第3部第5話


(まだ暑いな)

ここ数週間仕事が忙しく、全く走りにこられなかった石田。

季節はもう夏から秋に移り変わろうとしている。

奇跡的に纏まった休みが1週間ほど取れたので、この間を使って第二いろは坂を制覇してしまおうと考える。


まずはとりあえず下りから。このときのために金を使い、エボ3は足回りの強化と

更なるパワーアップを施してきた。

下りを攻め込んでみるとその違いが明らかだ。ブレーキの強化をし、サスペンションを強化して踏ん張りが利くようにした。

直線でややふらつくが、コーナーではさらに突っ込んでいけるようになった。

しかも立ち上がりではトラクションのいい4WD。突っ込んで良し、立ち上がって良しだ。


カテゴリーレースにも積極的に参加するが、参加できるのは1日2回までと決められているのでその中で覚える。

このコースは3つのセクションに分けられる。

1つは中速コーナーの連続するセクション、中盤はヘアピンが連続するセクション、最後は長いストレートがある高速セクション。

辛いなと思ったのは高速セクション。もともと峠道は250キロとか300キロもスピードを出すところではないので、

せいぜい限界でも200キロくらいといったところであろう。


だが今のエボ3は5速全開で160キロしか出ないので、ギア比をいじりやや中高速域重視にする。

こうすることで5速全開までまわし、195キロ出るようになった。

夜は下りも上りも均等にバトルをしていく。

ただ、上りの「走りのIT革命」と呼ばれるDC5インテRには3回も負けてしまった。

タイムアタックで勝負なのだが、タイムが厳しいのだ。

加えて高速区間で勝負なので、ギア比を少しだけ加速重視にして何とか打ち勝つことに成功。

しかし、FF車で上りだと思って甘く見ないほうがいいとよく分かった日でもあった。



いろは坂に来て5日目。あらかた下りも上りもライバルを倒した。

そしてやっと来た。ここのボスからの挑戦状!まずは上りが先らしい。



「第二いろは上りSSS−R乗りです。一人でこのマシンをここまで仕上げたプライベータです。

自分のマシンが何処までいけるか試すために日夜バトルしていますが

腕の立つ人がなかなかこのBBSに書き込みません。バトルしましょう!」



プライベーターの走り屋なんて珍しいなと思い、その日の夜早速麓のPAへ。

そこには1台の見慣れないマシンが。

SSS−Rと言うマシンは聞いたことがない。一体どこの車だと思っていると、急に後ろから声をかけられた。


「腕の立つ人はあんたか?」

振り向くとそこには、オレンジの頭をした男が1人立っていた。

「…掲示板の書き込みはあんたか。返信したのは俺だ」

「そうか…俺は奥山(おくやま)。君は?」

「石田。ところでその車、見たこと無い車だな?」

「珍しい車だろ? ブルーバードSSS−R。プライベーターでもいいところまで出来ることを見せてやる」

ああ、日産のブルーバードなのかと確認。



早速バトルに移る。

「行くよ! 3,2,1GO!!」

最初はエボ3が圧倒的な加速力で飛び出す。大きく回り込む高速左コーナーを抜け、左低速コーナーから右→左の連続ヘアピン。

ちらっとミラーを見ると、ブルーバードは食らいついてきて…いない?

(あれ?)

その後に来る右ヘアピンでも差をつめてこない。いや。つめられないのかもしれない。

(パワーでこっちが大幅に勝っているのかもしれない。これは…)


というわけで連続ヘアピン区間で食いつかれると厄介なために、一気に引き離すことにする。

その後のストレートではアクセル全開。

途中で少し右にカーブしているが、少しのブレーキングで突破。そのすぐ後に来る左ヘアピンからヘアピン区間に入っていく。


ここを立ち上がってアクセル全開にし、ミラーを見ると…食いついてきていない!?

(パワー不足らしいな)

先行石田のぶっちぎりにより、ヒルクライムバトルはここで終了した。

「もしかして俺…パワー不足だった?」

「そうかもしれないな」

「そうか…やっぱ240馬力じゃダメか」

(それしかなかったのかよ)

ヒルクライムはパワーだと考える石田。これならあの「走りのIT革命」の方がよっぽど速かった。


拍子抜けしたまま旅館へ戻り、BBSをチェック。しかし書き込みがない。

(書き込みは無し…寝るか)

目薬を差して布団へと潜り込んだ。何だかあっけなかったなと思いつつ、意識をブラックアウトさせていった。


翌日。起きてパソコンをチェックすると書き込みがあった。1つは奥山から。1つは下りのボスからだろう。



「得る物がたくさんありました! バトルを通して、マシンの方向性がおぼろげながら見えてきました。また熱いバトルをしましょう!!」



別に熱くはなかったと思うが…と半分呆れつつ、下りのボスからの書き込みに返信。



「オレマジ前までプロレーサー。マジ地元最速。マジ実家にいたころは速かった。勝負やるならやるよ。そこのオマエ、俺の事、疑っている?

俺の走りを目に焼き付けてやるから、今すぐいろはダウンヒルPAに来いよ!!」



マジ見たいので行きます、と返信した後カテゴリーレースに出場し、資金を稼いだ。

ここまでに貯まった資金は40万。旅館代やパッド代もバカには出来ない。

夜PAに出向く前にブレーキパッドを交換した。下りはブレーキが肝心だ。エボ3は軽いとはいえ、4WDは止まりにくいのだ。


目薬を差してPAへ。そこにはアミューズエアロの銀色に輝くS2000が1台。

随分ド派手だなと思いながらも、そのS2000に近づく。

すると中から男が降りてきた。

「あんたか? 掲示板でマジマジ言ってたの?」

「…マジ酷くねそれ? 初対面の相手に向かってマジそれは酷くね? まぁいいや! 俺の名前は柴田(しばた)

マジ俺の走り凄いから! マジあんたなんかぶっちぎるから! マジなバトルしようぜひゃっはー!」


ダメだこいつ…早く何とかしないと…とそんな言葉が、また石田の頭を過(よ)ぎる。

「石田だ。よろしく」

「よっしなら始めようぜ。マジで早く始めようぜ」

S2000とエボ3がダウンヒルのスタート地点に並んだ。

「行くぞ! 3,2,1GO!!」

最初はエボ3が圧倒的な加速力で飛び出す。大きく回り込む中速左コーナーを抜け、右、左とダラダラと

旋回するコーナーを抜ける。

そして次の右中速コーナーを抜けると、若干きつめの左コーナーが現れる。

ここの突っ込みでエボ3がS2000を少し引き離す。

石田はこれ以上食いつかれると厄介だと考え、ヘアピン区間に入る前にこちらも振り切ってしまうことに。

ペースを上げ、目の前に迫る右コーナーを攻める。


柴田もペースを上げていくが、エボ3の突っ込みのスピードが尋常ではない。

(マジはええ!? いきなりペースあげやがったぜ! マジパネェ!?)

左、右、左と来る連続ヘアピンを駆け抜け、右にダラ〜ンと旋回するコーナーを抜ける。

その次にやってくる左コーナーでこれ以上ない突っ込みを見せ、立ち上がりでもS2000を引き離していった。

その後にヘアピン区間を駆け抜け、高速区間に入ったころにはもうS2000はミラーに映っていなかった。


マジマジ論説を聞くのはもううんざりなので、そのまま旅館へと戻る。翌朝は旅館をチェックアウトし、残り1日は日光観光を楽しむことに。

東照宮や日光江戸村に行ってみたり、戦場ヶ原をハイキングしたりもしてみた。

その後は東京へ戻り、またいつもどおりの仕事に戻る。

BBSを会社でこっそり開いてみると、柴田から書き込みがあった。



「まじ君速いね。俺も実家にいた頃は本当に速かったんだよ。マジだよ。今日は本当にゴメンね!」



もうマジの論説はお腹一杯です、と思い、返信もせずにプログラミングを続ける石田であった。


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