第6部第14話
八方ヶ原を終わらせ、本コースの舞台は山形県へと突入した。
友也も走っていた、温泉で有名な蔵王のコースだ。
ストレートが長く、高速コーナーが多いこのコースでは今までのセッティングでは勝てないだろう。
それを考え、少し銀行口座から金をつまんでインプレッサを改造。530馬力を搾り出すまでに至り、軽量化も施された。
ギア比は5速全開で210キロくらいまで出るようにセットアップし、高速コース向きのセッティングで対応する。
このコースではさすがにハイパワーのマシンが多く、2人も苦戦気味だ。
それでもヘアピンコーナーがあるのでそこで差をつめていき、追い抜いたり引き離したりしていくのだ。
最高速なんてものは必要ない。
この狭いコースで、壁を恐れずにどれだけ踏み切れるかが勝負の鍵になる。
その後、あらかたのライバルを倒した竜介に、蔵王のスラッシャーから挑戦状が届いた。
「遂にこの時が来た…
ABSOLUTE EMPERORという称号を受けたという理由
今ここにイヤという程見せてやるよ。
これは蔵王PAを仕切るとか、そういった意味はない。
単純に俺とオマエ、どっちが速いか試したいだけなんだぜ。
サーキット、ラリーであらゆるノウハウを得た俺に「負け」は無いんだ…」
メールに返信した後蔵王PAへ。そこには白いクリオV6が1台…。
「あれか…」
そう呟きつつそのクリオの元へ向かう竜介。
すると、竜介に気がついた男が声をかけてきた。
「何だ…何か用か?」
「あのBBSの、アブソルートエンペラーってのは…」
「…そうか、君が…。俺は川端 掛(かわばた かける)。このクリオV6はすごいんだ。俺の腕にも存分に応えてくれる。
さぁ、どっちがこの蔵王最速にふさわしいかはっきりさせよう」
「そうだな。俺は野上竜介だ。勝負は…」
「俺が先行の、先行後追いバトル。下りでフルコース使って勝負と行こう。アブソルートエンペラーの称号に恥じない
その走りの前では、如何にお前のテクが無力だって事を教えてやるよ」
と言う訳で、高山にカウントを入れてもらう。
クリオV6自体かなり珍しいマシンなので、どんな走りをするのかが楽しみだ。
「3,2,1、GO!」
2台がスタート。しかし川端のクリオはやたら加速が良い。
スタートダッシュからいきなり引き離される。
(く…速いな!)
これには竜介も絶句。なんせ、最初のダッシュで負けることなどあまり例を見ないからである。
だが、コーナーへの突っ込みはこっちが勝っている。コーナリングは互角…。
高速コースなので後半に行くにつれ、このコースはストレートが長くなってくる。
その前に抜き去ってしまわないと絶対に負ける! そう考え、最初から猛プッシュをしてクリオに揺さぶりを掛ける竜介。
しかしクリオも踏ん張る。
頂上から少し下った所には、左高速、少しだけスピードの落ちる右、そしてすぐ左高速コーナーといった連続コーナーがある。
そこの左高速コーナーをアクセルオフで進入し、イン側に寄ったクリオは早めにブレーキング。
そこのアウトから思いっきりブレーキを遅らせ、サイドブレーキも使って一気に減速する竜介のインプレッサ。
暴れるリアを押さえ込んで、コーナーを立ち上がったときには、クリオの前に出ることに何とか成功。
(アウトから…あれだけの突っ込みが出来るのか!?)
元々ストレートよりコーナーの処理が川端は上手い。が、竜介の突っ込みはそれを上回っていた。
しかしこれで引き下がる川端ではない。パッシングをして竜介に揺さぶりを掛け返していく。
(…危険だ!)
思わずバックミラーをひっくり返す竜介。そしてそのままアクセルを踏み込みストレートへ。
その先には左ヘアピン。ここで思い切り奥まで突っ込み、コーナーの途中で1速に入るくらいまで減速する。
そしてノーズが出口を向いた瞬間、ドンとアクセル全開。まるでV字のようにターンする。
すると、何と立ち上がりで早くアクセルを踏めたのか、その影響でクリオが25mは離れた。
(お、これは…!)
だらーんとした右コーナー、ストレート、同じくだらーんとした左コーナーを駆け抜け、右ヘアピンに突入。
ここでさっきのV字ターンをもう1度思い出してやってみる。
まずはかなり奥まで突っ込んでフルブレーキ。サイドブレーキも合わせて1速まで落とす。
そうして一気に向きを変え、出口が見えたところで豪快にアクセルオン! するとやはり離れていく!
これはいけると竜介は踏み、その次の左ヘアピンでもそのターンをもう1度。そしてそこで50mの差をつけ、バトルは幕を閉じたのであった。
「どうやら例の走り屋と俺たちは、互いに協力して
あのTHIRTEEN DEVILSを打倒しなければならない様だ。
昨日のバトルでの意味、そう受け取ったぜ。」
川端に何とか勝てたのは良かったが、クリオに負けそうになったのは事実。
もう少し改造が必要かな、と思う竜介。
そして、ここでは先にサーティンのメンバーに遭遇した。鈴木流斗と同じく、赤いトヨタのヴェロッサである。
更にドライバーは外人だった。
「どうもこんばんは」
「ど…どうも」
「外人ってやっぱり珍しいでしょ?」
「え…ええ。でも前にも外人の走り屋に会ったことがありますので…」
すると、ヴェロッサの男の顔つきが変わった。
「ああ、それならアレイレルさんの事かな? 僕もサーティンデビルズのメンバーだからね。僕はハール。よろしく」
「野上竜介だ」
「高山信幸です…」
キングダムのメンバーとは、お互い晴れの日に曜日を入れ違えて走っているのだとか。
ハールは・火・木・土曜日。キングダムのメンバーは月・水・金だそうな。
「じゃ、始めましょうか。首都高でその名を欲しいままに、数々のバトルで勝利してきたこの魂、街道でも轟かせてみせるぜ」
ハールとは下りのフルコースでLFバトルだ。
最初の直線では何と引き離される。ハールのヴェロッサは恐ろしいほどのパワーが出ているみたいだ。
しかしコーナリングは圧倒的にインプレッサが有利。やはり重たいヴェロッサにはつらい様だ。
緩い右コーナーからきつい左ヘアピン。
ここの右コーナーでアウト側から並びかけ、左ヘアピンでインを取ってハールを抜き去る。
だがその後の直線で、ハールのヴェロッサが差を詰めてくる。あの大きなボディがどんどん大きくなってくるのは威圧感たっぷりだ。
(怖いな…!)
しかしこの後は若干低速コーナーが連続するので、そこで思いっきり引き離して勝利。
勝負には勝ったが威圧感に負けた竜介は、高山と共にそそくさとコースから離れる事にしたのであった。
「もっと純粋に、あの走り屋とバトルをして
みたいモンだぜ。ここ蔵王ではウチ等の負けを
BBSで認めよう」
その次の日。またしても晴れの日に出会ったのは、キングダムの白いトヨタのJZX100・マークK。
「現れたな!! リーダーの言う通りだ。サーティンデビルズなんかより、オマエを堕とせ上からの命令なんだよ、覚悟!!」
「…の前に、名前だけでも教えてくれないか?」
やる気たっぷりの相手の発言をクールに受け流し、竜介は男に問う。
「俺は雅史(まさし)だ。よろしく。キングダムトゥエルブのメンバーだ」
「ああ、よろしく」
「ところで…1つ質問して良い?」
いきなりの質問。何か重要な事なのだろうか?
「オランダ製の財布って…誰のだと思う?」
何だその質問は…。
「…さぁ?」
「正解は、おらんだ! だからオランダ! なーんつってよ! ははは…」
体感温度が3度は下がったのが、言うまでも無く解った。
どうもこの雅史という男、寒いダジャレを言うのが得意な様である。しかしバトルとなれば話は別であった。
ハールと同じくLFで雅史が先行。スタートして竜介が気がついたことは、雅史のマークKの加速がやけに良いのだ。
その秘密は、雅史が限界まで軽量化をした事にあった。
リアシートはもちろん、内張り、助手席、エアコンユニットまで取り外され、快適装備などは皆無だ。
だが肌寒くなって来たこの時期、暑さは心配無用である。
ノーマルで1420キロの重量を持つマークKは、今は1200キロまでそぎ落とされている。
だがブレーキでは、やはり元々の重量もあってかインプレッサより早めにブレーキが必要。
対して竜介は、1050キロまで軽量化されたインプレッサでマークKを煽る。
しかし、直線のスピードが違う。
(コーナーはこっちが勝っている。だけど、ストレートのスピードが違う! 一体何馬力出ているんだよあのマークKは?)
さて困った。抜けるポイントはというと…。
(少し強引だが、あそこで仕掛けられれば…!)
マークKのテールをジッと見つめつつ、ドリフトは封印して狭い蔵王を駆け抜ける。
左のきついヘアピンを抜け、少し加速して右中速コーナーを曲がり、また右を曲がって左ヘアピンへ。
ここで竜介はアウトから思いっきり進入していく。
(外から…!)
ミラーでそれを見た雅史は自分もアウト側にマークKを寄せて、ブロックしつつコーナリングしようとした。
しかしそれは竜介のフェイント。
1速まで落とし、低速から一気に加速して開いたインに飛び込む竜介。
(な…にぃ!?)
そこで完全にサイドバイサイドになり、大きなボディをぶつける事を恐れた雅史はアクセルから足を離す。
そこで竜介が前に出る事に成功!
少しだけリードしたまま、そのまま竜介が先にゴールした。
「完全にこのKINGDOM TWELVEのテクニック上での
負けを宣言せねばなるまいね。」
突如現れた走り屋に蔵王の王者「イエティファング川端」が倒されたニュースは瞬く間に響き渡る。
アブソルートエンペラーの称号は一夜にして、完全にそのブランド力を失った!!
数々の塗り替えられたレコードは、伝説となる事だろう…
そしてステージは、更なる次元へとステップアップする…