第6部第15話


九州・阿蘇山。友也がかつて、ここのコースで森本智史と決着をつけたこの地に、高山と竜介が足を踏み入れた。

高速コースであるここで、また新たなバトルが幕を開けようとしている。

ひとまずフェリーを使って九州までやってきた2人は、宿を取った後に阿蘇へ向かう。

カテゴリーレースに積極的に参加し、2人でバトルもしたりしてコースを覚える。

蔵王よりはコーナーも多く、高速区間と低速区間の差が激しいこのコースは、メリハリのある走り方が大事である。


そしてここで、最後のメダリストと遭遇した2人。何と雨か嵐の日にしか走りに来ていないのだとか。

「ここらじゃ見ない顔だな。どうだ、メダリストの俺とバトルしてみないか? 俺は横田(よこた)だ」

横田の車は珍しく、GGAのインプレッサワゴン。STIバージョンではないので2重に珍しい。

「阿蘓にはミラクレスサミットがいるから安心だよな。なんたって彼らは、プロの世界の走り屋だもんな」

「ふむ…」

プロ、と聞いて、竜介は期待と不安に胸が包まれた。



勝負はSPバトルの下り勝負だ。

「3,2,1,GO!」

最初の加速からあっさり引き離すことは出来たが、左コーナーの後に右ヘアピンが来るのでブレーキ。

だが後ろの横田はとてつもない突っ込みで急接近してくる。しかもそれでもブレーキングが間に合っている。

ブレーキングの腕がいいのか…?

しかしその後は530馬力を活かして全力で引き離し、あっさりと勝利。これで終了とはあまり歯ごたえが無かった。


だが横田を振り切った直後、入れ違いに接近してくる1台のマシンが。

とりあえず今はバトルする気がないので、ハザードを出して減速。そのままハザードを点け、PAまで逆戻りする。

竜介を追ってきたのは黄色のランエボ8だった。そしてその中から1人の男が出てきた。

「さっきのバトル見てたけど、横田をあっさり振り切るとは大した奴だな」

「何だ…? あんた」

「俺は勇介(ゆうすけ)。俺とバトルしてもらうぜひゃっはー!」

何だかやけに、テンションが高いような気がする。



バトル形式はLFバトル。勇介が先行だ。

「3,2,1,GO!」

スタートダッシュではエボ8がインプレッサを引き離す。相当改造されているようだ。コーナーは…何だか荒っぽい運転で駆け抜けていく。

決して遅い訳ではないのだが、このまま先行させておくと危険だ。

竜介は決心すると、中速コーナー区間から、タイトコーナー区間に入った途端に

インを突いて、本気でエボ8を追い抜いたのであった。


その後。阿蘇のコースにも慣れた竜介の元に、ついにここのスラッシャーから書き込みがあった。



「例の彼が遂に、MIRACLES SUMMITの哨戒ラインに触れてしまった様だ。

いよいよ今夜辺り、俺も出て行く事になりそうだぜ。

サーキットで鍛えた腕がうなりを上げるぜ!!」



何とまだ、噂によると19才の走り屋らしい。阿蘇で決着をつけよう、というので新品のスリックタイヤを履き、

ブレーキパッドも交換して、万全の体制にしてPAへ向かう。

そこにはラリーで使うヘッドライトを装着した、黒いGDBインプレッサ(丸目)が停まっている。すごい威圧感だ。


そのGDBの前にGC8を停めると、中から1人の男が降りてきた。

「やっと来たね…。あちこちで噂を残している貴方とインプレッサの話は聞いてるよ。「ミラクレスサミット」こと、神流 充(かんな みつる)です」

「野上竜介だ。若いんだな? いくつだ?」

「19歳です」

「天性の才能か。望む所だ…。君を倒し、ここを制覇させてもらう」

「…よし、じゃあ始めましょう。先行後追いで俺が先行。下りのフルコースで勝負だ!

阿蘓のエモーショナルキングなんて過去の話。今やミラクレスサミットを超える者はいないんだよ」


スタート地点に2台が並ぶ。このバトルの噂を聞きつけたギャラリーがコース外に並んでいる。

中には榛名や六甲から来たのもいるらしい。

「カウント行きます! 3,2,1、GO!」

ついに阿蘇のバトルがスタートした。充のGDBはとんでもない加速で、GC8を引き離す。

下りのスタート直後は長いストレートなため、あっという間に80m近い差をつけられてしまった。


しかし充は立ち上がり重視なのか、かなりヘアピンの手前でブレーキング。一気にV字ターンを決めようと突っ込み重視で

竜介は差を詰めるが、ちょうどインが開いていたのでスパッとオーバーテイク。

(よし、後は逃げるだけ…!)


だが、抜かれた充は闘争心をむき出しにして、コンコンとバンパーをつつきながらGC8にすさまじいまでのプレッシャーをかける。

(くっ…でも今は先行しているから、大丈夫、大丈夫…!)

ミラーをひっくり返して後ろを見ないようにし、立ち上がり重視の走りをする充に対して、竜介は突っ込み重視で応戦。

コース幅を目いっぱいまで使い、GDBを引き離そうとするも、脅威の加速力でくらいついてくるGDB。



最初の連続コーナーを抜け、右にだら−んと曲がるコーナーを抜けるとストレートへ。

ここでは道の中央を走ってブロックし、その先の左、右、そして直角左と続く連続コーナーでは

直角コーナーでサイドブレーキを引いて小さくクリアする竜介。

そしてサイドミラーをチラッと覗くと、直角コーナーの立ち上がりでGDBがもたついている。

(あれ? もしかして…)


何かに気がついた竜介だったが、それでも鬼のような加速をする充のGDBに考えを振り払う。

(そこまで加速するのか!?)

その後の短いストレートではテールトゥノーズ。しかしこの区間は狭いため、前に出ていればこっちが全然有利。

そこの後はまたいくつかコーナーがあり、その後にまたストレート。


(まずいな。このままでは逃げ切られる!)

このストレートを駆け抜け、下りながらの高速S字コーナーと左ヘアピンを抜け、右コーナーを抜ければゴールだ。

充はまずストレートとS字コーナーで差を詰める。

そして左ヘアピンへのブレーキングで一気に差を詰め、竜介のインに飛び込む!

(来たか! だが、君は大事な事を忘れているようだな)

左ヘアピンでインに飛び込んできた充を見つつ、アウトで踏ん張ってコーナリング。

ここは直角コーナーと同じく1速で曲がる。


そして最後の右コーナーを立ち上がり、加速に移る2台だったが…。

(…滑った!?)

さっきの直角コーナーでは1速で立ち上がったときに、ついてこようとするあまり、アクセルを踏み込みすぎてふらついていた充。

そしてここでもそれが出てしまい、立ち上がりでふらつくGDBを横目に、竜介が先にゴールを切ったのであった。

現在阿蘇最速の男が、この瞬間敗北したのである。



「昨日のバトルは俺も善戦したつもりなんだがな。言い訳をするつもりはないぜ。

こうやってBBSに書き込む事で、自らの敗北宣言をみんなの前でするよ。」



そしてここでは、雨の日にキングダムのメンバーに遭遇した。何と女だ。

その横にはラリー仕様のシトロエン・クサーラクーペが停まっている。だが女は特にバトルを仕掛けるわけでもなく、

ただ走っている車を見ていたので、気になった高山が声をかけてみる事に。

「すみません…」

「はい、何でしょうか?」

「いえ…こんないい車に乗ってるのに、走らないのかなって思いまして」

「あ、ありがとうございます。車見てる方が好きなんですけど、バトルなら受けて立ちますよ?」

「え、いいんですか?と言ってもバトルするのは俺じゃなくて、この人ですけど…」

「はい。先行後追いで、私が先行します。確かミラクレスサミットを破ったのはあなたですよね?」

「ああ、ぎりぎりだったが」


しかしその言葉に、女は首を横に振った。

「勝ちは勝ちだと思いますよ。あ、私は知子(ともこ)です。よろしく。キングダムトゥエルブのメンバーです」

「野上だ」

「野上さんですね。最近のリーダーの発言にはついていけない所があるんです。何故アナタをこの場所から追い出さなくてはならないの??」

「えっ…?」

コースとルールは充の時と全く同じ。果たしてどんな走りを見せてくれるのか。そして知子の意味深な発言の意味は…?



最初は知子のタイミングでスタート。知子のクサーラは、加速が充のGDB並にすごくいい。

(うわ…デジャヴ…)

だが、知子のコーナリングは立ち上がり重視。1コーナーで同じく早めに減速した知子を、何とアウトから突っ込み重視でパス。

立ち上がりで竜介はぎりぎり前に出る事に成功。


しかし知子も負けじとくらいつく。突っ込みも良い。1コーナーでは見られなかった鋭いブレーキングでついて来る。

(すごい…うまいな)

ここの速いドライバーは抜かれてから本領発揮するのか? と思わざるを得ない。

それでも、きついコーナーの突っ込みと立ち上がりでは、インプレッサが速い。

だらーんと曲がる右コーナー後のストレートから、あの直角左コーナーまでの区間で

一気に50mの差をつけて勝利した竜介であった。



「リーダーは、単に街道制覇に邪魔な勢力排除に

躍起になっているだけです。私、彼をあまり良い

人だとは思いませんが、今回ばかりは彼より、

THIRTEEN DEVILSを脅威に思ったから、

彼の行動に賛同しただけです。リーダーの名は、

「上原 隆」…



そして晴れた日には、サーティンデビルズのメンバーに遭遇した。しかしこの男が何とも性格の悪い男で…。

「あんたが僕等、サーティンデビルズを壊滅させようとしている、インプレッサの野上さん?」

「そうだが」

「へぇ…そうか…。僕は岸 泰紀(きし やすのり)って言うんだけれど、四天王は僕以外全部やられちゃったって言うしなぁ。

どんな車に乗っているのか、ちょっと見せてくれる?」

この男が最後の四天王らしい。



「でたっ! インプレッサ」

車の周りを一周してから、感想を正直に口に出す岸。

「峠にこんなの持って来たら敵無しだろうねぇ。ハイパワー4WDなのに理想的な重量バランスで、操作性も高いらしいねー。

キミさ…これだけのクルマに乗ってたら、勝って当然だよ。逆に負けたら完璧にドライバーのせいになるだろうね。…ししし」

「何ぃ!?」

高山がかっとなって岸につかみかかろうとしたが、竜介は手でそれを制した。

「竜介…」

「言わせておけ」

「でも…」

「いいから」

そんな2人を尻目に、さらに岸は続ける。

「インプレッサで負けたりしたら、本当にかっこ悪いかも…ぷぷぷ」


一通り話し終わった後、とどめの言葉を竜介達に向かって吐き出す岸。

「それにしても、わざわざ神奈川から来たのに、なかなかバトルできなくてさー。サーキットで鍛えた僕のテクを、見せてやろうと思ったのに…。

…そうだ。せっかくだから君と走ってあげようか? 僕のスーパーテクを見たいだろ?」

もうどうしようもない奴だな…と、竜介は心の中でため息を吐いた。

岸の車は国産スーパーカーの、黄色いホンダNSXタイプR。

新型なので裏六甲のスラッシャー、矢口の車と同じだが、レモンのように明るい黄色なので夜でもかなり派手だ。

「俺達の目的はただ一つ。貴様等をこの街道より一人残らず堕とす事だ。その邪魔をする奴は誰だろうと叩く!!」


勝負は下りのLFで、岸が先行。竜介はNSXのテールを見つめながら、心の中で呟く。

(あれだけの大口を叩くってことは、どんな走りをするのか期待だな)

「3,2,1、GO!」

アクセルを吹かして、高山のカウントで2台はロケットスタート。

最初は4WDのトラクション性能で、竜介が岸のNSXに対してバンパープッシュを仕掛けるくらいにまで接近。

しかし、岸もしっかりブロックをして竜介を抜かせはしない。

(最初から前に誰が出すかっての?)

最初の直線からの右ヘアピン。ここではNSXは立ち上がり重視なのか若干早めにブレーキング。

充とやったときのように、インから抜こうとする竜介だが…。


(…抜けない…)

上手い具合にブロックされ、立ち上がりでまたNSXのテールを拝む竜介。

その後も突っ込みで抜こうとするが、やっぱり上手くブロックされてしまう。

どうもこのNSXの岸という男は、ブロックに関しては上手いらしい。


じゃあその他はと言えば、直線はNSXのパワーが存分に発揮され、かなり速い。

コーナーもヘアピンに近い低速コーナーを、うまくドリフトを使ってカウンターを当てつつ抜けていく。

が、たまにオーバースピード気味なのか、数回に1回はガードレールにボディを擦らせている。

決まったときは物凄く速いのだが、そこでロスが出ている。

そこを竜介は抜くために利用しよう、と考える。


コースは中盤に差し掛かり、連続して襲い掛かってくる5連続のコーナーを抜ける2台。

その後に待ち構えるは少しの直線。ここで竜介は勝負に出た。

(この連続コーナーの、この5つ目の右ヘアピン、ここをコンパクトにまとめて…!)


アウトいっぱいまで膨らんで立ち上がるNSX。やはりオーバースピード気味で路肩にタイヤを突っ込ませていく。

「くーっ! 今のコーナーの突っ込みは、さすがに心臓バクバクしたよぉ! …どんなもんだい、絶対についてこれるわけが…あれ?」

自分の技術に自画自賛しながら、ちらりとバックミラーを見る岸。

しかしそこにインプレッサのヘッドライトは無い。

その代わりに、そのヘッドライトは自分のNSXの横から現れてきたのである。

「は…?」


(行くぞ、勝負だ!)

路肩にタイヤを突っ込ませ、更にオーバースピードでラインに修正を入れなければならなくなった岸のNSXのロスを

チャンスとし、竜介はインプレッサのパワーとトラクションで右から並びかけていく。

ここは少し変わったセクションで、下り勾配がついた直線の後に左、右、きつい左とコーナーが襲ってくる。

上手くブレーキングしなければ、アウト側の壁に激突してクラッシュだ。

ここでのブレーキングでは、竜介も気を使うのだとか。

(だが…ここであいつを抜かなければ、この先もブロックされる!)


サイドバイサイドのまま、NSXとインプレッサは左、右とクリア。岸と竜介はブレーキングバトルになる。

しかし、ここで岸の目の前に、愕然とする出来事が。

(こ、コーナーがきつい! …曲がれない!?)

そう、岸はイン側のポジションではあるが、かなりきついコーナーなのでイン側ではかなり減速しないと曲がれない。

対して竜介は、かなり減速しないと曲がれないのは岸と同じであるが、アウト側から進入するため少しだけラインに余裕がある。


この瞬間、バトルの決着はついた。

早めに減速しなければならなくなった岸のNSXを、アウトからオーバーテイクした竜介。

そのまま2台でツインドリフトで左コーナーに入り、綺麗に姿勢を決めて立ち上がる。

そして抜き去っても後ろを見ないまま、竜介は岸をぶっちぎってバトルは終了した。



「THIRTEEN DEVILSのメンバーに入っているという

だけで、こんなに素晴らしいバトルが簡単に

味わえるとは…これは止められないよ。

この先には、どんな夢があるのだろう・・フフ。



センセーショナルなデビューを果たした1人の走り屋により、阿蘇の王者「スプレマシーマーダー神流」堕ちる!!

その完璧過ぎるミラクレスサミットの牙城が、一夜のうちに落城するとは誰が予測できた事だろう!?

次々に巻き起こったミラクルは、この先も陳腐化せず語り継がれる事だろう…

そしてステージは、更なる次元へとステップアップする…


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