Trip quest to the fairytale world第2部第2話


2018年2月10日。冬の日の出来事。

岡山県の備北ハイランドサーキットにやって来ていたハールとアレイレルは、このデンジャラスかつスリリングな

コースでのドリフト走行会を楽しんでいた。この日はあいにくの雨模様であるが、ドリフトをするにはタイヤも

減らないしオーバーヒートの心配も無いので逆にドリフト日和の日である。

そんな走行会の休憩時間、ハールが唐突にアレイレルにこんな話を切り出した。

「……なぁ、アレイレル」

「何だ?」

「喋る本の話知ってる?」

「知らない」


いきなり何を言い出すんだ、と思うアレイレルに対してハールは神妙な顔つきで続ける。

「……僕の家に喋る本があったんだけど」

「何それ? 下手なホラー映画じゃあるまいし……それってどんなのだ?」

「星形の陣の中に青い宝石がはまってて、金のカギ穴がついてる」

「ますます不気味だな」

だが次の瞬間、ハールはとんでもない事を言い出した。

「今日持って来たんだけど、見る?」

「……え?」


今日持って来た?

じゃあそもそも自分に見せる為に持って来たのか?

そう思っているアレイレルの目の前で、ハールはセルシオのリアシートから1冊の本を取り出した。

「これ。知らない内に僕の部屋にあったんだけど」

「何それ怖い」

確かにハールの言う通りの外見だ。

一体この本は何なんだ……とアレイレルが思っていると、その瞬間地球ではありえない事が起こり出した。


『わたし、騙されてこの本の中に閉じ込められちゃったの。出られるかどうかもわからないの……。

お願い、もうずっと外の世界を知らないの。私とお友だちになってくれない? 私を連れ歩いて、

色々教えてちょうだい! その代わり、私も色々あなたに教えてあげる……』

何処からか……いや、間違い無くこの本からいきなり女の声が聞こえて来た。

パニックの限度を超えると冷静になるのは人間の特徴だ、と言うのを何処かで聞いた事があるが、

今のアレイレルにもそれが当てはまった。

「おい、いきなり何か喋り出したぞ」

「えっ、どうしたら良いんだ!?」

「俺に聞くなよ! と、とにかく何処かに捨てちまえよ!」


若干パニック状態が表に出て来たアレイレルに対して、ハールは深呼吸を1つしてから

落ち着いて本に話しかけてみる。

「……誰なんだ、君は」

『わたしの名前はディーヴル、Dちゃんって呼んでちょうだい。あなたたちの名前は?』

「僕はハール」

「アレイレルだ」

名前を聞かれたので名乗ったまでだが、この本……Dちゃんは内心でとんでもない事を考えていた。

『(きひひひひっ、名前ゲットぉ!! タイミングを見て操ってやるぅ〜)ハール、アレイレル、よろしくね♪』


しかしその心の声は漏れていた!!

「んー、なんかやっぱりこの本怪しいな。捨てちまえよ」

聞こえていないふりをするアレイレルに続き、ハールも真顔で頷く。

「それもそうか。良く考えたら本が喋るなんてありえないしな。きっと僕等ドリフトしまくってて疲れてるんだろうね」

Dちゃんはその2人の会話に対して悲痛な叫び声を上げた。

『がーーーーん!!! やめてぇ、捨てないでぇ!!』

しかし、そこでふとアレイレルは考えてみる。

「いや、ちょっと待て。もし仮にこの本が喋ってるんだとしたら、1度霊媒師にお払いとかして貰った方が良いかも」

「それって結局煙でいぶしたりするんじゃないの?」

「ああそうか……でもまぁ、何か呪われてる本みたいだし……やっぱ恐山にでも持って行くか」

『燻さないでぇ〜』


「やっぱり何か喋ってる気がするんだけど、どうするこれ?」

「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、こうなったら一旦保留だ」

アレイレルとハールはこの変な本をどうしようかと悩みながら、一先ずハールのセルシオのトランクの中に押し込んだ。

『いや〜ん、くら〜い!!』

「それじゃ次のヒート、走りに行くよ」

「あー、そうだな。雨足強くなって来たけどまだだ大丈夫か……。大分の時みたいにならなきゃ良いけど」

岡山県までやって来てこの本に構っている訳には行かない。

かなり雨が降っているもののやはりこの状況はドリフトするには持って来いだ。


その次の走行ヒートも終え、最終ヒートに向けて準備をしようとしていたのだがDちゃんはまだトランクの中に居る。

「って、あれ? まだ「居る」よこの本」

「……どうにかして中を見てみないか?」

「バールの様な物でこじ開けてみるか」

アレイレルの提案で強硬手段に出るハールは、工具箱の中からバールを取り出してギコギコと金具をこじ開けようとする。

だが、次の瞬間ハールの身に信じられない事が!!

『無理やりだなんてぇ……ダ・イ・タ・ン! そんなイケナイ子にはオシオキなんだからぁ♪』

何と、ページの隙間から真っ黒な細い触手がしゅるしゅると出て来てハールに巻き付く!!

「あっ、ちょ、な、なんだ!?」

突然の出来事にハールは成す術も無く、がんじがらめ状態にされてしまった!!

「こ、これはやばい! こうなったら切るしか無いな!!」

アレイレルはセルシオのトランクから、内装を引っぺがす為に置いておいた電動ノコギリで触手を切ろうとチャレンジ!

果たして無事にハールを助け出す事は出来るのだろうか!?


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