Traitor and Escape第1話
VSSE
キャサリン・リッチ
日本からの来訪者
2016年3月12日。VSSEの元に仁史から1通のメールが届いた。
「・・・・ジョルジョとウェズリーは、雨の日は嫌いか?」
その一言だけだったが、名指しして来るのも妙だと思ったので2人はとりあえず返信してみる事にする。
「……俺は好きじゃないな。あまりいい思い出がない」
「俺は好きだがな。雨音は作業がよく進むんだ」
雨が好きでは無いジョルジョと雨が好きなウェズリーがそう回答し、メールで返信する。
すると物凄く気になるメールが仁史から送られて来た。
「そうか・・いや、雨の日はドリフトしても水の膜でタイヤが磨り減らないから・・・。で、何だかキースがやらかしたらしいな。
それに少し関連するのかもしれないけど、この前ハックリーとネイトから連絡が来たんだ。VSSEの腐敗については
自分達も知っているって。だけどまだ見切りをつけるかどうかは決めかねているとな。
・・・後、俺は今ロシアに居るんだけど、ちょっとまずい事になった。・・・・ウラジオストクで大規模な人身売買組織が
活動しているらしくて、老若男女問わず連れ去られているらしい。で、何でこんな事をメールで御前達に話したかって
言うと、その組織の連中の中に以前VSSEの本部で見かけたエージェントの1人がいた気がするんだよ・・・・」
VSSEの腐敗が進んでいるのはどうやら本当らしいな、とメールの最後に記載した仁史はその集団の尾行をする事を決意した。
当然ジョルジョは気になったのでメールで回答を求める。
「………ちなみに。どんな奴なんだそいつは」
尾行を続けていた仁史はスマートフォンのメール機能に反応があったので開け、ジョルジョからの
メールだと分かるとすぐに返信を始める。
(メールだ・・・えーと、確か見慣れないエージェントが1人。茶髪の奴。それと言いにくいんだが、
もう1人が・・・キースっぽかったんだよ。あの装備・・遠目でも分かりやすいから。かなり親しげだった。
信じたくは無いけど・・・あ、それと茶髪っぽい黒髪の女も居た気がする。口うるさそうな奴だった。
俺は初めて見る奴だったけど、何せ雨が降ってて視界が悪かったから良く見えなかったんだ)
そんなメールを貰ったジョルジョは、メールで仁史に礼を言ってからウェズリーに問い掛けた。
「……そうか。ありがとう。こちらでもいろいろと調べてみる。…ウェズリー。ちょっと話がある。
このメールを見てくれ。……どう思う?」
メールを見せられたウェズリーは、落ち着いた口調で腕を組みながら答える。
「キースだとして…女のエージェントというのは…まさかキャサリン?」
そのジョルジョの問いかけに小さくウェズリーは頷く。
「だろうな。この見慣れないエージェントというのは…アラン、ではない、な?」
「ああ。確か仁史はアランと会っているはず…だと思うが。それに、あいつは近頃俺とよく任務に行っているから、ありえない」
そして、この時ジョルジョは最近の違和感に気がついた。
「……最近、キースとキャサリンの姿を見ないな。……また頭を抱える案件が増えるのか…」
溜め息をつくジョルジョの左肩に、ウェズリーの右手がそっと慰める様に置かれた。
「何はともあれまずは調査だろう。……俺も、あの二人が裏切ったなんていうのは信じたくはない」
二人にとってはそれを信じるしかなかった。二度も裏切ったりなどする人物には、見えなかったからだ。