第1部第5話
新環状線。環状線よりストレートが多く、スピードが乗ったバトルが展開される。ちょうど1年前にサーキット化が完了した。
環状線を終わらせた京介の、次なる舞台はここになる。
(ここは恵さんと来た時も思ったが、きついコーナーはほとんどないし、スピードが環状線より出る。ブレーキングやコーナリングには十分気をつけないとな)
とりあえずいろいろ経験を積むために、賭けバトルをする京介。
やはり相手側もストレートが速い奴らが多い。環状線よりもストレートで突き放される展開が増えた。
それでも小さなコーナーでも相手が減速するので、そこをついてはオーバーテイクをする。
バトルを仕掛ける場所も考えて、なるべくレインボーブリッジから環状線の辺りで仕掛け、コーナリングで勝負をかける、というのがパターンになっていた。
そんな事を繰り返し、若干小金持ちになったある日のこと。いつものように新環状を流す京介。
その京介の後ろに1台の車が張り付いた。その車は京介にパッシングしてきたではないか。
(よし、いっちょやるか)
京介はハザードで相手に応じ、バトルスタート。物凄い勢いで前に出ていったその車は…。
(あれは、トヨタのチェイサーか?)
オレンジに近い黄色のチェイサー。しかもレースマシンのようなエアロがついている。
(セダンの奴は色々バトルしたが、あまり速い奴はいなかったな。こいつはどうだ?)
引き離されて行くがコーナリングで差を詰める。
…だが、思ったより詰まらない。
(あいつ、突っ込みのスピードが、俺と同じくらいだというのか!?)
京介も必死にコーナリングで詰めて行くものの、ストレートではいとも簡単に詰めた分を広げられる。
しかも運の悪いことに、新環状から湾岸線に入るまではもう時間がない。
(まずい! このままだと!)
だがその思いもむなしく、前のチェイサーはどんどんローレルを引き離していく。
(こうなったら、この先にある湾岸前の高速右コーナーで突っ込み勝負だ!)
スピードは240キロに達し、超高速ブレーキングになる。ここで過剰に減速したチェイサーの横をすり抜け、
京介は思い切り突っ込み重視のブレーキングで勝負に出た。
(よし、前に出たぜ!)
だが、その時リアがふらついた。そこで不安定になったローレルは挙動を乱し、大オーバーステアを引き起こした!
(うわ、やべえっ!?)
慌てた京介はとっさにフルカウンターで対処するが、それが裏目に出て今度は逆スピンに。そして…!
「う…うわああああああああああっ!」
逆スピンに陥ったローレルは、そのままアウトの壁に一直線。フロントからぶつかり、クラッシュして止まった。
ガラスが飛び散り、バンパーやフェンダーも飛び散る。
「うあ…クソっ…」
そこで京介の意識も途切れてしまった。
「気が付きましたか?」
京介が目を開けてみると、そこには白い天井が。
「…ここは…病院?」
「そうです。貴方は首都高サーキットでクラッシュしたんです」
「…車は?」
「廃車だよ」
不意に誰かから声をかけられ、京介が声のする方に首を動かす。そこには、ピンクに近い赤髪の男が立っていた。
「この方が貴方をこの病院まで運んで下さった方です。では私はこれで。何か痛むようなことがあったり、
気分が悪くなったりしたらナースコールで看護婦をお呼び下さい」
医師は病室を出ていった。
「どうも…お手数お掛けしました」
「全くだぜ。俺の目の前でクラッシュしてくれるとはな」
その言葉に京介の顔色が変わった。
「えっ? あ、あんたまさか…」
「ああ、あの時あんたと一緒に走っていた、栗山 祐二(くりやま ゆうじ)だ。新環状のサーティンデビルズの1人」
「そうか、あんたがセダン3人組の…」
「噂は聞いてる。宝条京介とはあんただな?」
「あ、ああ」
「俺等の内3人を倒したらしいが、俺等3人は甘くない。それに、車がなかったらどうしようもないな」
「…ちっ」
しかし、栗山からある提案が出された。
「実は、俺の行き付けのパーツショップで中古車を売っているんだが、特別に安く買えるよう手配してやってもいいぜ」
「ほ、本当ですか?」
「だが、俺のチェイサーで新環状をアタックして、3分30秒を切ったらの話だがな」
…という訳で数日後。
「ルールは簡単。銀座の本線に合流したところでスタート。そこから右回りを1周して、
3分30秒以内に1周できればこの前の約束通り、新たなマシンの手助けをする。いいな?」
「よし、やるぜ!」
京介は栗山のチェイサーで新環状サーキットへ。栗山はストップウォッチを出し、構えた。
「行くぞ。3、2、1、スタート!」
合図と同時にアクセルを踏み込み、加速させる。
(くっ、スゲーパワーだな!? ローレルとは比べものになんねぇ!)
パワーの違いに驚きつつ、京介は高回転まで引っ張りシフトアップ。目の前には新環状とC1の分岐の後に待ち構えている、きつい右コーナーが。
(スピードの乗りが違う! ブレーキングは早めの方がいいな!)
ブレーキングを早めて、アンダーを出さないようコーナリング。出口が見えた所でアクセルオン。いい加速で立ち上がって行く。
(コーナリングも安定している。凄く完成されているな。だが何よりもエンジンのパワーがスゲー。これならおいてけぼりになるのもうなずけるぜ。)
そのまま新環状線を走り、スピードは300に到達。周りが見えなくなってきている。
(くっ…ブレーキングは早めに!)
早めにブレーキングをして、大きく回り込む右コーナーを抜けて湾岸線に合流。ぐいっとアクセルを踏み込み、どんどんスピードを上げていく。
5速トップエンドまで回し、330キロまで達した。
(すげえ…だが、これぐらいでびびってちゃどうしようもねえな! このマシンに勝たなくてはいけないんだ!)
新環状線に入るために、分岐を左へ。上りながらのブレーキングなのでアンダーに注意しつつコーナリング。
アウトインアウトでクリアし、レインボーブリッジを通過。
そうしてやっと環状線に合流。
(だいぶ分かってきたぞ。ワンテンポ早めに操作してやると凄くうまくいく!)
コツをつかんだ京介はがんがん飛ばすが、抑えるところはきっちり抑えて、チェイサーを操る。
そして…!
「…3分24秒だ! なかなかうまいんだな。ということはあの時はマシンの差か…」
「…ということは!?」
「しょうがない。約束は約束だ。明日その店に行こう」
「よっしゃああ!」
何とか基準タイムを突破し、見事マシンを買えることになった京介。これでまずは一安心だ。
翌日。京介は待ち合わせた場所で栗山と合流し、チェイサーに乗って早速そのショップへ。
ショップに行くと、そのショップのオーナーが出迎えてくれた。
「…おお、栗山君!」
「どうも。こいつが昨日、電話で話した…」
「宝条です。よろしく」
「ああ、話は聞いているよ。俺は沢村(さわむら)だ。よろしく。…ところでいきなり金の話になって済まないが、幾ら位までなら…」
「…えーと、80くらいでしょうか…」
その言葉を聞いたオーナーはちょっと考え込み、京介に店の裏へ来るように指示した。
「…これだな」
「これは…RX−7?」
「そうだ。FD3Sだよ」
目の前に現れたのは、青い後期型のFD3Sだった。
「実はこれ、事故車で入ってきてな。うちはそう言った車を買い取って、直して売っている。後期型だし、結構値も張るんだが…80で良いぞ」
「え!? 良いんですか!? 240万くらいしそうですよ!?」
「良いって良いって。さっさと決めないと気が変わるぞ? 俺は修理には自信があるからな」
「……わかりました。お願いします!」
「よーし、だったらもうひとつ条件がある」
そう言うと目の前までオーナーがやってきて、真剣に京介を見ていった。
「首都高で噂になっている迅帝とやらを、このFD3Sで倒して欲しい。栗山はそいつのチームのメンバーだし、栗山の前で言うのもあれだが、
俺は迅帝とやらが倒されるのを見てみたい。今まで何人も俺の組んだ車がそいつらに挑んだが、ダメだった。…頼むよ」
「…分かりました。絶対に勝てるという自信はないですが…」
「バカ野郎! 戦う前から自信を付けなくてどうする! 俺は最高のマシンを与える! あんたも最高のドライブをする! それでオールライトだ!」
「…は、はい!」
オーナーから一喝され、栗山をちらりと見る京介。栗山は無表情でそこに立っていた。
「…それから、ちょっと耳を貸してくれ」
「…はい」
「栗山のチェイサーに勝てるくらいのチューンはしてある。栗山をぶちのめしたら、またここにもってこい。俺がパーツをセットアップする」
「…了解です」
「…よし、その意気だ! 栗山君! 後は頼むぞ!」
「はい」
と言う訳で書類にサインをし、現金で80万を払ってFD3Sを手に入れた京介。
そして栗山にリベンジマッチを申し込む。
「栗山さん。1週間後、新環状の台場パーキングで待ってます」
「…分かった。俺も車をチューンして行く」
「…はい!」
……バトル再開だ。