第4部第9話
という訳で下りでSPバトル。区間は川端を抜いたポイントの少し先から、悠人が設定した区間のゴールの
少し先にある右ヘアピンを曲がった後のストレートまで。
「行きます!3,2,1、GO!」
最初からものすごい勢いで飛び出したのは、舞のGF8。川端のクリオより明らかに速い。
(げーーーーっ!? そこまで加速力いいのか!?)
チューニングしたのに、これじゃ意味無いじゃんと友也は嘆くが、そんなものは理由にならない。
そこはテクニックでカバーするものだ。
最初の左コーナーではじりじりと引き離されるが、次のだらーんとした右コーナーで、アウトからアプローチ。
左足ブレーキも併用し、GF8との差を詰めていく。
舞もそれはわかっていた。
(つめてくるわねー…)
その後のストレートではまたもや引き離されるも、次の左ヘアピンでV字ターンを発動。
だが立ち上がりで抜けない! さてこれは困った。
どこかにまだ隙があるはずだ! そう考え、次に来るまたもやだらーんとした右コーナーでじっくり動きを見る。
すると、アクセルオンのタイミングが早すぎて舞は終始アンダー気味なのを発見。
そこに目をつけた友也は、次にやってきた、だらーんと曲がる左コーナーで勝負をかける。
アクセルオンのタイミングが早すぎてアンダーを出し、2度減速しなければいけなくなった舞に対し、友也は左足ブレーキを使って一気に接近。
立ち上がりでスピードの差を生かして横に並びかける。
今走っている所は他のストレートより短いストレート。そしてやってくるのは緩い右コーナーの後にきつい右ヘアピン。
そこで一旦引いた友也はアウト側からV字ターンを繰り出し、加速体勢を舞より先に作って
舞が加速し始める前に、一気に立ち上がりで抜き去る。
その後にいつもよりすぐ来るだらーんとした左コーナーでさらに差を広げ、なるべく差を詰められても大丈夫なようにして右ヘアピンへ。
そこをV字ターンで駆け抜け、一気に突き放して舞のSPを一気に減らす。
最後はその次にやってきた左ヘアピンでとどめをさし、決着をつけた友也であった。
きついバトルから数日明け、この山形で仕事するのも最後になった日の、よく晴れた金曜日。
あのバトルで、早めにチューンが必要だなと思った友也の前に、不思議ちゃんが1人。
水色のロータスヨーロッパの前で、巫女がお清めの儀式をしている。
(えっ……)
何でこんなところで、あんなことを寒いのによくやるよなぁ…と思っていると、こっちと目が合った。
思わず友也は息を呑む。
(!!)
そろーりそろーりと、熊に出会ってしまった時のように、少しずつ目をそらさず後ろへ下がる友也。
しかしその巫女は、ゆっくりこちらへ近づいてくる。
(う、うわあぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁああぁ……)
錯乱状態に陥る友也。
「あの…」
「あっひゃ、ひゃいいい!?」
そして返事も変な声になってしまう。
「見かけない方ですね…どこからいらしたんですか…?」
「え、えーと神奈川から来ました…でも今日で帰るんですよ!」
「そうですか…。もし良ければ、バトルしませんか? 私と…」
「ば、バトルですか? そ、それはよろこここんsででdwさあああえええ!」
「あの、落ち着いてください…」
ひーひーふーと深呼吸し、取りあえず正気に戻る友也。
「し、失礼しました…俺は林友也です。あなたは?」
「市原 愛子(いちはら あいこ)です…。SPバトルで、下りで勝負しましょう」
バトル区間は舞のアンダーが発覚した右コーナー手前のストレートから、最後の右ヘアピン、左コーナーと続く場所を立ち上がったところまで。
最初のスタートダッシュは友也がとったが、ロータスヨーロッパも軽量マシン。そう簡単に離れはしない。
しかし走り方が何だか不気味。パッシングはしてくる上に、
スーッと突っ込みで近づいてきたかと思えば、突然インからぬっとノーズを出してきたりと、
バックミラーで見るのが怖い走り方をする愛子。
構っていられないとばかりに全力疾走で一気に振り切り、愛子のSPメーターを空にしても、
友也はスピードを落とすことなく社宅へ戻ったのは、言うまでもない。