第4部第10話
蔵王の愛子とのバトルから1週間後。友也は関西の六甲山へ飛んだ。今回は1ヶ月の出張である。
当然のごとく寒いが、山形ほどではない。雪が降るということでスパイクタイヤも勿論装備。
事前に地図を手に入れた限りでは、恐ろしくテクニカルなコースらしい。
蔵王とまるで正反対なのは位置だけではなかった。
実際に現場を見てもその予測は外れていなかったらしく、いろは坂以上に狭い上にテクニカル。ストレートなんて
2つしかなく、しかも短い。
ギア比を目いっぱい加速重視に振ってもパワーをもてあましそうである。
さて、メールが届いていたので荷物を社宅に置いた後にPAへ向かう。するとそこには青のランエボ6が1台。
ドライバーは女だった。
「あの、すいませーん…」
「はい、何でしょう?」
「ここにいる走り屋の、音羽真紀って人からメールをもらって来たんですけど、その人っていつ来ますかね?」
すると女の顔が変わった。
「あ、それ私です」
「え? あなたがあのメールを?」
「そうです。仕事が忙しかったのに、わざわざここまで来ていただいてありがとうございます」
何と、いきなり遭遇。これは運がいいのだろうか。
「では改めて自己紹介を。音羽 真紀(おとは まき)です。よろしくお願いします」
「林友也です。あ、俺…今日ここに来たのが初めてなので、少し練習させていただいてもよろしいですかね?」
「そうなんですか? 全然構いません。相手が強ければ強いほど戦い甲斐があります」
「ではお言葉に甘えて」
という訳で、上りと下りを往復する友也。予想通りパワーをもてあましている。
低速コーナーの連続、中盤には2連続でヘアピン、おまけに頂上のほうは勾配がきつい。
ハンドルを普通に切っても忙しいので、友也は少々強引ではあるがパワードリフトを使った全開ヒルクライムで行くことに。
最初の低速区間から、スリックタイヤであるにもかかわらずサイドブレーキを使って流していく。
ストレートでは160キロまで加速し、サイドブレーキとハンドルでかなり手前からドリフト。
そのままヘアピンを曲がり、2連続ヘアピンも同じくクリア。このあたりから徐々に勾配がきつくなってくるので目いっぱいアクセルを踏み込んでいく。
ここからはまた低速コーナーが連続し、左のきついヘアピンを抜ければ佳境。
残りを一気に駆け上がり、最後にストレートを駆け抜けてゴールとなる。
これを繰り返すこと約30分。真紀とバトルをすることに。
先行後追いで真紀が先行。
真紀のタイミングでスタート! 加速は…互角だ。
コーナーは面白みの無い走り方をする真紀。対して友也はドリフトで真紀を追い掛け回していく。
だが流石地元といったところであろうか。追い抜けない。
2連続ヘアピン、そしてその後の低速セクションでもそれは変わらず、抜けないまま真紀が先にゴール。敗北してしまった。
「やったやった〜!」
「そんなバカな…。腕を磨いて出直してくるから、覚えてろよこのやろーーー!!」
その日から仕事帰りに毎日六甲山へ繰り出し、真紀のエボ6を倒すため別の奴らとバトルする。
下り、上り共に狭いため、どのようにして追い抜くかを考える。
そこで友也が目をつけたのは2連続ヘアピン後のコーナーセクション。
上りはここから少しだけ道幅が広くなるので、フルコースの場合は2連続ヘアピンで、立ち上がり重視の走りをして追い抜く。
下りは2連続ヘアピン後の、左ヘアピンを立ち上がり重視で抜け、その後に来る橋の直線で追い抜きたい所だ。
ただしその後のブレーキングには要注意なのだが…。
そんな事を考えつつ、地元の走り屋とバトルを繰り返す。下り、上り共に大分オーバーテイクポイントもつかめてきたし、
綺麗にドリフトもつなげられるようにもなってきた。
TAバトルもパワーとトラクションを生かして勝てるようになって来た。
そうして1週間が経過し、ついに再戦の時を迎える。
「ここ数日あなたの走りを見ていましたが、強敵になって戻ってきましたね」
「ああ。もう負けるわけには行かない!」
しかし今回は、スタート地点を2連続ヘアピン手前からにし、ゴールを上>のほうにある左ヘアピンを抜けたところに設定。
という訳で真紀のタイミングで、再びバトルスタート。やはり面白みの無い走りをする真紀だが、かなり速い。
しかし友也も負けじとくらいつき、オーバーテイクポイントへ!
(いっけえ!)
アウトインアウトで立ち上がった真紀のエボ6に一気に並び、そのまま先にある右コーナーでオーバーテイク! 振り切って勝利した!
真紀とのバトルを終え、社宅に戻るとメールが届いていた。
それは何と、真紀の知り合いからのメール。
何でも同じく六甲で走っている走り屋らしく、バトルしてみたいとのこと。
取りあえずメールに返信し、翌日仕事帰りに六甲へ。
PAにはクリーム色のレガシィツーリングワゴンが1台停まっている。
(あの人かな…)
見かけない車なので多分そうだろう、と思って近づいていくと、やっぱりそうだった。
「こんばんは。あなたが林友也さんですよね? 私は真由(まゆ)って言います。
真紀ちゃんから話は聞いていますよ。すごい腕をお持ちなんですって?」
「い、いいえ…1回真紀さんに負けてますから、俺…」
「それはコースに慣れていなかったからでしょう? 今はもう私達とも互角なはずですよ。早速バトルしましょう!」
真由の車はレガシィワゴンだが、侮ってはいけなさそうだ。先行後追いで友也が先行。
しかも下りでバトル。頂上から麓までのフルコースだ。
友也のタイミングでバトルスタート。最初のストレートでは何とテールトゥノーズ。
真由のレガシィは恐ろしいほどのパワーが出ているみたいだ。
しかしコーナリングは圧倒的にR33が有利。やはり重たいワゴンボディにはこの狭いコースはつらい様だ。
だがこのコースは加速できるところがあまり無いため、引き離してもバトルが決着しない。150m引き離すのはきつい。
そして橋の直線で、真由のレガシィが差を詰めてくる。
あのワゴンボディがどんどん大きくなってくるのは、威圧感たっぷりだ。
(お…おっかねえええええええええええええええ!!)
しかしこの後は低速コーナーが連続するので、そこで思いっきり引き離して勝利。
勝負には勝ったが威圧感に負けた友也は、停まらずに社宅へ帰ることにした。