Soldiers Battle第6話
そして、作戦の決行もまだまだ先の話になっているので今はとにかく我慢の時だ。
「抜かりは無いよな」
「ああ。あれだけ作戦の内容を練ったんだ。成功しなきゃ困るさ」
ヴィンテスの心配そうな声に対してパルスが静かに、けれども力強く返す。
ジアルの側近を務めているヴィンテス・ティクザードは現在29歳。ラルソンもジアルも不在の時は
同じ側近のパルスと一緒に部下達の指導をする。何時も謙虚な姿勢を忘れずに、基礎練習を重点的にする事で
応用に繋がると言う考え方を持っている彼は、鍛錬場で基礎練習に長い時間取り組んでいる姿が度々目撃されている。
普段の性格に関しても謙虚な姿勢を忘れないその姿勢は部下からも上官からも尊敬を集めており、
側近として上官であるラルソンとジアルのサポートに回る時も一歩引いた形を取る事が多い。
自分の武器としては得意なのが弓と回復魔術で、回復魔術に関してはその有効範囲の
広さが自慢出来るポイントだ。弓に関しては余り飛距離が伸びないものの、基礎練習を怠らないおかげで
その命中率と矢をつがえるスピードが恐ろしく速い。なのでなるべく相手を引き付け、そこから一気に急所目掛けて
矢を打ち込むスタイルを定番の戦法としている。家は帝都で代々続く貴族の家系なのだが
家は長男が継ぐ事になっているので、次男の彼は兵士部隊に入団した過去を持っている。
その後は特に何も無く、1日が過ぎて2日が過ぎる。
そうしてやっとパールリッツ平原を抜け、エーヴィド川を渡り、日が落ちて行く頃には
カーレヴェン帝国も通り過ぎてダリストヴェル山脈へと辿り着いた。
「よーし、今日はここで夜を明かす! そして明日から山脈の探索に移るぞ!」
カルヴァルの声で王宮騎士団と兵士部隊それぞれが野営の準備をする。
その中で、これから先の事についてラルソンはじっと考えていた。
(一体この山脈で何が見つかったんだろう? ジェバーは危険な物だとしか
言ってなかったけどな。それに、王宮騎士団がそれを利用する可能性もある。
……だったら、この作戦を必ず成功させないといけない。
危険な物の正体がわからない以上、早々に王宮騎士団の動向を
探らなければいけないな)
その事を考えつつ、夕飯を食べて早々に眠りにつくラルソンであった。
そして翌日から、ダリストヴェル山脈への進軍と調査が始まった。カルヴァルの命令で
部隊を2つに分け、半分ずつ王宮騎士団と兵士部隊がミックスした部隊になる。
更に分かれた先でその2つに分けた部隊をまた分け、各自分担して調査をするのだ。
ラルソンとジアルは山脈の中央部の担当となり、ヴィンテスとパルスは麓周辺の担当になる。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……馬で登れないから、結構きついんだよなこの山は」
「そうだな。だけど山頂まで行く訳じゃないんだし、中腹迄だからまだ気が楽だ」
王宮騎士団の後に続き、登山道を登って行くラルソンとジアルとその部下達。
だがこの後に、彼等には思いもよらない自体が巻き起こる事になる。
山頂まで歩けるルートをしばらく歩き、開けた場所に出て来た時に
それは起こった。
「よーし、この辺りで捜索を開始しよう。ジェバーが言うにはまだまだ鉱物が
眠っている筈だから、各員手分けして探すんだ。良いな」
カルヴァルの命令が再び下され、そこから調査が始まった。
部隊が分けられたとは言え、ラルソンとジアルは同じ部隊での活動になる。
が、彼等は何とも不穏な空気を感じ取っていた。
「……ジアル」
「ああ、わかってる。この感じは……」
この身体中が痺れるような、戦場に出た者であれば誰でも1度は感じる事のある気配。
……殺気だ。
そして次の瞬間、右側の林から何の前触れも無く角笛の音が響き
それに呼応して大量の兵士が飛び出て来た。
「な、何だ!?」
「くそっ!!」
ラルソンは剣を腰から引き抜き、ジアルは槍を構える。
そうして突然の戦闘が始まる。
いきなりの事であった為、兵士部隊の兵士達も驚きはした物の
すぐに武器をそれぞれ構えて戦い始めた。
剣と剣がぶつかり合い、槍が振り回され、弓が引き絞られ、斧が振り下ろされる。
更に、敵は突然出て来た兵士達だけでは無かった。
何と、一緒にここまでやって来た王宮騎士団の騎士達もまた
兵士部隊に向かって武器を向け、襲い掛かって来たでは無いか。
(数が多すぎるが、落ち着いて対処すれば良い!!)
普段、クールな槍捌きで有名なジアルからはその様に教えられた事も
あるラルソンなので、目の前の敵を1人、また1人と斬り捨てて行く。
しかし、戦いはこれだけでは終わりでは無かった。この山脈にはもう1つの部隊が来ている。
突然の出来事に対応していたのは彼等だけでは無かったのだ……。