第6部第20話(エピローグ)
北海道のBBSに、気になる情報が書き込まれた。
阿蘇に新たなチームが乗り込んできて、あのミラクレスサミットの充がボコボコにやられたらしいのだ。
北海道の5大ボスと木下を倒し、月末の金曜日。
月末に良く現れるとの情報を聞きつけた竜介と高山は、最後の仕上げとして阿蘇に乗り込んだ。
そこに待って居たのは黒のランエボ8の男に、白いオペルのスピードスターの女、
そしてボンネットに何故だか棺桶が乗っかっている、青いS30のフェアレディZの男であった。
この3人でどうやらチームらしい。名前はリバイバルオブソドムだとか。
その姿を確認した2人はその3人組の内、リーダーと思われるS30Zの男に話しかけた。
「おい、あんたらか?」
「何だ?」
「阿蘓の走り屋を大分倒したという、3人組のチームは?」
しかし、男の反応は何とも傲慢な物だった。
「貴様、一体どうゆうつもりで、この俺に話しかけてんだ!? バトルをして勝つなんて事は決して考えない事だな…」
「考えていたらどうする?」
「その必要が無い位までに叩きのめすまでだ」
と、そんな男の側に2人の男女がやってきた。この男のチームのメンバーの様だ…。
「フン…ここが街道コースの実力者が集まる阿蘓か。さっき少しコースを見てきたが大した事無いな」
「こんな所でウロウロしていないで、さっさとウザイ走り屋とケリをつけるよ」
チームメンバーまで傲慢。つまりこのチームは傲慢な3人組だ。
「こ、こんな奴等にここの連中は負けたのか…」
がっくりと肩を落とす高山に、エボ8の男が反応する。
「こんな奴等…か。はっ、褒め言葉として受け取っておこうか」
「あ、そう…」
しかしこのまま話していても埒が明かないので、無理やりでもバトルをさせてもらう事に。
「俺とバトルしないか? 車はあのインプレッサだ」
「インプレッサね。私のスピードスターの敵じゃなさそうだわ」
「あのインプか…ん?」
Zの男だけは、竜介のインプレッサを見た途端表情を変える。
「…智史が噂をしていたのは、まさかお前か?」
「フォーエバーナイツの事か?」
そして、男は驚愕の事実を語り始めた。
「そうだ。俺とあいつは古い知り合いでな。免許も一緒に取った仲で、その時からテクニックを磨き合って来た。
だがあの上原とか言う奴が、俺と智史の仲を引き裂いた。その上原と、智史をお前は倒したのか。…なら、バトルしてみるか」
「よし、始めよう。俺は野上だ」
「俺は黒岩(くろいわ)。この女は唯(ゆい)。こっちの奴は東堂(とうどう)だ」
勝負はSPバトルで、3人とも下りのフルコースで勝負だ。
まずはエボ8の東堂からである。
「3,2,1、GO!」
東堂のエボ8は、重くなったCT9Aとは思えない程良い加速を見せる。
(速いな…)
だが、東堂のコーナリングは突っ込み重視。1コーナーで突っ込みすぎた東堂をは立ち上がりでもたつく。
そこを見逃さず、立ち上がりで竜介はぎりぎり前に出る事に成功。
(抜かれたか…だが、まだ終わったと思うなよ)
東堂も負けじと、鋭いブレーキングで着いて来る。
(突っ込みに関してはこっちが上…所詮1世代前のGC8が、俺のエボ8に勝てるとでも思ってるのかな?)
ここの速いドライバーは抜かれてから本領発揮するのか? と思わざるを得ない。
それでも、きついコーナーの突っ込みと立ち上がりでは、インプレッサが速い。
岸を抜いた直角左コーナーから、ゴールまでの区間で一気に引き離し、東堂のSPゲージを削りきって何とか勝利。
(俺…負けたのかよ)
「次は私ね。とっととやりましょうよ」
「ああ、女だからって手加減はしない」
やっぱりこの唯と言う女は、嫌な性格だ…。
「3,2,1、GO!」
唯のスピードスターはとんでもない加速で、GC8を引き離す。
下りのスタート直後は長いストレートなため、あっという間に80m近い差をつけられてしまった。
(しかもあれ、ターボチューンだな)
そう、唯のスピードスターはボルトオンターボであった。
しかし唯は立ち上がり重視なのか、かなりヘアピンの手前でブレーキング。一気にV字ターンを決めようと突っ込み重視で
竜介は差を詰めるが、ちょうどインが開いていたのでスパッとオーバーテイク。
(よし、後は逃げるだけ…!)
だが、抜かれた唯は闘争心をむき出しにして、コンコンとバンパーをつつきながらGC8にすさまじいまでのプレッシャーをかける。
(くっ…でも今は先行しているから、大丈夫、大丈夫…!)
ミラーをひっくり返して後ろを見ないようにし、立ち上がり重視の走りをする唯に対して、竜介は突っ込み重視で応戦。
コース幅を目いっぱいまで使い、スピードスターを引き離そうとするも、脅威の加速力でくらいついてくるスピードスター。
最初の連続コーナーを抜け、右にだら−んと曲がるコーナーを抜けるとストレートへ。
ここでは道の中央を走ってブロックし、その先の左、右、そして直角左と続く連続コーナーでは
直角コーナーでサイドブレーキを引いて小さくクリアする竜介。
そしてサイドミラーをチラッと覗くと、まだしっかり唯がくっついてきている。
(充って奴が負けたのも、わかる気がするな。とんでもなく速いな、この女は…!)
その後の短いストレートではテールトゥノーズ。しかしこの区間は狭い為、前に出ていればこっちが全然有利。
その後はまたいくつかコーナーがあり、その後にまたストレート。
(まずいわね。このままでは逃げ切られるわ!)
このストレートを駆け抜け、下りながらの高速S字コーナーと左ヘアピンを抜け、右コーナーを抜ければゴールだ。
唯はまずストレートとS字コーナーで差を詰める。
そして左ヘアピンへのブレーキングで一気に差を詰め、竜介のインに飛び込む!
(来たか!)
左ヘアピンでインに飛び込んできた唯を見つつ、アウトで踏ん張ってコーナリング。
ここは直角コーナーと同じく1速で曲がる。
そして最後の右コーナーを立ち上がり、加速に移る2台だったが…。
(…滑った!?)
唯は立ち上がりで着いて行こうとするあまり、アクセルを踏み込みすぎてふらついてしまう。
立ち上がりでふらつくスピードスターを横目に、竜介が先にゴールを切ったのであった。
「智史を倒したのは本当のようだな。だが、俺はあいつよりは速いと自負するぞ」
かなり自信過剰な黒岩。果たして…?
「3,2,1、GO!」
最初の直線からの右ヘアピン。ここではZは立ち上がり重視なのか若干早めにブレーキング。
藤堂とやった時のように、インから抜こうとする竜介だが…。
(…抜けない…)
上手い具合にブロックされ、立ち上がりでまたZのテールを拝む竜介。
その後も突っ込みで抜こうとするが、やっぱり上手くブロックされてしまう。
真中を走り、前に出させない走りをする黒岩。
じゃあその他はと言えば、直線はZのパワーが存分に発揮され、かなり速い。このZも、唯のスピードスターと同じくターボチューンの様だ。
コーナーもヘアピンに近い低速コーナーを、突っ込み重視のブレーキングからアウトぎりぎりのコーナリングを繰り返して抜ける。
ブレーキングでタイヤがロックしようとも、多少のロスはものともしない豪快な走り方である。
しかしそこでロスが出ている為、そこを竜介は抜くのに利用しようと考えた。
コースは中盤に差し掛かり、連続して襲い掛かってくる5連続のコーナーを抜ける2台。
その後に待ち構えるは少しの直線。ここで竜介は勝負に出た。
(この連続コーナーの、この5つ目の右ヘアピン、ここをコンパクトにまとめて…!)
アウトいっぱいまで膨らんで立ち上がる黒岩のZ。
(よし、あいつにはこれ程までのライン取りは出来ないだろ…う?)
自分の技術に自画自賛しながら、ちらりとバックミラーを見る黒岩。
しかし、そこにインプレッサのヘッドライトは無い。
その代わりに、そのヘッドライトは自分のZの横から現れてきたのである。
「な…!」
(ここで勝負だ!)
立ち上がり重視でコーナリングし、竜介はインプレッサのパワーとトラクションで右から並びかけていく。
ここは少し変わったセクションで、下り勾配がついた直線の後に左、右、きつい左とコーナーが襲ってくる。
上手くブレーキングしなければ、アウト側の壁に激突してクラッシュだ。
岸のNSXとバトルした時と同様の展開だが、問題はZの重量だ。岸のNSXよりこのZは多分軽い為、押さえきれるか解らない。
(だが…ここであいつを抜かなければ、この先もブロックされる!)
サイドバイサイドのまま、Zとインプレッサは左、右とクリア。黒岩と竜介はブレーキングバトルになる。
岸の時と同じく、アウトから仕掛ける竜介!
(アウトから来られると、俺の行き場が…っ!)
この状況ではもはやブロックでラインを塞ぐ事は出来ず、きついラインの為コーナー手前ではいつもの様に
突っ込み重視でブレーキング出来ない黒岩。
対して竜介は、岸の時より若干速めのスピードで直角コーナーに進入。
早めに減速しなければならなくなった黒岩を、アウトからオーバーテイクした竜介。
そのまま2台でツインドリフトで左コーナーに入り、綺麗に姿勢を決めて立ち上がる。
黒岩もその後はゴールまで食らい着いて行ったが、竜介の前に再び出る事は出来ずにバトルは終了した。
「高山、そろそろスタートの時間だぞ!」
「ああ、今行く!」
2006年4月。国内ラリーのチームを立ち上げた竜介は街道を引退し、RX−7を売った高山にインプレッサを譲り渡した。
自分はBP5の新型レガシィワゴンを買い、ノーマルで乗っている。
高山が譲り受けたインプレッサは、高山の普段の愛車であると共に、ラリーの舞台で使用されている。
この2人が街道サーキットに戻る日は、もう無い。これからは、2人がラリーで伝説を作るのだ。
第6部 完