Trip quest to the fairytale world第2部第6話
麗筆のリクエストを聞いたアレイレルは、何だか様子がおかしい気がしないでも無い
ハールに了承を貰ってから麗筆をUZZ40ソアラの助手席へ乗せる。
「じゃあそれ被ってくれ。それとシートベルトも……こうだな」
レンタルのヘルメットを麗筆に被せ、シートベルトも4点式の物を装着させる。
サーキットを走る上で何よりも大切なのは他人に迷惑をかけない事もそうなのだが、
怪我をしない様にする事である。
せっかく走行料を支払ってこうして参加している以上、気持ち良く走って走行会を終わらせたい。
それはドライバーだけでは無く、走行会を見物しているギャラリーやサーキットのスタッフもそうだ。
サーキットでは普通の車の運転とは違う走り方をする以上クラッシュしたり、車にエンジントラブルや
足回りのトラブルが起こったりするのは日常茶飯事である。
その中でいかにトラブルを減らす事が出来るか、と言うのはドライバーのテクニックやモラル、
それから車への日頃のメンテナンスが鍵を握っている。
アレイレルは元々プロレーサーとして活動していた過去がある為、サーキットの走り方については熟知している。
しかし、この備北ハイランドサーキットでのドリフトはクラッシュする確率が非常に高い。
それと言うのも、メインストレートから最初にやって来るコーナーが右に回り込む2つのコーナーが連続する直角コーナーなのだ。
空から見てみるとカタカナの「コ」の字になっている。
それだけなら特に何の変哲も無いコーナーなのだが、問題はそのコーナーの外側にあるガケ。
ガケと言うよりかは山を削って造られたコースなので、普通のガケと比べるとなだらかになっている部分もあるのだが、
実はこのガケが備北ハイランドでドリフトをする以上最も気をつけなければならないポイントである。
何しろ、このガケにクラッシュする光景は備北ハイランドの名物と言われる位までに良くある事。
1コーナーに向かって振り出し、ガケギリギリを掠める様なラインを取る事が出来ればなかなかの
上級者と言えるのだが、その上級者向けのラインを狙うのは非常にリスクが高い。
リアバンパーをぶつけて外す位ならまだ全然平気なレベル。
1番怖いのは1コーナーに向けて振り出したは良いものの、そこから1コーナーへのアプローチを失敗して
そのまま崖に向かって突っ込んでしまう様なパターン。
崖に向かって突っ込んで戻ってくるだけならいいのだが、昔は多めにあった土手が近年大幅に削られて
ほぼ直角に近い状態になった部分に突っ込み、そして止まり切れずに横転してしまうと言うのも良くある。
つまり、このコースは自慢の愛車が廃車になってしまう可能性が非常に高いコースである。
そのガケへの恐怖心に打ち勝ち、ハイスピードからのドリフトを決められるドライバーが
この備北ハイランドではレベルの高い走りをしているとみなされる。
アレイレルとハールはこのコースを走るのは今回で3回目位なのだが、今までの経験を活かした
テクニックでそれなりの走りを見せている。
しかしこの乗って来ている車でこのまま東京まで帰らなければ行けないので、ガケギリギリを狙う様な走り方はしない。
大会となればクラッシュ覚悟でアウト側のラインギリギリを狙って行くのだが、今日はあくまでも走行会なので無理はしない。
麗筆を助手席に乗せているとなれば尚更だ。
気に食わない相手ではあるが、それでも自分の車を壊す以上にクラッシュして麗筆に恨まれたら
何をされるか分からないのが怖い。
麗筆のリアクションはここでは気にしてはいけない。
何だか叫び声を上げたり、時には歯を食いしばって……いや、絶句している様な感じがするのだが
そう言うのにいちいち構っていては集中して走る事が出来ない。
勿論ドリフト初体験と言う事で本気の走りをしている訳では無いのだが、車と言う存在その物が
無いのであろう異世界からやって来た麗筆にとってはタイヤのスキール音、車の挙動とガラス越しに流れて行く景色、
エンジンの音全てが初体験なのである。
ヒッチハイクをしたプリウスに乗ってやって来たとは言え、そのプリウスはエコカーなのでこうしたチューニングカーでの
日常生活ではありえない動きは絶対に初体験であろうとアレイレルは思っている。
とは言え、余りにも手抜きな走りをしたらそれはそれで気付かれてしまうかも知れない。
なのでたまには最終コーナーの壁にバンパーがくっつく位まで車を寄せてみたり、前を走っている別の参加者と
ツインドリフトをかましてみたりと大柄なボディのソアラを派手に振り回す。
マシン自体はオーソドックスな仕上げ方をしており、エンジンにも足回りにもなるべく負担が掛からない様になっている。
そしてチェッカーフラッグが振られ、最終ヒートが終了してアレイレルはピットへと戻って行く。
だが、この時アレイレルは考えもしていなかった。
この後に巻き起こる、とんでもない出来事が自分達の身に降りかかると言う事を……。
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