第4部第8話
やっと群馬での仕事も終わり、神奈川に戻ってきた友也が次に目指すステージ。
それは2つあるのだが、、まるで正反対の方向だ。
1つは関西の六甲山。これは石田も走っていたのでおなじみのコース。
そしてもう1つは新しくサーキットとして生まれ変わった温泉で有名な、山形の蔵王。
どっちにするか悩んだ結果、先に蔵王のほうから行ってみる事にした。友也は寒いのが嫌いなのである。
なので雪が降る前にとっとと済ませてしまおうといったわけだ。
とは言っても群馬の時と同じく、そう簡単に山形の仕事が入っているわけではないので、入ってくるまでの間はひたすら箱根で腕を磨く。
そうして山形に行けたのは、群馬から帰ってきた3週間後だった。
今回の作業期間は1ヶ月。
蔵王山は、流石東北だけあり気温が低い。
しかももう雪がちらつき始めている。これはまずいと思った友也はスノータイヤを購入。
さすがにスリックタイヤじゃ、スケート場に普通の靴ですべりに行くようなものである。
そうして山のほうへ走りに行ってみると…何と、積もっている……。
「俺…寒いのは嫌いなんだよなぁ……!!」
ぶつぶつ文句を言ったって自然の力には逆らえない。早速買ったばかりのスノータイヤに履き替え、練習走行で走りこむ。
いろは坂とは違い、長いストレートや超高速コーナーが多い高速コース。
しかもストレートの後には必ず緩いコーナーとヘアピンのコンボがあると言っても過言ではない。
これはブレーキングに注意しないと危険だ。4WDなので取りあえず一安心なのだが・・・・。
ストレートのスピードは200キロ以上は出るため、首都高を走っていてそれなりのスピードを
体験したことがある友也もこの狭い峠道ではびびる。
(こえー…!)
アクセルを踏み込む足がぶるぶると震える。恐怖心からか、それとも寒さからか。
それでも何日もかけてバトルを含めて何十本も往復していくうちに、少しずつ雪が解けるように恐怖心も薄れていく。
それでも怖いものは怖いが。
そんな中、晴れて路面の乾いている火曜日に走りに行くと、1人の男がPAで友也に声をかけてきた。
「あの…ちょっといいですか?」
「俺ですか?」
「ええ。あの…箱根にいた黄色いアテンザの、九条信哉って知ってます?」
「くじょうしんや…? あー…あの人か…。その人がどうかしたんですか?」
「実は俺、あいつとメル友なんですけど、九条からあなたの顔写真が送られてきましてね。もしこっちに来たらバトルしてみたいなって思ってたんですよ」
「そうなんですか…。でも勝手に人の写真撮るのはやめてほしいですね」
「あ…すいません。こっちも削除しておきます。あいつにもしっかり言っておきます。
…そうだ、紹介が遅れましたが、俺は神凪 悠人(かんなぎ ゆうと)って言います。よろしく。林さんですよね?」
「ええそうです。俺が林友也です。…それで、バトルしますか?」
「はい。FFだからと言ってバカにしないでくださいね」
悠人の車は黒のアクセラ…何というか、何と言っていいのか。流石メル友。
という訳でバトルすることに。SPバトルで中盤にあるかなりきつい右ヘアピンを抜けたところのストレートから、
終盤のこれまたきつい左ヘアピンを抜けた後の、ストレートまでのダウンヒルバトルだ。
最初は4WDのダッシュで友也が先行。しかし悠人のアクセラも軽さを生かしてぴったり食いついてくる。
そして突っ込みで何と前を取られた。いくらこっちも走りこんでいるとはいえ、やはり地元のアドバンテージは大きい。
まずは気を落ち着かせ、向こうより勝っているところを見極める。
FF車なので突っ込みとコーナリングでは向こうに分がある。しかしパワーは圧倒的にこっちが上。そしてここは高速コース。
立ち上がり加速とストレートスピードで追い抜く。
いろは坂に居た頃もそれで勝ってきた。今度だってきっといけるはずだ!
(よし、行くぞ!)
遅めのブレーキングで奥まで突っ込み、イン側につくのを遅らせる友也。そうしてアウトインアウトで駆け抜けたアクセラの横に
少々強引だが入り込み、そのまま一気に抜き去る。
しかし悠人も踏ん張る。アクセラとは思えない突っ込みでR33に接近。
バンパーとバンパーをぶつけるくらいのすさまじい接近バトルに。
突っ込みと曲がりのアクセラvs立ち上がりと加速のR33。
だが何度も言うが、ここは高速コース。徐々にコースのリズムに慣れてきた友也はR33の加速力を生かしてアクセラを引き離す。
これで悠人のSPゲージが一気に底をつき、勝負ありとなってしまった。
しかし、まだまだFF車も侮れないものだなと、再認識した友也であった。
そのFF車とのバトルで、結構白熱したものがもう1つだけあった。
蔵王のサポーター2人を倒した後に、見かけるようになった、水色のDC5・ホンダインテグラタイプR。
「あんた、最近よく見かけるな? 俺とバトルしてほしいんだが…」
「俺と?」
「ああ。俺は会川 弘明(あいかわ ひろあき)。下りでSPバトルと行こうじゃん」
勝負はSPバトルだ。
「3,2,1、GO!」
最初はパワーのある友也のR33が先行。バトル区間は直線が長いため、早めに振り切ってしまう作戦だ。
だが会川もコーナーでは、ほとんど全開で食いついてくる。
会川の趣味はダイビングで、休みの日は昼間に潜ってからここに来ている。
ダイビングをした後に走ると、何も考えずに走ることが出来るのだそうな。
しかしここではパワーの差が出てしまい、会川は粘っていたが、SPをじわりじわりと削り取られて負けてしまうのであった。
会川とのバトルから数日後。コースにも慣れ、あらかたのライバルを倒した友也に蔵王のスラッシャーから書き込みが届いた。
なんでもクリオV6に乗っている走り屋らしい。
珍しい車に乗っているなぁと思いつつ、メールに返信し、今日は良く晴れているのでスリックタイヤに履き替えた後蔵王PAへ。
そこには確かに青いクリオV6が1台…。
「あれか…」
そう呟きつつそのクリオの元へ向かう友也。
すると、友也に気がついた男が声をかけてきた。
「何だ…何か用か?」
「クリオV6の性能を見たいので来ました。あのメッセージは…」
「…そうか、君が…。俺は川端 掛(かわばた かける)。このクリオV6はすごいんだ。
俺の腕にも存分に応えてくれる。…さぁ、どっちがこの蔵王最速にふさわしいかはっきりさせよう」
「そうだな。俺は林友也だ。勝負は…」
「俺が先行の、先行後追いバトル。下りでフルコース使って勝負と行こう」
という訳で、近くのギャラリーにカウントを入れてもらう。
クリオV6自体かなり珍しいマシンなので、どんな走りをするのかが楽しみだ。
「3,2,1、GO!」
2台がスタート。しかし川端のクリオはやたら加速が良い。
スタートダッシュからいきなり引き離される。
(うわうわうわ!?)
これには友也も絶句。なんせ、最初のダッシュで負けることなどあまり例を見ないからである。
だが、コーナーへの突っ込みはこっちが勝っている。コーナリングは互角…。
悠人のアクセラとバトルしたときとまるで正反対になってしまった展開だ。高速コースなので後半に行くにつれ
このコースはストレートが長くなってくる。
その前に抜き去ってしまわないと絶対に負ける! そう考え、最初から猛プッシュをしてクリオに揺さぶりを掛ける友也。
しかしクリオも踏ん張る。
頂上から少し下ったところには、左高速、少しだけスピードの落ちる右、そしてすぐ左高速コーナーといった連続コーナーがある。
そこの左高速コーナーをアクセルオフで侵入し、イン側に寄ったクリオは早めにブレーキング。
そこのアウトから思いっきりブレーキを遅らせ、サイドブレーキも使って一気に減速する友也のR33。
暴れるリアを押さえ込んで、コーナーを立ち上がったときには、クリオの前に出ることに何とか成功。
(アウトからあの重いR33で、あれだけの突っ込みが出来るのか!?)
元々ストレートよりコーナーの処理が川端は上手い。が、友也の突っ込みはそれを上回っていた。
しかしこれで引き下がる川端ではない。パッシングをして友也に揺さぶりを掛け返していく。
(…危険だ!)
思わずバックミラーをひっくり返す友也。そしてそのままアクセルを踏み込みストレートへ。
その先には左ヘアピン。ここで思い切り奥まで突っ込み、コーナーの途中で1速に入るくらいまで減速する。
そしてノーズが出口を向いた瞬間、ドンとアクセル全開。まるでV字のようにターンする。
すると、何と立ち上がりで早くアクセルを踏めたのか、その影響でクリオが25mは離れた。
(おお…これはいけるかも!?)
だらーんとした右コーナー、ストレート、同じくだらーんとした左コーナーを駆け抜け、右ヘアピンに突入。
ここでさっきのV字ターンをもう1度思い出してやってみる。
まずはかなり奥まで突っ込んでフルブレーキ。サイドブレーキも合わせて1速まで落とす。
そうして一気に向きを変え、出口が見えたところで豪快にアクセルオン! するとやはり離れていく!
これはいけると友也は踏み、その次の左ヘアピンでもそのターンをもう1度。
そしてそこで50mの差をつけ、バトルは幕を閉じたのであった。
川端に何とか勝てたのは良かったが、クリオに負けそうになったのは事実。
そこで細かい部分のチューニングもしていくことに。マフラーをさらに大きなものに変更し、エンジン本体の細かいところまでさらに手を入れる。
軽量化も走りに不必要な物と助手席以外は全て取り外し、カーボンボンネット、GTウィング、BOMEXのフルエアロを装着。
ライトも明るいものに交換し、視認性を高める。
LSDも性能がいいものに交換し、ブレーキパッド、ホース、ローターを大型に変える。
これでパワーは550馬力にまで上がり、車重も大分軽くなった。
だが、もう少し手を加えないとあの頃のR33GT−Rには戻らない。そこまでしたかったのだが、川端を倒したボーナスが底をついてしまった為できなかった。
そんなR33を手に入れた矢先、表六甲のほうで走っている走り屋からメールが届いた。
川端を倒したという話を聞きつけ、どうやらバトルしたいらしい。しかもドライバーは女と来たものだ。
だが、こっちでの仕事が後1週間ほど残っているため、今すぐに行くことはできない。
まずはこっちでの仕事を終わらせなければ。
そして、六甲でのバトルに備えて、毎日仕事帰りには蔵王を攻めたり、六甲の地図を入手したりもして
出来るだけ情報を集める。
そんなことをしていた矢先、雪のちらついた火曜日に1人の女と遭遇。
やたらスタイルのいい、黄色のGF8インプレッサワゴンに乗った女だ。
「こんばんは。最近あの川端を倒したって、噂になっているR33乗りの林友也さんって、あなたですか?」
「そう…ですけど…あなたは?」
「環 舞(たまき まい)っていいます。初めまして。仕事の関係で火曜日にしか休みが取れなくて、会えて嬉しいです。
最近は悪路の特訓をしようと思って、雪の火曜日を選んで走ってるんですよ。良かったらバトルしませんか?」