第7部第1話


誰もが飼いならされてしまった街に潜む

野生の瞳を持った鋼の獣たち。


彼らの多くは群れを成し、

夜が訪れると、馴染みのPAに集まってくる。

目的はひとつ。


すべてのTEAMを呑み込んで、

首都高最大にして、最速の存在になること。









この物語は、白石瑠璃が筑波サーキットでCランクライセンスを取得し、サーキットレースに参加し始めた頃。

同時期に野上竜介が街道サーキットを攻め始めた頃まで遡る。



2005年4月。首都高では、また新たなドラマが繰り広げられていた。

C1GPの開催もされている首都高サーキットではあるが、それは環状線…しかも夜は環状線内回りのみだ。

残りのコースエリアは、公道ベースのハイテクサーキットとして新たに生まれ変わった、首都高速道路に集まってくる首都高ランナーたちがしのぎを削る。




この首都高サーキットに、1人の男がやってきた。赤のZZT231、トヨタセリカ、SS−Kに乗った男。

(ここが首都高…)

男の名前は山中 正樹(やまなか まさき)。昼は普通のサラリーマンで、休みの日には富士スピードウェイへと通い詰めていた。

しかし、この不景気で冬のボーナスが2割カットされてしまい、走行費がかからない首都高サーキットへと行くことを決意したのであった。



まず正樹はチームに入ることから始める。ここでは15のチームが権力争いをしている。

中には群れずに1人で走っている者達もいるが、チームに入らないと全首都高の制覇はありえない。


選んだのは「The Road Of Justice」。

かなり昔からあるチームで、リーダーは昔R34GT-Rに乗っていた。

勝敗よりも走りを楽しむことを目的に結成されたが、最近は少しずつ勝利主義的な方向にシフトしつつある。

メンバーの職業やマシンはバラバラで、寄せ集め的な印象は否めない中堅レベルのチームとチームとして知られている。

リーダーはR34を壊してしまったために、今ではアルテッツァに乗っている。



そのチームに入った正樹は、少々苦戦しつつもサーキットで鍛えたテクニックでチームメンバーを1人倒した。

こうしてチームの中で少しずつ、他のチームのライバルとバトルしながら、自分のチームの名前を上げていくのだ。

リーダーになれば、この首都高で有名な走り屋が挑戦を仕掛けてくるかもしれない。

まずはそれをするために、周辺チームとの抗争、そして一匹狼の走り屋「ワンダラー」を倒していくことに。




正樹のセリカは今現在のところはライトチューン。と言ってもマフラーを変えた程度くらいだが。

改造というものにはあまり興味が無かったが、ここでトップを取る以上、改造は必要不可欠だろう。

ワンダラーや他のチームの奴らに勝つと金が手に入るらしいので、それを目当てにバトルするのもありか、と思ってみたりする。

基本的には週末の金曜日だけは、高確率で会社の飲み会があるので、それ以外なら来られる。

これからどうなっていくんだろう、と首都高の出口へと向かいつつ、正樹はこの先のことを考えるのであった。



数日後。他チームのメンバーとバトルを繰り広げていた正樹は、金が少しずつ貯まってきた。

チームはチームのほうで、他のチームのところに侵攻していくのはいいのだが、後ちょっとで必ず負けてしまうのでなかなか侵攻できない。

早めに自分がリーダーになるべきかな、と小さくため息をつく正樹。


そのためにはまずセリカの改造が必要だ。

現在の資金は50万。ドレスアップなどは「速さ」には繋がらないので今のところは無視。

コーナーの多い環状線では止まれる事、曲がれることが重要なので、ブレーキとサスペンションを強化品に取り替える。

エンジンも少しいじり、加速で負けないようにする。



…が。メカのことがよくわからない正樹は、近場で見つけた整備工場で改造することに。

「…あんた、初めて見る顔だな」

「はい。山中正樹と申します」

「セリカか…どこか走っているのか?」

「はい、首都高サーキットを」


中から出てきた従業員らしき男は、その言葉にドキッとしたような顔をした。

「そうか。1つ、質問していいか?」

「何ですか」



「本当に、首都高でトップを取りたい……そういう気持ちは、あるのか?」



いきなり何を聞いてくるんだ、この男は・・・。そういうことを考えたが、ここは肯定的な回答をしておいたほうがいいだろう、と正樹は考え、

「はい」

とまっすぐに男の目を見て返事を返す。

「よし…良い目だ。その目をしている奴は、きっと速くなる。車持って来いよ」

その男に言われるまま、正樹はセリカを工場の中へと預けた。



それから数日後、改造が終わったセリカのテストドライブのために首都高へ。やはりブレーキの強化は大きい。

これにより、コーナーへの突っ込みがより奥まで行ける様になった。

エンジンもいじったことで、加速勝負でも首都高ではパワーの亡者が多い中、以前より負けなくなった。

そしてより多くの金を稼ぐためには、他チームとバトルをするよりも、ワンダラーと呼ばれる一匹狼の走り屋を倒していくのがいいだろう。


PAにはライブモニターが設置されており、そこには今、そのPAのエリアを走っているライバルが映し出される仕組みになっている。

そのモニターに映し出されるライバルを、モニターについているボタンを押すことで、

そのライバルにバトルの挑戦を示すメッセージが送られる。そういう機械を取り付けてあるらしい。便利な世の中になったものだ。



挑戦を受けたライバルはキャンセルすることが出来ず、その場でハザードをつけて停車し、

挑戦した走り屋はそのライバルが停まっている地点まで行き、同じくハザードをつけて停車する。

そして簡単な自己紹介の後、挑戦したライバルが、好きなタイミングでスタートを切れるという仕組みだ。

これも、首都高がハイテクなサーキットへと生まれ変わったからこそ、できる仕組みなのである。


正樹はいつものごとくチームバトルを負けで終え、PAへと戻ってきた。

ここからは自由行動である。

チームの名前はもう十分に汚れているので、これから先、少しくらい負けが増えてもいいだろう。そういう気持ちで

ライブモニターからワンダラーのライバルを選んだ。


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