Soldiers Battle第19話


そこでふと、ヴィンテスはこんな事を思いつく。

(まともにやりあっても勝ち目は薄い。だったらいっそ!)

それはこの森の木々を利用した作戦だ。

まず、レーヴァがこちらへ向かって来る事はヴィンテスにはわかっているので

それを逆に利用して追い詰める事が前提である。


矢をレーヴァに向かって放ち、それをレーヴァが木に隠れて

避けた瞬間は視線がヴィンテスの方には向かなくなる。

つまり、矢が飛んで来た場所はわかるのだがヴィンテスが

どこに居るか迄は一瞬だけだがわからなくなるのだ。

それを利用してレーヴァを追い詰める為に、レーヴァに向けて

矢を射るヴィンテス。


すると先程と同じくレーヴァが木の陰に隠れるので、

その間に別の木の陰へとこちらも移動する。

「んっ?」

つい今迄居た筈のヴィンテスの姿を見失った事に、レーヴァの表情が

少しだけ変わる。

槍を構えていつでも対応出来る様にしてヴィンテスを探し始めるレーヴァであるが、

そんな彼の耳にガサッ、と地面が擦れる音が聞こえて来た。


(そっちか!)

即座にその方向へとダッシュするレーヴァ。しかし、その先にヴィンテスの姿は無い。

(あ、あれ?)

まさかの聞き間違いかと思ったが、その瞬間後ろに殺気を感じる。

素早く振り向き様に槍を振るえば、カキンと音がして矢が落とされる。

「くっ!?」

そっちの方かと思ったが、今度は横から何かが飛んで来た。

それは……。

(石……?)


その飛んで来た石に気を取られたレーヴァの腹に次の瞬間、物凄い衝撃が走る。

「ぐあっ!?」

その衝撃の主は腹に突き刺さった1本の矢であった。

「ぐぐ……うううっ……」

クリーンヒットした矢の痛みに悶絶した所で、何者かに飛び掛られてしまう。

それは突然現れたヴィンテスであった。

「ここ迄だな」

素早く両手を上で一纏めにして荒縄で縛りつけ、矢が刺さったままの腹はそのままに

槍を奪い取って首筋へと突きつける。


「い、一体私に何をしたんですか……!?」

ヴィンテスの作戦に嵌ってしまった事を腹の痛みと共に感じていたレーヴァだが、

その肝心の内容がわからない。

ヴィンテスはそのレーヴァの疑問に、槍をレーヴァの顔のすぐ横へと突き立てて

足を縛りながら答える。

「御前の素早さを逆に利用させてもらった」

「私の……素早さ……?」

ヴィンテスの、自分の作戦内容の説明は続く。

「そうだ。御前は素早いからな。だけどこっちは遠距離攻撃が得意な弓だ。

だから矢を放って、それで御前が隠れた所で俺は素早く別の木へと移動する。

そしてそこで石を何個か拾って、それを俺が木の陰に居ると見せかけるおとりに使った訳だ」


そう、最初にレーヴァが、そこにヴィンテスが居ると勘違いしてしまった

きっかけのあの音は、実はヴィンテスが別の木の陰に向かって石を投げた音だった。

本当はその近くの木に隠れていたヴィンテスが、石をそこに投げてレーヴァの注意を逸らす。

そして背後へと回りこみ矢を1本射って、そのまま射ると同時に素早く

別の木の陰へ移動して、そこからまた石を投げて、間髪入れずに矢をレーヴァの

腹目掛けて射ったのである。


「そうして御前がふらついた所で俺は飛び掛り、今のような状況になったと言う訳だ」

足を縛り終えて、ヴィンテスが立ち上がりながらそう言った。

「く……私がそんな単純な手に引っかかるなんて……」

苦しみながら悔しがるレーヴァに、ヴィンテスはやれやれと首を振って答える。

「戦場ではどんな手もありだ。さぁ、陛下の所へ行こうでは無いか」

レーヴァを立たせ、槍も弓と一緒に持って彼を連行し始めるヴィンテスであった。



「貴様だけは、絶対に許す事は出来ないっ!」

カルヴァルの猛攻を受け流して反撃に出るローレン。

「まさか、貴様が私達のスパイとして潜り込んだとはな!」

そんなローレンの反撃を、持っている斧で受け止めるカルヴァル。

この将軍同士の戦いは全くの互角である。

そして2人が戦っている場所は広場では無く、遺跡の前のスペースだ。


この遺跡は風が凄く、中を進むのも一苦労だと調査隊が話している。

そしてその最深部には竜のウロコが落ちていたのが発見されたのだが、

肝心の竜自体は見つかっていない。

噂によれば人間の言葉を理解出来る、伝説の竜だと言う説もある。

それが見つかれば、古代の文明や新しい技術の発見にも繋がるかもしれないと

帝国では考えられているのだ。


そんな遺跡の前で繰り広げられるのはまさに死闘。

邪魔者は一切居ないタイマン勝負。技と技のぶつかり合いである。

ハルバードを武器とするローレンに対し、現在はロングソードと斧で

応戦するカルヴァル。ハルバードの方がリーチがある分、距離を稼ぐ事が

出来ればローレンが有利になるのだが、カルヴァルも流石将軍として

王宮騎士団を率いているだけあって簡単に距離を取らせてくれる筈が無い。


左手で盾の代わりに斧を振り回してハルバードの攻撃を弾き、右手の

ロングソードで攻撃する変則二刀流のスタイルをカルヴァルは取る。

だが変則的だと言えども、カルヴァルの戦い方は普通の二刀流と

変わらないので冷静にローレンは対処する。


金属が打ち合わさる音が遺跡の前に響き渡り、戦いが繰り広げられる。

そのまましばらく打ち合いが続いていたが、いい加減息もあがって来たので

ケリをつけたいと言うのは両者共に同じ考えだ。

「そらっ!!」

斧で攻撃を弾き、今迄以上のスピードでローレンの懐へ飛び込む

カルヴァルだが、その懐に飛び込んで来た所でローレンは

身体を捻って攻撃をかわし、彼の顔面に頭突きをする。

「ごあっ!」

カルヴァルが怯んだ隙に、左手の斧をハルバードで弾き飛ばす。


「く、くそっ!」

残ったロングソードで必死にカルヴァルは立ち向かうが、頭部に

衝撃を受けて一瞬意識がぐらりと来てしまう。

それをローレンは見逃さずに、左足で右手を蹴り上げてロングソードも弾き飛ばした。

更に間髪入れずに右の回し蹴りも繰り出せば、その足はカルヴァルの

側頭部にヒットする。


「ぐはっ!!」

これで斧だけでは無くロングソードも吹っ飛ばされたカルヴァルは、

背中に背負った弓を取り出す。

それを素早くローレンに向かって構え、矢を射る。

だがローレンは避けようとはせずに、何とその矢をハルバードで打ち返した。

「な、何……うっ!?」

その矢はカルヴァルの肩にヒットして彼の動きを止める。


それを見たローレンはそのままダッシュして、渾身の飛び蹴りを

カルヴァルの顔面へと喰らわせる。

「がはっ……」

クリーンヒットした前蹴りは、カルヴァルを気絶させるには十分であった。

「はっ、はっ、はっ……後は、陛下のご判断に任せるとしよう」

息を整えて素早く荒縄でローレンはカルヴァルの身体を縛り上げ始め、

縛り終えたら彼を今度は肩に担いで、まだ戦いが繰り広げられている

さっきの広場へと足を進めるのであった。


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