第3部第6話


「単身赴任…?」

11月。やることもなく仕事をこなしていた石田だったが、ある朝出社すると掲示板に自分の単身赴任を命じる紙が貼られている。

勤務地は兵庫県らしい。

どうやらそっちの支社の方で1人やめたらしく、次の人材が見つかるまで石田にヘルプを頼んだらしい。

第2いろは坂をクリアして、表六甲が走れるようになったのでそっちに住むことになった。


向こうには社宅があるらしく、アパートの大家に話もつけた。大体2週間もあれば、次の人材が見つかるだろうと言うことだ。

(2週間ね…)

エボ3に最低限の荷物を積み、兵庫県へ向かう。

タンスやベッドなど一通りのものは用意されているらしい。パソコンもあるとのこと。




兵庫に着いた時にはもう夜になっており、荷物の整理を一通り済ませてその日は眠ることにした。

会社の場所はあらかじめ調べておいたので、翌朝は何とか着くことが出来た。

仕事はいつもと相変わらず。

今日は早めに終わったので、バトルをするため六甲へと向かう。


まずは下見も兼ねて、頂上のPAまで流してみる。

最初からきついコーナーが多く、頂上までつづら折れのコーナーが続く。

ストレートといえば、最初の連続コーナーを抜けたところにある橋と、頂上のゴール寸前にあるストレートだけ。


全長がいろは坂より全然短い反面、勾配がきついしストレートもストレートとあまり言えないようなコース。

エボ3でもパワーをもてあますかなと思いつつ、走って確かめるためにバトルすることに。

「六連星信徒4号」と呼ばれるGC8インプレッサ、「Mr.オレンジロード」と呼ばれるランエボなどを倒す。


しかしここで問題点も。

高速コースに慣れてしまっている石田は、低速コーナーの処理が下手。

元々首都高を走っていたので、あまりこういった低速コースは慣れていないのだ。


特に中盤には2連続のヘアピンコーナーがあり、異様に道幅も狭い。

思うように向きを変えられることが出来ず、どうしようかと悩む。結局その日は答えを見つけ出せず、社宅へ戻ることにした。




時間はたっぷりあるので、翌日は上りのバトルへ。

「コーナーエッジ」と呼ばれるアコードと直接勝負、「音速のモッコス」と呼ばれるGTOとタイムアタックで勝負。

「インディ-A」という名前のR33GT−Rとタイムアタック&ドリフトバトルで勝利。

「壷惑の秘書」といわれる、レガシィの珍しい女走り屋とも直接勝負して勝った。


しかし低速コーナーの処理は未だに上手く行かない。ストレートとコーナーの立ち上がりで

引き離していくような感じだ。

エボ3の基本性能のおかげで勝ててはいるが、どうしても突っ込み勝負はスピードが遅すぎて

上手く行かないのだ。


翌日は土曜日なので、カテゴリーレースにチャレンジ。ドリフト区間はあの連続ヘアピンも含まれている。

ハイスピードからブレーキングするが、スピードが遅すぎてリアを振り出せない。

なのでレースで勝てない。これは問題だ。

(どうするこれ…)

サイドブレーキを引いてもリアが振り出せない。スピードが足りないのだ。



そう言うわけでここは一発、ハイスピードから一気に突っ込んでみることに。スタートしてヘアピンへ突入する際に、

フットブレーキからギアを1段落とすところまでは今までと同じだが、

そこから壁を恐れずにクラッチを切り、サイドブレーキを引く。するとスターレットの時と同じく、良い感じでリアが振り出せる。

「おっ…おっ…!」

車の中はともかく、外でもあまり喋らない寡黙な石田だが、このときは感激のあまり声が出る。

サイドブレーキを引いてアクセルを小刻みに調節し、ドリフトでポイントを稼ぐ。

そのおかげでここのカテゴリーレースでも勝てるようになった。



夜のバトルでも早速実戦。

JZX100チェイサーの「シャイナーヘッズ」、80スープラの「ホワイトレボ」、Z32の「VGの閃光」を

あっけなく下す。サイドブレーキターンは前半の連続コーナーでも有効だ。

下りでも「筋肉少年隊員総長」という変わった名前のAE86、警察官だと噂されている

ER34スカイラインの「ドリフトパフォーム」を下し、満足して家路についた。


翌朝。会社へ行く前にBBSをチェックすると書き込みが。上りのボスからだ。



「六甲上りはマシンではない。腕です」



そう言われても・・と思ったが、とりあえず、腕、見せますとも!と元気よさげに返信し、仕事へ向かった。

相変わらず目が痛い。

目薬を差してプログラムコードを打ち込み、仕事を終えて六甲PAへ。そこには見慣れない、不思議な白いマシンが停まっていた。

(あれか?)


その車に近づくと、中から1人の中年の男が降りてきた。

「……何か俺に用か?」

「俺、石田義明というものですが・・・BBSに腕がどうのこうのと書き込みをした人って…」

すると男の顔が変わる。

「そうか、君が……。俺は龍原 広也(たつはら ひろや)。上りはマシンなんかじゃない。腕で決まる。それを見せてあげよう」


やたら自信満々だなぁ、と思ったが、相手は挑戦者を募る程だ。相当のテクがあるのだろうと推測し、バトルすることに。

その前に石田は1つ広也に質問。

「あの、その車俺見たこと無い車なんですけど、なんて言う車ですか?」

「これかい? 君のランエボと同じ三菱の、スタリオン…しかも4WDラリーだ」

それを聞いて今度は、石田の顔が若干変わった。

元々はグループBと呼ばれる海外のラリーに参戦するために作られたマシン。FRのスタリオンを

4WDに変更。ランサーEX2000ターボに搭載されていた2バルブのG63Bをベースに2140ccまで

排気量をアップし、更なるチューニングが施されたG63B'が搭載されていた。しかも総生産台数はたったの5台。


そんなマシンがどうしてここに?

「俺は昔テストドライバーをやっていてね。その時のツテでこの車を譲ってもらったわけさ。ただ俺は、このマシンの性能を生かし切る

腕がないとダメと考えている。君も最初から全開で来い。そうしないと良い勝負が出来ないだろう?」

「…良いでしょう」


エボ3とスタリオンがスタート地点に並ぶ。トンネルの入り口からスタートするのだ。

「3,2,1,GO!」

最初はギリギリで石田が前を取った。

しかしスタリオンは離れない。それどころかバンパーをコンコンとつつき、石田にミスさせようとする。

(…流石グループB車両。こっちのランエボに劣らないくらい、ストレートも速いな)

橋のストレートでは、何と抜きにかかってくる広也。


だが高速ブレーキングからサイドターンで前を譲らない石田。

やっぱりマシンだろう! と心の中で石田は悪態をつくが、それでバトルの状況が変わるわけでもない。

バックミラーをなるべく見ないようにする。

この六甲は狭い。先行されない限り、前を取ったらほぼ勝てる!

(なかなかだ。エボ3は電子制御がないからな。この狭い六甲でサイドブレーキターンは有効だ)

それを見た広也もサイドターンで応戦し、中盤の2連続ヘアピンをクリア。

さらに道幅が狭くなり、コーナーもここからまた増えてくる。


広也は勝負が長引けば長引く程実力を発揮する。

だんだんテンションも上がってきたため、ペースをあげて石田のエボ3を追いかけ回す。

速いコーナリングで一気にエボ3に食らいつき、ちらちらとスキを見せればいつでも抜くぞ、という意思表示でプレッシャーをかける。

(ペースをあげたのか!?)

一気に後ろの広也からのプレッシャーが大きくなる。ここまで来たら先行で逃げ切るしかない。

ミラーは見ずに前だけを見て爆走。的確なブレーキングとコーナリングで

1つ1つ丁寧にコーナーをクリア。

それでもスタリオンは離れない。イン側、アウト側どちらにも姿を見せて抜きにかかってきている。

(抜けないな…!)

広也もプレッシャーをかけて石田のミスを待つが、なかなかラインを開けてくれない。勝負は最後のストレートに持ち込まれた。

(ここのストレートさえ凌ぎきれば!)

アクセル全開で、最後の左コーナーに備えるために右による石田。

しかしそこで広也が抜きにかかる!

(間に合うか!?)


石田も広也もアクセル全開。そして左コーナーへ向けて突っ込み勝負をするが、

イン側の広也はラインがきつくなってしまったため、早めのブレーキングを余儀なくされてしまった…。

何とかアウト側で粘った石田が先行で逃げ切り、勝つことが出来たのであった。


第3部第7話へ

HPGサイドへ戻る