Soldiers Battle第2話


訓練は剣の素振りから始め、その後に日替わりで様々な武器と馬術の特訓をしていく。

今日のメニューは素振りの後に槍と馬術の訓練だ。

「よーし、素振り止め!! 槍の特訓に移る!! 隣の者とペアを組め!!」

ジアルの声が響き渡り、今度は槍をそれぞれ武器庫から取りに行く。

その間にラルソンとジアルも槍の用意をする。


ラルソン・フィターティルは兵士部隊の副隊長を僅か27歳と言う若さで勤めている男だ。

平民出身ではあるが、その若さでこの立場に居るだけの事はあるので実力は並大抵の物では無い。

入団資格が得られる15歳になるとすぐに騎士団の門を叩き、毎日座学や礼儀作法、武術に馬術を

学んだ彼はその努力が実り徐々に地位をステップアップさせて行く。

そして3年前、西のヴィーンラディ王国から流れ込んで来た不法移民が主体となっている大規模な

盗賊を壊滅させる為に前線に出向いた彼は、そこで今の上官となっている腐れ縁のジアルと一緒に

果敢に立ち向かった。その結果として兵士部隊の中でジアルに続いて2番目に盗賊の討伐数が多かったのである。

その功績が認められ、24歳の若さで帝国兵士部隊の副総隊長に就任。

余り口数は多くないが正義感と真面目さが人一倍強いラルソンは、その地位に恥じない活躍をしようと

現在でも知略と武術の両方で勉強と鍛錬を欠かしていない。


最初は隣同士と言う事もあり必然的にジアルとラルソンの戦いになるが、特訓でも

お互いに手は抜かない。2人の内、槍となればジアルが有利だ。

ジアルは槍の扱いが得意なのに対し、ラルソンは片手剣の扱いが得意なのである。

的確に打ち込んで行くジアルに対しラルソンは不慣れな槍で苦戦を強いられるが、

それでも今まで槍の扱いも特訓して来ただけあって、端から見ている分には互角の戦いだ。

柄の部分でジアルの槍をガードして、それから素早く身体を捻って攻撃態勢へと持ち込む。

カン、カンと小気味の良い音が鍛練場に響き渡って行った。



鍛練も終わり、午前中の次の仕事は書類整理等の執務になる。それが終われば今度は見回りだ。

見回りは隊長クラスでもする事になっている物であり、一般の兵士達に混ざって毎日交代制で

午前中と午後の2回に見回りがある。

まずは執務の為に自分の執務室へと向かい、書類のチェックから始める。羽根ペンを持って

机へと向かい、書類の山へと目を通す。副総隊長ともなれば書類が多いが、

それでも片付けなければいけない事に変わりは無いので、こつこつと真面目に取り組むラルソン。

(報告書に騎士団絡みの事件が多発しているとの話がある。これは早急に手を打たなければ)

最近自分が感じていた違和感は間違いではなかった様だ。

この騎士団と言うのはどうやら王宮騎士団が絡んでいるに違いない。


その後見回りを終えたラルソンは執務室へと戻ろうとしたが、その途中で声をかけて来た者が居た。

「ラルソン副長!」

声のする方を振り返って見ると、そこにはこの国で1番偉い人物が立っているでは無いか。

「これはリュシュター陛下……。いかがなさいました?」

「いえ、丁度近くを通りかかったものですから。見回りですか、お疲れ様です」

「ねぎらいの言葉ありがとうございます」

彼こそがこのイディリーク帝国の皇帝であり、まだ28歳と言う若さのリュシュター・セリテュルであった。

「ところで……少しお話宜しいでしょうか?」

「私とですか?」

「いえ、出来ればジアル隊長も一緒に御願いしたい所なのですが……」

戸惑いがちに話すリュシュターに、ラルソンは重大な話なのかと探りを入れる。

「重大な用件ですか?」

「はい……」

「陛下、でしたらすぐにでも席を御用意します。どうぞこちらへ」

「どうもありがとうございます」


ラルソンはリュシュターと共にジアルが居る総隊長の執務室へと向かい、更に

ローレン、ヴィンテス、パルス、そしてこの国の宰相であるモールティ・アレデヴェルも

呼び寄せて口を開いた。

「して陛下、お話とは……?」

「その前に1つ約束していただいても宜しいですか? ここでの話は絶対に口外しないと」

「え? はい、もちろんです」

ラルソンがそう返事をすると、リュシュターは腹を割ったように一息置いて話し始めた。

「実は、王宮騎士団の話なのですが……」


話の内容は実に単純で、この前の密会と同じ様な内容がリュシュターからもたらされた。

どうやらリュシュターも、そしてモールティもこの騎士団の件を知っている様だ。

ラルソン達もそう言う事であればと、作戦の内容をこの2人に話す事にした。

「……そうですか、では兵士部隊も近衛騎士団ももう調査に?」

「はい、私達も見過ごす訳には行きませんから」

話を聞き終えて口を開いたモールティに、ローレンは落ち着きながらも緊張感のある声で返す。

「それでしたら私も微力ですが、最大限に協力を致しましょう」

「ありがとうございます、モールティ様」

皇帝と宰相の協力が得られる事もわかり、強力なバックアップが付いて安心も出来る。

後は作戦をしっかりと成功させるだけだ。


マークする王宮騎士団のメンバーは、まずは王宮騎士団長でありイディリーク帝国の将軍の1人でもある

カルヴァル・サルザード。また王宮魔術師でありカルヴァルと長い付き合いでもあるジェバー・アローザ。

そしてカルヴァルは王宮騎士団とは別に私兵団も持っており、その私兵団のメンバーは王宮の任務には当然

参加して来ないものの、この頃の怪しい行動には絡んでいる可能性が高いと部隊のメンバーは見ているので、

近々マークして素性を探る必要が出て来そうだ。


任務自体はまず王宮騎士団の素性を極秘に探り、怪しい動きをしていないかを調べる事。

それから王宮騎士団が怪しい動きをしているとなれば、これもまた極秘にその内容を探る事。

そして、内容がわかり次第王宮騎士団の面々を一網打尽にすると言う計画である。

唯一の気がかりは内通者の存在であるが、今の所この極秘任務を知っているのはメンバー位のものだろう。

後はローレンが王宮騎士団に密偵を向かわせているが、この極秘事項については知らないままである。

しかしこの作戦がそう上手くは行かないと言う事を、後に任務の中で知る事になる作戦部隊のメンバーであった。


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