第7部第3話
(よし、また1つ上がったな)
アルスを倒した勢いで次のチームメンバーにもバトルを仕掛け、何とかギリギリで勝利した正樹。
R32GT−Rが相手だったが、同じ車に乗っていた塚本の時と同じ戦法で勝利。
その足で直接整備工場へ向かい、更にエンジン関係に手を加えてもらう。
「R32に勝ったんだって? 話、聞いたぞ」
「え? ええ…でも何故あなたが?」
首都高サーキットを走っていることは会社の人間にしか話していないはずだ。なのにどうしてこの男が知っているのか。
「首都高で走っている奴が、良くこの工場に来るからな」
それなら納得か、とばかりに、正樹はうなずいた。
「まぁ、この京介(きょうすけ)も、昔は色々伝説になったマシンを手がけたもんだ」
そう言って男…京介は、どこか遠い目をしながらセリカを弄り回す。
「京介さん…あなたも首都高を?」
「昔ちょっとな。今はもう俺の時代じゃない。世代交代って言うのは、必ずやって来るもんだから」
昔は首都高を攻めていたこともあるらしいとの新事実もわかって、色々と情報ももらえそうだ。
「仕上がりにはもう少しかかるな。悪いけど」
「いえいえ。それじゃ、俺はまた数日後に」
「ああ」
数日後。セリカの違いを身をもって実感する正樹。
今まで以上に加速が良くなり、これなら同クラスのライバルには簡単には負けないだろう。
勢いに乗った正樹は、環状線でチームとは関係なしにどんどんバトルを仕掛けていく。
チームバトルでも更に1つ順位を上げ、ナンバー4の座に躍り出た。
次にバトルするライバルは、またしてもワンダラーの「不屈のアレキサンダー」。
こいつもR32GT-Rだ。
霞ヶ関を拠点としており、トンネルの多い区間。内回りは千代田トンネル入り口からスタートし、
霞ヶ関トンネルを抜けたところでゴールだ。
緑のR32GT-Rの横にセリカを停め、車から降りる。R32の中から降りてきたのはオレンジの髪の毛をした、ガタイのいい男だった。
「へぇ、セリカか」
「あんたが不屈のアレキサンダーだな」
「そうだ。本名は新城(しんじょう)。セリカだからって手加減はしないぜ」
スタートは正樹が先行した。
一方の新城は、短期決戦のバトルがあまり得意ではない。
歴史的英雄であるアレキサンダーのように、首都高全域を制覇するという野望を新城は胸に秘めている。
3000kmを給油時以外、不眠不休で走破した経歴を持つタフな経験もある。
その愛車は耐久力第一主義の仕上げのため、スピードという点では大きな不安を残している。
なので無理な改造は一切せず、ブーストアップもしていない。
加速ではさすがにセリカより速いが、コーナーでも無理をしないようにと思って減速を過剰にしてしまう新城。
当然、全開で駆け抜ける正樹は新城を引き離す。
(手ごたえのない奴だ)
どこか拍子抜けしながらも、しっかりと勝ちをものにするため、トンネル内を全開で走り抜けた正樹。
結局1回も抜かれることなく、霞ヶ関トンネルを駆け抜けたのであった。
続いてバトルするのは「スタートダッシュ牧」。こいつが乗る車は何と三菱のGTO。
今の現状では不利かな…と思いつつ、とりあえずバトルを挑むことにした。
コースは環状線外回り、芝公園区間。
汐留S字からスタートし、霞ヶ関トンネル入り口でゴールとなる。塚本の時とは正反対だ。
「来たか…俺は牧(まき)。あんたは?」
「山中だ」
「わかった。悪いけど俺のGTO、かなり速いぞ?」
スタートは正樹が取った。…だがそれは一瞬の事。
何と牧のGTOには、ニトロが積まれていたのだ。噴射することによってロケットのように加速力を得る。
「スタートダッシュ牧」と呼ばれるゆえんはここにある。
牧の本業はマラソンランナー。大きなマラソン大会に一般参加で出場することが趣味。
スタートして400メートルは、テレビに映ることを考えてダッシュする。
その心がけは走りにも共通する。
マラソンのスタートダッシュ同様、彼の走りもスタートダッシュが命。当然チューンはゼロヨン仕様。
ど派手なエアロと火を噴くマフラーがお気に入り。先行してから徹底したブロック戦法で、着実な勝ちを狙ってくる。
コーナーが多い環状線。最初こそ先行できた牧だが、すぐに環状線へ合流するための右コーナーが。
ここで正樹が追いつく。
(速い!)
コーナー脱出時の速度が半端無いGTOに対し、勝負できるところといえば、この先の区間しかないのである。
(まだ、勝負は終わったわけではない)
表情は一切変えず、まるで某サイボーグのように無表情でセリカを運転する。
今まで負けてきた分を、ここらで一気に取り戻しておきたい。チームバトルでは負けてきた分、ここで名前を売っておきたい。
そういった思いで、連続シケインに飛び込んでいく正樹。
(あいつとの差は…どれくらいだ?)
連続シケインを抜け、バックミラーをちらりと見る牧。そして差を計算する。
(1…2!?)
何と、直線で稼いだ分を少し取り戻されている牧。この先はコーナーが続く区間だ。
(くそっ…!)
舌打ちをして前を見て、コーナーを1つ1つ丁寧に処理していく牧。しかしそれでも、後ろの正樹のセリカは少しずつ差を縮めてきている。
コーナリングは軽いセリカが速い。重い車はどうしても車重に車体が振り回されるために、コーナーではスピードを上げにくい。
セリカの突っ込みスピードを極限まで上げ、グリップ走行で無駄をなくして差を詰める。
勝負は連続シケイン後のきつい右コーナーへ。
ここで牧は過剰に減速。しかし、正樹はその横をすり抜けて、車体をロールさせながらもコーナリング。
(抜かれた!?)
牧はあまりのコーナリングの速さに愕然としたが、この先はストレート。ここで差を詰める。
そして、最後の霞ヶ関トンネル前の右コーナーへ。ここをクリアすると同時にゴールだ。
(行けええええ!!)
牧はもう自爆覚悟でブレーキを遅らせるが、そんな事は解りきっていたような感じで、正樹は早めにブレーキング。
減速が遅すぎて、コーナーアウト側に膨らんでいくGTOを冷ややかな目で見つつ、
正樹はもう1度抜き返して前を取り、先にゴールしたのであった。