第6部第13話


錬次と明とのバトルを終わらせ、神奈川へと戻ってきた2人は続けざまに

栃木県のショートコース、八方ヶ原へと向かった。ここもまだ行ってなかったコースである。

某マンガでも登場したことのあるこのコースは、碓氷峠並みに狭い区間と、拡張された区間とのセクションに分けられている。

しかしコースとして使用されるのは、広く拡張されたセクションだけなので追い抜きがしやすくなっている。


と言う訳で、高山とコースを覚える為にバトルだ。

広いコース幅を目一杯使い、高山はRX−7を操ってコーナリング。それに対して4WDの加速力とスピードの伸びで対抗する竜介。

拡張された区間の始めから、終盤にはトンネルがありそこを抜けて少し上るとゴールとなる。

高山先行でスタートしたため、最後まで抜けはしなかったが終始煽り続けた竜介であった。


その後、地元の走り屋とバトルをする。だがレベルが高い…とは言えず、車的にも十分こちらの方が上なので楽勝。

あと少しすれば秋から冬になる。北海道がステージとして組み込まれている以上、その前に全てを終わらせておきたい。

その竜介の思いが通じたのか、その日から4日連続で晴れの日が続いた。

ここにたどり着いて3日目の週末には、このコースにいるメダリストとバトルする事に。


「へーえ、あんたらが噂のインプレッサとRX−7か。俺はここのメダリストの石井(いしい)って言うもんだけど、

俺に勝ったらこのプライズをやるよ。言っておくが、俺のGTOは速いぜ?」

「そうか」

石井の言葉どおり、彼の車は赤のGTO。何か最近、GTOとばかりバトルしているような気が…竜介はしないでもない。

「でもなぁ…。チックショー。もっぱらのライバルは、新幹線なんだよー。普通の車に勝ったって楽しくないだろーしさ」

「そ、そっか」

変な人だなぁ、と2人は石井を見て率直に思った。


珍しく上りで、竜介が先行である。と言ってもトンネル側からスタートするだけなのだが。

八方ヶ原はどっちから攻めても、初めが下りで途中から上りになる。



「3,2,1、GO!」

最初からハイパワーに任せたロケットスタートで、バンパーをつつくくらいまで接近してくる石井。

コーナーではインプレッサが速いが、直線ですぐに差を詰めてくる。振り切るのは無理だろう。

おとなしく振り切ろうとはせずに、先にゴールしてしまえば勝ちなのだ。


トンネルをくぐり、2連続で六甲と同じく左、右のヘアピンがある。ここでちらちらと隙をうかがう石井。

そしてその後には川が通っているため、その上に橋が造られた高速左コーナー。

石井がここで、竜介のインプレッサに強引に並んでくる。

(よっし、並んだ!)

だが、その後に待っているのは右、左、右、左と4連続の、通称「スネークヘアピン」。

ここのブレーキングでは軽いインプレッサが有利なので、あっさりと競り勝ち前に出る。

そのまま竜介のインプレッサがヘアピンでも差をつけ、2度と石井が前に出ることは無かった。




そして石井に勝った次の日。ここにもキングダムとサーティンの勢力は拡大してきていた。

オレンジのGDB・スバルインプレッサ(涙目)と、紫のトヨタ・JZA70スープラ。しかもスープラのドライバーは女。

その2人は竜介のインプレッサを見つけると、ひそひそと話し合ってこっちに向かって歩いてきた。

「すみません、ちょっと聞きたい事があるんだけど…」

「俺等が探している野上竜介って、もしかしてあんたの事か?」

何と女の方は、一人称が「俺」であった。正直こんな属性なんかこの世界には不要だ。


自分の事は隠しても仕方ないので、竜介は素直に認める。

「そうだが…」

「そうか、あんたが野上竜介か。俺らキングダムトゥエルブを次々と打ち負かしているって奴は?」

「俺等サーティンデビルズも結構負けているらしいからな。俺とバトルしてもらおう!」

「いや、俺が先だ!」

「いや、俺だ!」

その様子を見て高山が手を上げた。

「じゃあ俺がやるよ!」

「「あ、どうぞどうぞ!」」

「なんだこれーっ!」


こんな某3人組お笑いグループの真似なんかしていたって、話は進まない。

竜介はまず、オレンジのインプレッサとバトルする事に。

「俺か…いいだろう。俺はキングダムトゥエルブの良司(りょうじ)だ。それに、あんたの車選びは正解だ」

「え?」

「街道での最強スペックは4WDだよ。車選びの時点でつまずいている様な奴は走り屋の適性が無い証拠さ」

「そうなのか。よし、始めよう」

いつものごとく、LFで竜介が後追い、ヘアピン側からスタートだ。



「3,2,1、GO!」

スープラの女がカウントを入れ、バトルスタート。

(旧型のGC8でどこまで対抗してくるのか、じっくり見せてもらうぜ?)

良司はあの露出狂、軽部龍一とは同じ4WD乗りとしてお互いをライバルと認め、切磋琢磨を続けている。

勝率は良司のほうが良い様だ。

良司のインプレッサも龍一のエボ8と同じく、加速重視のセッティング。スネークヘアピンでの立ち上がりでは、竜介のインプレッサに勝るとも劣らない。

竜介のGC8から良司のGDB型になって車重が重くなった分、良司はパワーを出して補っているのだ。


コースが短いので早めに決着をつける必要がある。スネークヘアピンの4つ目で立ち上がり重視のラインを取り、

良司のGDBに右側から並びかける竜介のGC8。橋の上で横並びだ。

(う…わ!)

まさかここで並んでこられるとは思っていなかった良司は、ぐらついてしまい若干スピードを落としてしまう。

そのままサイドバイサイドで狭くなった橋を渡り、勝負はその先の上りセクションの左ヘアピンへ。


良司はイン側、竜介はアウト側。イン側の良司が有利かと思われたが、今回は違った。

(クソ…コーナーがきつい! 曲がれない!!)

進入ラインがきつくなり、良司は竜介より早めにブレーキ。

引いた良司を尻目に竜介は、ブレーキングからしっかりアウトインアウトでヘアピンを曲がり、良司を抜き去った。



「次は俺か…」

良司の敗北を知った女が、緊張した面持ちになってスープラに向かって歩いていった。


…だが乗り込むのかと思いきや、女はトランクからスパイクタイヤを取り出してきた。

「俺に勝ったら、このスパイクタイヤをやるよ。そろそろ雪が降ってきそうな時期だからな」

「えっ…?」

事実、雪が降って来そうな時期ではあるが…まぁ貰っておいてもいいだろう。

「緒美ちゃんの先輩でも、俺は全力で相手させてもらおう。サーティンデビルズの四天王として、無様な走りは出来ないからな」

「「何だって?」」

高山と竜介の声がシンクロする。そんな四天王などという言葉は初耳だ。

「俺は四天王の中でもトップだ。後の四天王は3番目の弘樹に、トップバッターの明、それからもう1人。

そいつは九州の阿蘓山に配置されているんだってよ。そして俺の名前は真由美(まゆみ)

首都高での目標は8割がた達成できたと思っているわ。今度は街道制覇で、サーティンデビルズが完全掌握よ」

「あ、今女っぽくなった」

「な、なってねぇよっ!!」

高山の指摘に、真由美はすぐさま大声で否定した。

それにしても、GTOの明、FCのRX−7の弘樹も四天王だったのか。と言ってもあまり印象には残っていなかったのだが。

この真由美は四天王のトップの位置にいるだけあり、どんな走りをするのか楽しみな竜介である。



「行きます! 3,2,1、GO!」

高山の手が振り下ろされ、最初からものすごい勢いで飛び出した真由美のスープラ。

良司のインプレッサより明らかに速い。


(そ…そこまで加速力があるのか!?)

すごい戦闘力だ、これでバトルになるのか? と竜介は心の中で呟くが、そこはテクニックでカバーするものだ。

最初の左コーナーではじりじりと引き離されるが、次のだらーんとした右コーナーでアウトからアプローチ。

左足ブレーキも併用し、スープラとの差を詰めていく。

(つめてくるなー…でも、俺も負けてらんねぇ!)

その後のストレートではまたもや引き離されるも、次のスネークヘアピンで良いブレーキングを見せて差を詰める。


だが立ち上がりで抜けない! さてこれは困った。

どこかにまだ隙があるはずだ! そう考え、ヘアピンを抜けた後の、橋の高速右コーナーでじっくり動きを見る。

すると、アクセルオンのタイミングが早すぎて、真由美は終始アンダー気味なのを発見。

そこに目をつけた竜介は、次にやってきた上りの左ヘアピンで勝負をかける。

アクセルオンのタイミングが早すぎてアンダーを出し、2度減速しなければいけなくなった真由美に対し、

竜介は左足ブレーキも一緒に使って一気に接近。立ち上がりでスピードの差を生かして横に並びかける。


そしてやってくるのはトンネル前のきつい右ヘアピン。そこで一旦引いた竜介はアウト側からコーナリングし、加速体勢を

真由美より先に作って、真由美が加速し始める前に一気に立ち上がりで抜き去る。

その後にすぐ来る左コーナーでさらに差を広げ、なるべく差を詰められても大丈夫なようにして右コーナーへ。

そこのブレーキングで差をつけて、その勢いで真由美を一気に突き放して決着をつけた竜介であった。



「KINGDOMの4WD乗りとしての威厳が

昨日のバトルではガラガラと崩れ去ったよ…

こんなのではTHIRTEEN DEVILSにも勝てない!!

イチから理論の組み立てなおしだな。」



「ここ八方ヶ原もTHIRTEEN DEVILSが手に入れるハズが

予定がなんだか狂ってきている…」


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