第7部第2話
正樹が選んだワンダラーは、同じ芝公園をテリトリーとしている「ゴールドライセンス」。
早速そのライバルにバトルを申し込み、奴が停まった地点まで向かう。
奴の車は日産・R32スカイラインGT−R。
しかし加速を見る限り、あまり改造はされてそうもない。その上ここはコーナーの多い環状線。
外回りはスピードが乗るが、運のいい事にスピードが乗りにくい内回りと来ている。
正樹はそのことを踏まえ、十分に勝算があると踏んだのだ。
(あれか…)
フロントガラスにそのR32GT-Rが見えてきた。正樹はその横にセリカを停め、ハザードを点けて停車。
R32からも男が降りてくる。
青髪オールバックの紳士風な男だ。ゴールドライセンス、と呼ばれるだけあり、R32も金色である。
「こんばんは。私にバトルを申し込んだのは、あなたですか?」
「はい。山中正樹です。よろしく」
「塚本 弘道(つかもと ひろみち)です。お互い良いバトルをしましょう」
前述の通り、スタートは正樹のタイミングで出来る。当然相手は出遅れるが、それはスタートのハンデだ。
正樹は心の中でカウントを入れ、スタート。
続けて塚本もスタートした。
バトル区間はスタートとゴールが設定されており、もはやお馴染みのSPゲージを示すメーターも車内に取り付けられる。
相手より先にゴールするか、相手のSPを先に減らせば勝利だ。
芝公園は赤坂ストレートの出口から、汐留S字の出口までが区間となっている。
先行した正樹は、まず塚本のR32をブロックする。しかしその塚本は、正樹の走りに眉をひそめた。
(マナーがなってない…)
「ゴールドライセンス」という塚本の通り名は、車が金色というだけではない。
塚本は免許を取ってから、無事故、無違反、無検挙、というのが自慢で、ゴールド免許を持っている。
それは首都高サーキットでも活かされ、マナーのいい走りで評判が高い。
そんな塚本の思いなど露知らず。正樹は徹底したブロック戦法とグリップ走行で、R32の前をひた走る。
コーナーでは軽いセリカが速い。
が…左コーナーを2つ抜け、その先の直線では差をつめられる。
(つめられるな…パワーではやっぱり向こうが上か)
そんな事は想定内。正樹はこの先の高速2連続シケインで、R32を速いコーナリングで引き離す。
その後の直線ではつめられるが、さらにその後の、新環状に合流する地点に作られた難関。下りながらのきつい左コーナー。
ここでは早めにブレーキングし、アンダーステアを出さないようにコーナリング。
下りながらなので荷重もフロントにかかる。
ここでしっかりとR32を引き離し、更に汐留S字でもしっかりとブロックしたまま、正樹は塚本を振り切って先にゴールしたのであった。
塚本を打ち破った正樹は、チームのメンバーとバトルをしてまた競り勝ち、順位を更に1つ上げる。
チームメンバーは正樹を入れて8人。
現在、正樹は6番手まで浮上している。正樹は塚本を倒してもらった金で、また整備工場へと向かった。
「調子はまずまずみたいだな」
「はい」
「そうか……やっぱり直線がつらいか?」
「ですね。コーナーで勝てても、これじゃあ」
「わかった。クロスミッションキットを入れよう。ギア比を加速重視にセットアップしておく」
それから数日後、前とは違い、最高速は低くなったが加速力がその分上がっている。
環状線では最高速よりも、加速とコーナリング、ブレーキング性能が重視されてくるのだ。
(いい感じだ)
チームバトルも、自分は勝てるようになってきたが、他のメンバーが惜しいところで負けてしまう。
これはやはり、自分が早急にリーダーにならなければと思う正樹。
このままじゃいつまで立っても埒が開かず、かといって、今はセリカを改造できるような資金もない。
やはり自分から行動するしかない。
チームのみんなには悪いが、他のチームのメンバーにも積極的にバトルを仕掛けていく正樹。
銀座、神田橋、霞ヶ関と、環状線の全てのエリアにいるライバルたちとバトルしていく。
幸い、自分と同じほかのチームの下っ端はそれほどレベルが高くないため、
コーナーで追い抜いて勝つというのが常用手段になっていた。そして資金も少しずつであるが貯まっていく。
そんな正樹が、次に目をつけたワンダラー。それは「サイレント バーバリアン」。
噂によると外人らしい。
バトルを申し込み、その場所に向かった正樹の目の前に現れたのは、赤いアルテッツァだった。
そのアルテッツァから、噂どおり外人が降りてきた。
「初めまして」
「初めまして。サイレントバーバリアンさんですか?」
その正樹の問いに、男はうなずいて返す。
「アルス・ルクエルだ。よろしく」
流暢な日本語を話すこの男は、たぶん通訳か何かをやっているのだろうか…?
スタートを切った正樹の後ろから、物凄い勢いでアルスが追いついてくる。
今回は外回りを使って勝負なので、スピードが乗る。
エアロがついていないこのセリカは、高速区間では不安定になりやすい。そのことを踏まえ、ハンドルをしっかり握る。
FFなのでスピンはしにくいと思うが、念には念を入れて…という奴だ。
この銀座線は京介や緒美が走ってきた当時と同じ、中央分離帯があるセクション。
直線が長いので、鬼のようなブロックをかます正樹。
勝つためには手段を選んではいられない。さすがにバンパープッシュなどはしないが、こうでもしないと
勝てないのだ。
(ブロックブロックって…)
その走りに、何だかアルスも呆れ気味の顔をしている。マシンパワーはアルスのアルテッツァのほうが上だが、
その前に橋げたのセクションを超えてしまった。
ここからは細かいコーナーが続く。恐怖心はどんな人間にも必ずあるもので、橋げたのところでアルスはブレーキを踏んで少し減速。
しかし、正樹はセリカのコンパクトなボディを活かし、アクセルオフのみで通過。
そのまま一気に差を広げ、アルスのSPゲージをゼロにしてしまったのであった。