立たない。


サーティンデビルズ、キングダムトゥエルブ、そしてスラッシャーと、賭け金を大量にふっかけて来るライバル達を

次々に撃破してきた今の竜介の銀行口座には、480万円が貯まっていた。

そこから200万を引き出し、インプレッサに更なる改造を施していく。これも計画に必要な事だ。

だが、まだこれでも完璧な改造ではない。




3日後。週明けの日曜日に天気が晴れになったため、竜介は再び七曲へ。

そこでここのメダリストと遭遇した。

またもや珍しい女の走り屋だ。ショートカットの髪が印象的である。


「こんにちは。よく最近ここで見かけますよね? バトルしませんか?」

「バトル? 俺と?」

「はい。あ、私メダリストなんです。私に勝ったらこのメダルをあげますよ」

「いいだろう。俺は野上竜介だ。よろしく」

「私は谷口 凛(たにぐち りん)です。…クッソウ!! ここの所負け続きで、ゲンが悪いわ。アナタ、私の幸運を呼び戻すキッカケになってくれない??」

「丁重にお断りさせてもらおう」

凛の車は緑の初期型のインプレッサ。GTウィングがついている。はたしてどんな走りをしてくるのだろうか?

SPバトルで、珍しく上りの勝負だ。


スタートはギャラリーにカウントを入れてもらい、まずは竜介が先行する。

470馬力までパワーアップしたインプレッサだが、ヘアピンの多いこのコースで、どれだけそのパワーを活かしきれるかだろう。

対して凛のインプレッサはライトチューンだが、コーナーを限界まで攻めてくる。

竜介に死ぬ気で喰らい付いてくるのだ。

(これは…女だと思ってどこかで甘く見てたが、それは完全に間違いだったな)


しかし上りでは、何があってもまずパワーが重要になってくる。

コーナーでどんなに頑張っても、直線で置いていかれては凛も勝ち目がない。

(あーあ…引き離される…もっとパワーがあればなぁ!)

パワーの差でぶっちぎった竜介は、凛からメダルをゲットすることに成功したのであった。



そして翌日も七曲で、残りの走り屋を倒す。待っていたのは、緑のランエボ1に乗った男であった。

「ん…おい、オマエ。ここらで珍しい車を見たこと無いか?? 何か丸目4灯でかなりボディの短い車なんだよ」

「いや、知らないな。…そうだ、俺は野上って言うんだが、良かったらバトルしないか?」

「俺と勝負するのか? いいぜ。俺は神堂(しんどう)だ」


ダウンヒルのフルコースで、珍しく竜介が先行。インプレッサとランエボのライバル対決だ。

「3,2,1、GO!」

パワーは竜介のほうが上らしく、司のエボ1を引き離す。

それでも司も、良い突っ込みを見せて食いついてくる。これでは200m引き離すのはつらいだろう。

(これは…良い突っ込みだな、あのランエボ)


仕方ないので、無理をせず、少しずつ差を広げていく竜介。

ラリーの世界ではクラッシュなんてよくある事。その影響か、普段の運転は慎重になりがち。

クラッシュしてリタイヤよりは、順位が低くても最後まで走り切る。そうすればチームが負担する金も少なくてすむ。

その結果、少しずつ差を広げた竜介は、司に130mの差をつけて先にゴールラインへと飛び込んでいった。



これで終わりか…と思っていた竜介であったが、何と司を倒した翌日、メールでバトルの申し込みが来た。



「野上さんへ。俺は箱根七曲である有名な車を探しているんだ。

君もこのステージ1じゃかなりヤルんだってね。

箱根のMMC大字から聞いたよ。良かったら

この七曲でも勝負してみようぜ。」



なんでも箱根のあのFTO乗り、大字健太の知り合いらしい。

そのメールに返信してPAに行くと、そこに停まっていたのはカルソニ…もどきのカラーリングが施された

日産のR32スカイラインGT−R。著作権法に引っかからないのだろうか?

その横に立っているのはメガネの男であった。

「すまない、ちょっと聞きたいんだが、メールで俺にバトルの申し込みをしてきた人は…」

「ん? あ…あんたか? この七曲で、連戦連勝を続けているインプレッサの野上って」

どうやらこの男で間違いなさそうだ。

「よく来たな? 俺は宮原(みやはら)。俺は首都高ではそれなりに名前が売れている走り屋なんだけど、それはここ、街道でも変わらないよ」


コースはダウンヒルのフルコース。LFで宮原が先行だ。

「3,2,1、GO!」

ギャラリーにカウントを入れてもらい、バトルスタート。

しかし何だか微妙な速さだ。遅いわけではないのだが、コーナーもストレートも、取り立てて速いというわけでもない。

何だか不思議な走り方をする、宮原のR32。


しかし抜かなければ勝てない。

この七曲は、後半に行くにつれて段々とヘアピンとヘアピンの間隔が長くなってくる。ということは、直線が長くなってくるということだ。

前半はとにかく我慢をして、後ろでじっくりと宮原の走りを観察。そして後半で勝負に出る。

後半で恐ろしいほどのアクセルの踏みっぷりから、直線で宮原をあっさりと追い抜く竜介のインプレッサ。

(恐ろしいぜ、このインプレッサのアクセルの踏みっぷりは…。この先は右のヘアピン!)

このスピードからブレーキングバトル。しかし宮原は勝負を捨て、立ち上がり重視でコーナリングをして抜き返すことに。

(ここは捨てる。立ち上がりで勝負だ!)

そんな宮原のR32を尻目に、竜介は限界まで突っ込み重視で突入。

その後ろでヒヤヒヤしながらそれを見る宮原。

(突っ込みすぎだろ…そんなんじゃ、曲がらねーだろ!?)


だがそんな宮原の思いとは裏腹に、竜介のインプレッサがヘアピンの先へ消えていく。

(何だそりゃ…!?)

立ち上がり重視でヘアピンを抜けたR32だが、インプレッサはすでに次のコーナーへ突入していた。

(いくら4WDでも…あそこまで切れた突っ込みは、俺には真似できない。狂気としか思えないぞ…)

文字通り、インプレッサは霧のように消えていった。戦意喪失の余り宮原はスローダウンし、決着が着いた。




翌日。今度は何と、市街地をそのまま使ったショートコース、横浜にやってきていた。

確かに名前の通り「街道サーキット」だが、ここは峠道じゃないだろう! と突っ込みを入れたくなった竜介。

だが、さすがにこんなところではライバルも少ない。

第4週目ともあり、月末には普通多くの走り屋が集まるのだが、ここは4台しかいなかった。

その4台とバトルをしつつ、竜介はちょっとしたげんなり感を感じていた。

(…狭い)

そう、狭い。やたらと狭い。抜けない。前に出られたらほぼ終わり。

しかしこの4人はFLかSPだったので、スタートの加速で頭を取るか、そのままブロックし続けてゴールするかで

連戦連勝で終了することが出来たのでよかった。


だが、そいつらを倒した後の、4週目の金曜日に出会ったライバルは、「天然記念物」であった。

いつの時代だよ、と言いたくなる様な「竹ヤリマフラー」、「出っ歯バンパー」と言った

昔の族車御用達のエアロパーツをつけた、ピンクのランサーエボリューション8。

正直に言ってキモ過ぎる。見ていると吐き気がする。

ネタとしてはありなのだろうか…?


そしてそのドライバーも、ピンク色の頭をしていた。

「この前…ここであの4人を倒したって言うインプレッサってのは、あんたか?」

「あの4人…ああ、ここで走っていた…」

「そうだ。俺は竹中(たけなか)。ここでは一応、俺が一番速いんだ。俺と勝負しろ!」

こいつともやるのかよ…とますますげんなりする竜介であったが、逆に言えばこの竹中に勝ってしまえば、もうここに用は無くなると言う事だ。

「…わかった」

「よーし、なら俺が先行だ。あ、それとだな。藤井には会ったか?? あいつの走りは、常に俺の背中を見ながら

磨いたテクニックだぜ。マシンを見て決め付けるなよ!!」

「藤井…ああ、あのR30の奴だな。と言う事は、あんたは師匠って訳か」

「そうだ。さぁ、行くぜ! 俺の身体はもう、長く無いしな…」


「3,2,1,GO!」

ギャラリーにカウントを入れてもらい、バトルスタート。バトルはLFで竹中が先行だ。

後追いは初めてだが、あの4人と走っていて気が付いた事がある。

ここでの抜き所は1つしかない。

前述の通り墓地の横を通るのだが、そこの路肩もコースとして使える。ここまで我慢して後追いで行き、一気に強引に追い抜くのが得策だ。

思いっきりギア比を加速重視にセットアップし、サイドブレーキターンで竜介は直角コーナーをクリアしていく。


対して竹中はガチガチのブロック走法で、抜かれまいとイン寄りのラインを走っていく。コーナリングスピードもかなり遅い。

(これは…危ないな)

強引に行かないと無理だろうな、と思い、墓地の横を通る直線で、コーナー立ち上がりから一気に仕掛ける竜介。

(何っ!?)

ぶつかるのが怖くないのか、と思う暇もなく、加速勝負であっさりと負けた竹中。

その後は族車エアロをつけたままでは、満足にコーナリングも出来ずじまいで、

竹中はあっさり振り切られてしまったのであった。




翌週。インターバルを取って夜のバトルを休んだ竜介は、特訓をしてきたという高山と共に再び六甲山へ。

高山が表六甲でサーティンとキングダムのメンバーを見たというのだ。

その高山は六甲山までトレーニングに行っていたらしい。やる気だけは十分のようだ。

はるばる高速を走って六甲へとたどり着いた2人は、まずは腹ごしらえにたこ焼きを食べに行くことに。

たこ焼きを食べながら話を聞くと、晴れた日にしか2台を見ることが出来なかったのだとか。


そして、その日の夜は天気が丁度晴れ。丁度良いタイミングだ、とばかりにPAへ向かうと、そこに待っていたのは黄色の三菱GTOと

緑の日産・R32スカイラインGT−Rの2台だった。あの志賀草津で出会った洋子と清次と、似たような車種である。

2人はその2台のドライバーに話しかけた。

「こんばんは」

「ん…ああ、こんばんは。俺等に用か?」

「ええ。サーティンデビルズとキングダムトゥエルブのメンバーですよね?」


すると、高山の言葉に、その2人の目つきが変わった。

「そうか…三上や蛎から話は聞いてるよ。インプレッサの野上竜介だな?」

「洋子から話は聞いていたが、確かに俺等に挑戦してくるだけの速さは持っていそうだ。緒美ちゃんに走りを教えていたって話だし」

2人とも、もう竜介の噂は知っているようである。

「その通りだ。俺が野上竜介だが」

「なら話は早い。俺はキングダムトゥエルブの錬次(れんじ)。このR32GT−Rに乗ってるよ」

「俺は稲本 明(いなもと あきら)。サーティンデビルズのメンバーだ。それで…まずどっちとバトルする?」

「なら…まずはGTOの稲本さん、あんたからだ」


その発言に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる明。

「いいぜ。連勝をしてノリに乗っている時は、最高のテクニックを見せる事が出来ると思うよ。そんな連勝記録に加わるかい??」

「お断りさせてもらおう」



「3,2,1,GO!」

高山のカウントでバトルスタート。錬次、明共に下りのLFで竜介が後追いだ。

表六甲を走るのは久々だが、コースレイアウトは覚えているので問題ない。後はこの明の腕がどれくらいなのかが見物だが。

洋子と同じく、重いGTOをスイスイとコーナリングさせる明。かなり上手い。

しかし、洋子と比べると車自体が遅い。あまりチューニングされていない様である。

加えてこのタイトな表六甲の下りでは、いくら凄くても重い車では何処かにロスが出てきてしまう物だ。

コーナー立ち上がりの加速は確かに凄まじいが、突っ込みで行けば遥かにインプレッサの方が上である。

(突っ込みで勝負だ!)


中盤には左、右と続く2連続のヘアピンコーナーがある。

ここで早めにブレーキングする明だが、重いのでアウトにふくらんでしまう。

(くそ…!)

そこには駐車スペースがあるので、アウトにふくらんでもぶつからずに済むのだが、そこでやや強引に竜介がインにインプレッサを食い込ませる。

(くっ!)

並びかけられた明。次はインとアウトが入れ替わり、明がイン側で竜介がアウト側の右ヘアピン。

しかし突っ込みは軽いインプレッサが有利。ブレーキングで明の前に出て、GTOにかぶせるようにインプレッサをターンさせる。

そしてGTOの、立ち上がりの加速を活かせないようにブロックをして、完全に竜介が前に出た。

こうなると後は、もう抜けるポイントがない。

最後までブロックし続け、竜介がまずは明を下した。



「さすがだな。緒美ちゃんの先輩だったってだけの事はある。弘樹を倒したのも頷けるぜ」

「実力は本物みたいだな。…なら、俊樹を倒した腕、見せてもらおう。そしてその後、たこ焼き食べに行こうぜ?」

(今言うことか? それ…?)

高山は錬次の発言に、空気を読め、と心で突っ込みを入れつつ、ああ、と曖昧に返事を返した。

「GT−Rは街道というシチュエーションでは最高のウェポンだよ。このマシンでサーティンデビルズを迎え撃つ!!」


続いては錬次のR32が前で、2戦目のダウンヒルバトルがスタートした。

GTO程重くはないが、やはり重量があるこのR32GT−R。

下りでは明のGTOよりも、速いコーナリングを見せるが…竜介から見れば全然追いつけるレベルだ。

(食らいついてくるか…!)

R32のハンドルを握りつつ、バックミラーをちらりと見る錬次。

アンダーステアの兆候を見せることなく、軽快に下りのコーナーへとR32を突入させていくテクニックは、

さすがキングダムトゥエルブのメンバーである。


(うまいな…)

しかし竜介も負けてはいられない。軽いインプレッサのコーナリング性能を存分に発揮させ、R32を追いつめる。

勝負をかけるのは明の時と同じく、あの2連続ヘアピン。

1つ目の左ヘアピンを抜け、並びかけよう…と思ったのだが、上手い具合にブロックされてしまった。

その次の右ヘアピンでのコーナリング。そこで気を取り直し、R32のインに並びかける!

(来た…!)

この後は緩い右コーナーの後、左ヘアピン。そして橋の直線が待っている。

右コーナーでイン側の位置になった竜介は、次の左ヘアピンに向けて錬次よりブレーキを遅らせる。

R32より車重が軽いから出来る事だ。

そのままアウトラインを保ったままコーナリングし、橋の直線にたどり着く前に、前に出る事に成功した!

(ウソだろ…あのラインからあんなコーナリングするって言うのかよ!?)

錬次はその走りにショックを受け、ズルズルと後退していった。



「俺のテクニックの無さが敗因だ。

正直、この街道の走り屋の能力をこのBBSで俺が

公にしよう。ヤツ等は一筋縄では攻略不可能だ。



「俊樹でも危ういライバルだぞ。

>俊樹

心してかかれよ。ある意味、THIRTEEN DEVILSより

手強い相手だぜ」


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