第1部第6話
1週間後。仁史からまた徹底的に走り込みのコーチをされ、FD3Sの特性を何とかつかんだ京介。満を持して台場PAまでやってきた。
(…居た!)
栗山はチェイサーに寄りかかって、京介の登場を待っていた。
(…来たか)
「…始めましょう、栗山さん」
「ああ。ここからスタートして、左回りで1周まわって、ここに先に帰って来た方の勝ち。良いな?」
「分かりました。じゃあ俺が先行で、PAを出たら全開で行きましょう」
そう言って、京介はFDに乗り込んだ。
(あの時の借り…ここで返させてもらうぜ、ハードウェポン!)
アクセルを2,3度煽って、2台はPAを出て行く。
全開で加速、4速にシフトアップし、速度は250キロに達する。
(ローレルとは桁違いだ! ZKと比較しても良い勝負するかもな!)
だがミラーを見れば、すぐ後にピッタリとチェイサーが張り付いている。
(コーナリングは良いと聞くが、所詮はロータリーエンジン。ストレートで俺の1JZが負けるはずがない!)
湾岸線上りに合流し、ストレートの加速を生かしてチェイサーが追い抜いていった。
(前よりも加速が少しアップしてるな。だが、軽さではこっちが上! コーナーが勝負だ!)
とにかく我慢し、京介はじわじわと離れていくチェイサーを見つつ5速シフトアップ。
坂を上り、目の前には大きく回り込む左コーナー。
早めにブレーキングをして、立ち上がり重視のコーナリングで京介はチェイサーに食らいつく。
突っ込みのスピードは2台ともぶち切れているが、立ち上がり重視でも、軽さも手伝ってわずかに京介の方が上だ。
(このチェイサーをどう料理するか…思い出せ。乗った時にどこか辛かった所はなかったか?)
必死になって追いかけながら、京介はあの時のことを思い出した。
チェイサーでのタイムアタック中、レインボーブリッジ後の高速コーナー。
ここは右コーナーから直線、そして高速S字カーブと来ている。京介は記憶を脳みそからひねり出しつつ、コーナーに突入。
しかし栗山は…。
(…うおっと!)
S字コーナーで切り返す時、若干挙動が乱れた。
そのおかげで少し、栗山はS字2個目のコーナーでもたついてしまった。
(あのチェイサー…切り返しに弱いのか?)
更に環状線の銀座のS字でも、やっぱり栗山のチェイサーは何だかふらついていた。
(…よし。抜けない相手じゃねえぞ!)
とりあえず今はこのまま抜かずに我慢。プレッシャーをかけてみる。
(プレッシャーをかけてる様だが、俺を抜けるもんなら抜いてみろ。どこからでも来てみろ、京介!)
しかし栗山も、あまり動揺している様子は見られないようだ。
どっしりとした安定感を見せ、栗山はチェイサーのアクセルを踏み込む。
(さすがサーティンデビルズのメンバーだな)
それでも京介もしっかりと食いついていく。
高速コーナーでは若干ではあるが、FDが差を詰めているのだ。
そして銀座に合流し、下りながら銀座の分離帯に突入。京介が後ろで若干抜きにかかるようなそぶりを見せ、プレッシャーをかけて栗山を揺さぶっていく。
栗山はそれを見て、バックミラーをひっくり返した。
(大丈夫だ。落ち着け! ストレートは俺の方が速い!)
アクセルを踏み込み、栗山はチェイサーを加速させる。元傭兵だけあって栗山は度胸がある。
その後では京介が、栗山を抜く為に計画を立てていた。
(仕掛けるポイントは…この先の汐留S字カーブ!)
そして、汐留S字に進入。チェイサーはフルブレーキングして突入するが、切り返した時に若干ふらついて外に流れた。
(…やはりだ! あの人でもふらつきはあるみたいだな! ここで勝負!)
若干アンダーを出して、外に流れたチェイサーに対し、しっかりグリップ走行で京介はインから追い抜く。
…勝敗は決した。
「…負けたよ」
PAに戻ってきた栗山と京介。
「…次のサーティンデビルズは俺の知り合いだ。その次の奴も。バトルしたい日はいつだ?」
「1週間後で」
「分かった。そいつらに連絡入れておく。俺と同じ孤児院の出身の奴だから、俺の名前を出せば分かってくれるだろ」
京介は栗山の言葉に耳を疑った。
「え…孤児…院?」
「…俺、4歳の頃に両親が自殺してな。孤児院で育った孤児だ。でももう昔の話だし、立派に自立できてる。京介が気にする事じゃないよ」
「……そうですね。じゃあ、今日はどうも!」
「俺も楽しかったよ。負けるなよ!」
栗山はチェイサーに乗って去っていった。
しかし、あの栗山が孤児だったとは…! しかもその後の2人も孤児らしい。
(…………)
何だか複雑な気分になりながら、京介は家路につくのであった。
1週間後。栗山から連絡が入り、次の相手は銀座のPAで待っているとのこと。
(セドリックとか言ってたけど…どれだ?)
周りはセダンだらけ。とりあえずPAを見て回るが、いない…。
この日のためにせっかく、FDをショップに持って行ってチューンしたのに。
だが、その時。
「宝条京介君ってのは、君か?」
不意に声をかけられた方に振り向くと、そこには赤と茶髪の髪をした渋い男が立っていた。
「はい、そうですけど…?」
「…バトル始めるぞ」
「え…え?」
何の気無しにその男が歩いていく先を見ると、そこにはY33セドリックが停まっていた。
(あー…なるほどな)
京介もすぐさまFDの方に引き返し、セドリックの方へ向けて発進させる。
そして横に車を並べ、お互いに紹介。
「岩村 僚一(いわむら りょういち)だ。栗山から話は聞いている。俺も手加減は無しで行く」
「良いでしょう。ではコースは新環状右回り。距離は短めで、湾岸線に合流する前の大きな右コーナーを抜けたらゴールで」
「分かった。俺が先行するぞ」
岩村が前で、PAから出て本線に合流した瞬間全開走行に移る。
Y33は何か知らないけど、ドアの所にゼッケンが付いている。
だが…。
(あれ? やたら速いなぁ)
加速が栗山のチェイサーより速い。しかもぐんぐんスピードが上がっていき、あっという間に300キロに達した。
でも挙動を見ると、セドリックはどこかふらついている。
(危なっかしいな。挙動が全然安定してないぞ!?)
(ローダウンはしているが、やはりふらつくな。だがその代わりに俺のセドリックはパワーを手に入れた。後悔はしていない。生半可なFDに負けるわけがない)
危なっかしい動きながらも、矢のように突き進んで行くセドリック。
アクセルを踏み込み、それを追いかける京介。
銀座から走ってきて、分岐を右へ。大きく回り込む右コーナーで軽さとコーナリングスピードを生かしてセドリックに食らいつく。
立ち上がり重視の走りと、突っ込み重視の走りを京介は無意識に使い分けている。
それでも岩村も踏ん張り、新環状の高速コーナーをクリアしていく。
そして終盤の長いストレートの前にある、高速右→左のS字で京介が仕掛けていく。ここは右が奧できつめになっており、
オーバースピードで突っ込むと確実にアンダーが出てクラッシュだ。
ブレーキングで一旦横に並びかけるが、FDよりセドリックの方が早めにブレーキングしなければならない。
つまり京介にとっては立ち上がり重視でブレーキングしたと言う訳だ。
そのままインベタ気味にタイトに立ち上がり、アザーカーが居ない事を確認して素早くアクセルオン。
コーナリングスピードを稼ぐためにアウト側を走り、アクセルを踏み込んで京介はスリップストリームに入る。
(FDが追いついてくる。スリップに入ったのか…)
あくまでクールに、しかし内心では少し焦っている岩村。
京介はそんなこととはつゆ知らず。FDも300キロを超えて320キロに達しようとしていた。
アザーカーもいるので、スリップに入ったままセドリックに食いついていく。
(最後のコーナー…ブレーキングとコーナリングで勝負だ!)
遠くにあの事故ったコーナーが見えてきた。京介の脳裏にあの時の記憶が蘇るが、頭を振って打ち消す。
そして…。
(くっ!! セドリックよりは奥でブレーキングできるんだよ!)
息をのみつつスリップから飛び出し、ブレーキング。
慣性ドリフト状態になるが、それでも小刻みにステアリングを動かして微調整しつつコーナリング!
後からは体勢を立て直したセドリックが迫ってきたが、もう遅い。
(今頃遅いぞ岩村さん。俺の勝ちだ!)