第6部第19話


ついにこの日がやってきた。北海道のBBSにスラッシャーから…街道最速の男から挑戦状が届いた。



「また凄い走り屋が現れたんだな。

俺とのバトルを望むなら、北海道PAに来てくれ。

何時でも相手になるぜ。」



返信した竜介はPAへと向かう。

そこに待っていたのは、某タイヤメーカーを思い出させるカラーリングの、ランサーエボリューション3。

最後の最後で、スバルvs三菱の対決になってしまった。これも運命なのか。


そのエボ3から降りてきたドライバーは、竜介たちに気がつくとまっすぐに歩いてきた。

「…凄い走り屋と出会うのは、これで3度目になるか。俺は森本 智史(もりもと さとし)

エモーショナルキングという呼び名があるけど、そんな事はどうでもいい。俺は、速い奴が現れれば倒す。

これまでに出会ったのは上原 隆って奴と、R33GT−Rに乗った奴…そして、あんただ」

隆とバトルした事があるらしいこの男は、まっすぐに竜介の目を見つめる。

「以前突然現れた走り屋、オマエも彼と同じニオイを感じる。今夜はいつになくワクワクするよ。楽しませてくれよ!!」


LFで智史が先行だ。高山は名残惜しさを感じながらも、カウントを入れる。

「行きます! 3,2,1、GO!」

ついに最後のバトルが始まった。エボ3は物凄い勢いでコースを駆け抜ける。それに負けじと竜介も食いついていく。


思えば街道サーキットに参加して、今まで色々な事があった。

チームが解散し、アクセラを買い、多くのライバルと出会い、金を稼ぎ、数々の限界バトルを経験してきた。

元ラリードライバーとして、ここでの経験は良い物になり…そして伝説になろうとしている。

(逃がさない…絶対に!)

前を走るエボ3を逃がさず、しっかりハンドルを握って喰らいつく。

速い…が、抜けない相手ではない。全開本気モードで、全神経を集中させて、竜介は智史を追い掛け回す。


勝負は隆、令次と同じく、あそこの区間で勝負をかけようと誓う。

一筋縄ではいかない相手だ。

ジャンピングスポットを越え、多くのコーナーを抜け、最後のS字区間へと突入していく。

(さぁ…ここで勝負だ!)

狭いこのコースで120キロまで加速し、一気にエボ3のテールに張り付く。

そしてわずかにインを開けたエボ3の横に、竜介は迷わずインプレッサを突っ込ませていった。


(…負け…か)

抜かれた事で全てが吹っ切れたのか、智史はゆっくりとエボ3をスローダウンさせたのである。



「EMOTIONAL KINGとして、阿蘇のコースを捨て、一からまた自分を見直した上で、

誰も知らない未知のコースでやってみたかったんだよ。

そこに、例の走り屋が現れた…ただそれだけさ。

KINGDOM TWELVEもTHIRTEEN DEVILSも、

俺には無縁の走り屋だよ。」



コースとして誕生してからまだ幾ばくも立たないこの北海道で、その街道一の伝説となるバトルは幕を閉じる。

伝説には時間的な重みが必須だが、今晩のバトルは誰の目から見てもそのバトル一挙手一投足が伝説と呼ぶに相応しい。

正に、キングオブキングのぶつかり合いだった。

こうしてある1人の走り屋伝説は、街道コース全域に一瞬のウチに響き渡り、不毛な目的を持つ走り屋は、

一瞬のウチに街道コースよりその姿を見せなくなり、生々流転と繰り広げられていた、様々な障害も全てケリがつく。

結果として、この走り屋とエモーショナルキングとの一戦は、街道の世界に安達な時間を取り戻す結果となり、コースとして真の進歩を遂げる。



全てが終わり、街道の全てのコースを制覇した竜介は、高山と共に東京へ戻ってきた。

スラッシャーも、サーティンデビルズも、キングダムトゥエルブも、エモーショナルキングも。これで全て倒した。

資金も1000万円を超え、これであのプロジェクトを始動出来る。

そのことを高山に話そうと、竜介が口を開きかける。しかし高山は、箱根へと行ってみないかと持ちかけた。

勝負続きでゆっくりと走る機会がなかったため、ドライブに行こうというのだ。


夜。睡眠をとった2人は箱根へと向かった。そこには満天の星空が輝いており、晴れ渡る空が2人を待っていた。

まるで2人の街道制覇を、祝福してくれているようであった。そこで竜介は高山に、計画のことを話そうと再び口を開きかける。

ところがその時、PA入り口のほうから物凄いエンジン音が聞こえてきた。

(この音は…)

RB26のエンジンの音だ。2人が入り口を振り向くと、不思議なエアロパーツをまとったR34スカイラインGT−Rが。


そして、そのR34から1人の男が現れた。茶髪とオレンジの髪を左右で分けた、やや長髪の男である。

見かけないR34だが、凄い威圧感だ。

竜介と高山は、吸い寄せられるかの様にそのR34に近づいていった。

「そこのあんた、ちょっといいか?」

「何だ?」

「見かけない顔だが、箱根にはよく来るのか?」

竜介の問いに、男は首を横に振る。

「…いいや」

「良かったら、俺とバトルしてくれないか?」


その竜介の要望に、男は腕を組んで考え込む。

「俺とやるのか? その資格が貴様にあるというのか? それをここで証明するというのか?」

「そうだ」

「なんたって、竜介は街道最速の男だからな!」


高山の自慢に、男は表情を変えて頷いた。

「ああ…エモーショナルキングを倒したって言う野上は、あんたか?」

隠す必要も無いだろう、と竜介はその問いに対し、あっさりと認める。

「そうだ」

「…なら、やってみるか。この箱根の下りでな」

この男は一体…?

「俺は木下(きのした)。ゼロは全ての始まりを意味するものだ。そう、俺の伝説も、またここから始まる」

「ごめん、ちょっと何言ってるかわかんない」

「…同じく。だが、全力で行かせて貰うぞ」

「そう来なくてはな…」

何だかドラマが盛り上がらないなぁ、と思いながらも、木下のR34とバトルする事に。


「3,2,1、GO!」

木下のR34はまるで某ロボットアニメに出てくるようなエアロだ。しかし加速が恐ろしく速い。

だが、インプレッサだって負けてはいない。おそらくこれが最後のバトルになるだろう。

箱根を走るのは久しぶりだが、竜介は本気モードで木下のR34に喰らいつく。

速い事は速いが、北海道の五大ボスと比べるとそうでもない速さだ。だが油断は禁物。


(勝負は…最後の直線!)

そこまではタイヤを温存しておとなしく後ろに着いて行き、最後の直線で竜介は仕掛ける。

重たいボディを振り回してきたR34は、タイヤが磨耗して加速が鈍り、その横を怒涛の勢いで竜介のインプレッサが駆け抜ける。

最後の右直角コーナーではかなり手前からサイドブレーキを引き、木下をブロックしたまま勝利したのであった。


「…速かったな」

それだけ言って、木下はR34に乗り込み去っていった。これで全てが終わったのだ。

ハァ、と息を吐いて竜介はインプレッサに乗り込み、高山の待つ頂上へと戻っていく事にした。




「勝ったのか?」

「ああ」

「そうか…」

竜介は高山の傍まで歩いていき、いよいよあの計画を口に出す。

「俺…ラリーチームを作ろうと思うんだが。勿論上原みたいなのじゃなくて、ちゃんとした奴をだ」

「…へぇ、いいじゃないか。ドライバーとかの当てはあるのか?」

「ああ。そのドライバーなんだが……高山信幸、お前に任せようと思う」

その言葉に、高山の顔が驚きの表情になった。

「…俺が…?」

「そうだ。俺と走ってきた中で、お前は確実に成長してきた。今では俺と遜色ない。いや、俺はもう高山より下かも知れない」

「な…何言ってるんだよ。街道最速の男だろ!?」


しかし、竜介はそんな高山を見据え、びしっと指を突き指した。

「その街道最速の男が、今、お前にバトルを申し込む」

「……本気かよ?」

「そうだ。嫌だと言っても受けてもらうぞ」

その竜介の言葉を聞いた高山は、ポケットからRX−7の鍵を取り出した。

「…手加減しないからな?」

「勿論だ。LFで俺が先行する。始めるぞ」



スタートは竜介のタイミングで飛び出し、下りのフルコースを使ってバトルが始まった。

最初は怒涛の加速でインプレッサが、高山のRX-7を引き離していく。

(速っ!)

あっという間に見えなくなってしまったインプレッサ。だが、距離メーターを見ても200mの差はついていない。

コーナーでなら勝負できそうだ。

自分のドラテクとマシンを信じ、見えない相手を追いかける高山。


(ラリードライバー…か…それも悪くは無いかもしれないな…)

初めはあまり乗り気ではなかったが、この先もあいつと一緒に行動できるかと思うと楽しみだ。

だったら実力をはっきりと示す。そんな思いでコーナーへと飛び込んでいく。

(見えないけど…確実に差は詰まっている!)

メーターの数字が段々小さくなっていく。


(あいつは確実に、このインプレッサに近づいてきてる)

竜介もそう思いつつ、前へ前へとインプレッサを加速させていく。

だが、メーターの距離は確実に縮まってきている。


そして…。

(よし、見えた!)

中盤の2連続ヘアピン。ここで高山の目に、竜介のインプレッサがはっきりと映し出された。

しかしその後の立ち上がり加速ではまた引き離される。が、この先はタイトなコーナーが続くセクションだ。

コーナーでの突っ込みで少しずつ差を詰め、タイトコーナーセクションで一気に喰いつく。

(くっ…)

さっきの木下とのバトルで、最後にサイドブレーキでターンしたのが裏目に出たのか。インプレッサのリアタイヤのグリップが落ちてきている。

対して高山のRX−7は、まだグリップ力が残っている。

タイトコーナー区間、最後の右ヘアピンでアウトに膨らんだインプレッサを抜き、高山が前に出た。

(やはり…高山、お前は俺が認めた、最高の相棒だ)



「この星にも、まだこんな走りをする者が

いたとはな…」



木下からBBSに書き込みがあり、これで全てが終わった…かに思えた。

しかし、まだ竜介の戦いは終わってはいなかったのだ…。


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