Traitor and Escape第7話
「………あんたの事。嫌いじゃなかったけどな。…運がなかったのかな」
「……って、馬鹿エヴァン!黄昏てる場合じゃないって!あいつ助けねえと!」
なんとかワイヤーロープにしがみついている仁史を見たアランが慌ててエヴァンの肩を掴む。
「やべ、どうしよ……っ、これだ!」
エヴァンが周囲を見渡すと、若干古いがロープを見つけた。
急いで手に取り、仁史のもとへ投げる。
「おーいっ!掴まれ!」
「ああ・・・はぁ・・・・し、死ぬかと思った・・・・」
本職の警備員の仕事ではここまで死を覚悟した事はなかった。以前VSSEのエージェント達と活動した
時以上でも あったし・・・と仁史は投げられたロープを掴んで引っ張り上げられながら安堵の溜め息を吐いた。
「助かった・・・。後始末はVSSEの回収班とかに任せるのか? それからキースとあの女はどうした?」
仁史はこれからの事とあのキースとキャサリンの事を、VSSEの4人に聞いてみた。
なんとか仁史を引っ張り上げた二人は安堵の息を洩らす。
「あー……後始末はそうだな。こっちのほうでなんとかやってくれんだろ」
「キースは……いろいろ聞きたいことがあるから、一応気絶させる程度には留めといたけどな」
「キャサリンはー……途中で見失っちまったな……」
と、その時、屋上に続くドアが開く。
「あら、私たちがどうしたのかしら?」
聞き覚えのありすぎる声。件のキースとキャサリンが姿を現していた。
「……っ!」
アランとエヴァンのもとへとやってきたウェズリーとジョルジョもそちらを見やり、とっさに銃を構える。
「おっと、物騒だな。まあそう思わせたのは俺たちのほうだから何も言えないが…」
「今回は事情があるのよ、いろいろと。本部に戻ったら説明するから。とりあえず確実に言えるのは、
私とキースは裏切ってなんていないわ。潜入調査してたの」
キャサリンにそう言われるものの、すぐに信じるわけにもいかない。
「まずは銃を下ろしてもらえない?落ち着かないわ。VSSEのヘリを呼んだから、ひとまずそれに乗りましょう」
と、遠くからヘリの音が聞こえる。見ると、VSSEの文字が入っていた。
「……信じるしかないようだな」
「まあなあ。後で話聞けばいいよな」
「………帰ろーぜオッサン。……ラザニア、食いたい」
「ああ……そうだな。今回は特別にパンナコッタもつけてやる」
「やりぃ! ………ほら、あんたも、帰るぜ」
エヴァンが仁史の肩を叩いて引っ張る。そのまま7人は迎えのヘリに乗っていった。
と、その時仁史が右手を上げた。
「・・・ちょっと待って、俺、シルビアで来てるんだけど・・・」
VSSEが回収してくれるのか? と仁史は問い掛ける。
「えっ? あー……車はさすがにヘリに乗せられねえ…よな?」
「そうだな……この大きさだとな…」
ジョルジョがヘリを見やる。車を搭乗するにしては些か大きさが足りない。
「ならここでお別れってことか? っていうか、一人で帰れるか?」
遠足じゃあるまいし……とはジョルジョは思ったが、口には出さなかった。