Traitor and Escape第3話


だったら厄介だな、と仁史は悟る。

「元の味方が敵になったからと言ってそうそう割り切れるもんでも無い。俺は師匠の栗山からそう言われて来た。

でも経験を積む事によって躊躇は無くなって行くとも栗山から教わった。けど・・・・けど、割り切れない部分も

人間だからある。それは間違い無くな」

そこで一呼吸置いて、VSSEのエージェント達に仁史は問いかけた。

「しかし・・・・人間の心はそうそう簡単に変えられる物では無い。敵になった味方程恐ろしい物は無い。

向こうが完全に敵だと思っているのなら、躊躇無くこっちを殺しに来てもおかしくは無いだろうからな。

そこで今みたいに戸惑ってしまったら・・・・死んでもおかしくは無いだろう。その覚悟が果たして

御前達にあるのか? と言う所だが」


「味方っていうか、俺たちはほぼ初めて見たみたいなもんだからいいんだけどな。こいつは、そうもいかないんじゃないか?」

アランがエヴァンの肩に腕を置きながら問う。

「……まあ、俺もさ、すごく仲良かったってわけでもなかったんだけど。なんか、なんだろうな……寂しいのかもな。

…心配すんなって!次会ったら、割り切れるから。ちゃんと」

な? と笑顔を見せてくるエヴァンに、ジョルジョは苦笑し、頭を撫でる。

「話は終わったな? それじゃ、突入を再開するぞ」

外の様子を見ていたウェズリーが先導する形で、5人は奥へと進んでいった。

「だったら良いんだけど」

そう呟きながら仁史はVSSEのエージェント達の後ろを走って行く。ここから脱出する為に俊敏な行動を心がけたい所だが、

さっきのイグナシオとか言う奴の部下らしき武装集団がワラワラと沸いて出て来るのでなかなか進めない。


(ちっ・・・・)

こんな調子じゃ脱出は当分先になりそうだな、と仁史は自分の後ろから出て来た敵達の存在をVSSEに教え、

VSSEのメンバー達が居るルートは厄介そうなので別の脱出ルートを探す。

・・・・と。

(あれ、あそこって・・・・)

仁史が天井部分を見上げた所には、通風孔のダクトに繋がる鉄格子が。それに飛びついて引っ張ってみれば意外と

簡単に外れた。劣化でもしていたのだろうか。

「・・・・挟み撃ちになる可能性は無きにしも非ずだが、ここって何処かに繋がっている可能性があるから外に出られそうかな?」

一旦敵の攻勢が止んだ隙を見計らって、VSSEのエージェント達に仁史は問いかけた。


「ナイスっ!そっち進もうぜ」

仁史に続いて、エージェントたちはダクトを進んでいく。視界はあまりきかないが、敵と遭遇する危険が少ないだけマシだ。

「ネズミの気持ちがなんとなくわかった気がするぜ…」

「わかりたくはなかったがな」

軽口の応酬を叩くアランとウェズリーを見やりながら進むと、出口らしき網が見える。

仁史が網を蹴り外して降り、エージェントたちもそれに続いた。


と、ここで仁史が不思議な質問をVSSEのエージェントに投げ掛ける。

「1つ聞くけど・・・・壁に耳あり障子に目ありってどんな意味だか分かってるか?」

「壁に耳と障子に目が張り付いてるホラー屋敷のことだろ?」

アランの回答を無表情で聞きながら、他のVSSEのエージェントにも問う。

「・・・他の3人は?」

「俺もそういう意味だと思ってたけど…」

「…………すまん」

「壁は耳で障子は目になるイコール誰に話を聞かれているかわからないから気をつけておけ……だろう…?」

エヴァン、ジョルジョ、ウェズリーの回答を聞いた仁史が、この後意外な行動を取る!!


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