Soldiers Battle第18話


ラルソンは広場の中で他の兵士も相手にしつつ、自分に向かって

大剣でしつこく斬りかかって来るピンク色の髪の男を相手にしている。

ヴィンテスの情報によれば、先程のダリストヴェル山脈でヴィンテスや

パルスが戦った相手の1人であり、カルヴァルの私兵団のメンバーでもある

シャプティと言う男らしい。


大剣と戦うのは、この進軍の中ではこれで2回目だ。

ダリストヴェル山脈で戦ったジャックスも同じく大剣を使う相手であった。

なので、その時の経験も手伝って今は対処法もわかりやすい。

だがこのシャプティへの対処法がわかっているとしても、問題はその周りの状況である。

今のこの広場での戦いは、当然ラルソンはシャプティだけを相手にする訳では無い。

周りにはまだ私兵団のメンバーや王宮騎士団の団員も居る訳なので、

そいつ等の相手も同時にしなければいけないのだ。


「はあぁっ!」

横から斬りかかって来た王宮騎士の槍を剣で受け流し、懐に飛び込んで

胸を刺し抜くラルソン。

続いて前から飛び掛って来るシャプティの蹴りをかわして、その蹴りの

着地後の隙を狙って、ラルソンは左手で思いっきりシャプティの顔面にパンチ。

「ぐおっ!」

吹っ飛ぶシャプティを横目で見ながら、再び周りの相手をして行く。


大人数での乱戦は戦場に出れば日常茶飯事であるし、訓練では

1対1だけでは無く2対1,3対1をも想定しての訓練も部下にさせている。

また、こう言った乱戦状況になっても対応できる様に訓練の時は

まず1人に相手をさせ、時間を置いて別の隊員がその訓練の相手に

奇襲をかけると言う事もさせ、咄嗟の判断力を養うプログラムもあるのだ。

なので、乱戦においても同様を少なくさせて即座に対応出来る様な

適応能力を養う事が可能になる。

当然ラルソンも同じ訓練をしており、それが今の状況で役に立っている。


右側から斬りかかって来た私兵団のメンバーの斧を剣で受け止め、

前蹴りで逆にそのメンバーを弾き飛ばす。

更に後ろから殺気を感じた彼は、勢いをつけて周辺への攻撃が

可能になる回転斬りを後ろへ向かって繰り出した。

「ぐああっ!」

彼が後ろを振り向いた瞬間に、血しぶきを上げて吹っ飛ぶ王宮騎士が

見えたが構わずに前へと向き直る。


だがそこには、人間の身体では無く黒い物体が見えていた。

いや、正式には人間の身体の一部であるのだが、それに反応する事が

出来ずにモロに顔面にそれが当たってしまう。

「ぐほへぇっ!?」

顔面に強い衝撃を受け、余りの痛さに悶絶するラルソン。

「はぁ、はぁ、はぁ……さっきのパンチのお返しだぜ!」

その黒い物体とは、シャプティの履いているブーツの裏の事であった。

シャプティは慎重にラルソンの背後に近づきドロップキックをかましたのだが、運悪く

ラルソンがそこで振り向いてしまった事で顔面にクリーンヒットしてしまったのである。


顔面にドロップキックがクリーンヒットした事で、鼻血がだらだらと流れる感覚が

ラルソンの唇に伝わって来る。

「ぐお……ぁっう……」

何とか身体を起こそうとするが、頭に強い衝撃を受けてふらりとするラルソン。

それを見たシャプティは、チャンスだとばかりに大剣を振りかざして向かって来る。

「止めだぁーっ!!」

「くっそ……!!」

しかも蹴られた衝撃で愛用のロングソードが手から吹っ飛んでしまい、

丸腰で何とか勝負しなければいけなくなってしまった。


気合を振り絞って立ち上がり、シャプティの攻撃を回避する。

そのまま辺りを見渡すと、自分のロングソードが転がっているのが

視界に飛び込んで来た。

だがしかし、まずはシャプティの攻撃を少しでも緩めなければならない。

今度は薙ぎ払われた剣をバックステップでギリギリ回避し、立て続けに両手で

突き出された突き攻撃を身体を捻って回避。

すると勢い付いたシャプティの身体がラルソンの方へと近づくので、

後ろに回りこんだラルソンは背中を思いっきり蹴り飛ばす。

「ぐおっ!」

そのまま連続で前蹴りを叩き込んで行き、最後に何とか振り向いた

シャプティの顔面にハイキックを入れる。

「ぐえっ!」

それによって悶絶するシャプティには隙が出来るので、そこで

ロングソードを取りに向かう。


素早く拾い上げる為にダッシュでロングソードに近づき、ジャンプから前方回転をしながら

ラルソンはロングソードを拾い上げた。

しかし、力が先程より入らない。その理由はラルソンにはわかっていた。

(鼻血だ……)

力めば力む程、鼻血が鼻を塞いでしまうので力が入りにくいのである。


しかしそれは相手のシャプティも同じ事になっていた。

何とシャプティも同じ様に鼻血を流しており、鼻血によって力が入らない状況になっている。

「くっそ〜……っ、終わりにしてやるぜえええっ!!」

2人はほぼ同時に相手の方向に駆け出し、シャプティは大剣を

振りかぶってラルソンはロングソードを構える。


そしてシャプティは胸の辺りで薙ぎ払いをしたのだが、ラルソンはその前から

スライディングをして、その下を滑って潜り抜ける形で回避する。

そして素早く立ち上がり、振り向きかけたシャプティの腹目掛けて

渾身の横薙ぎ払いを繰り出した。

「そらっ!」

「ぐあっ!?」

それにより腹を切り裂かれ、致命傷と迄は行かなかった物の

戦闘は続行不可能になるシャプティ。

それを見て、ラルソンは一息つくと残りの騎士達や私兵団の兵士を

相手にする為に駆け出した。



ラルソンがシャプティと鮮烈なバトルを繰り広げている頃、ヴィンテスは槍使いの

レーヴァと木々の間で勝負を繰り広げる。

あのダリストヴェルで出会った4人の内の、黒髪に赤い上着の男である。

戦士としては小柄な部類に入るレーヴァは、こうした狭い場所では不利な筈の槍を

自由自在に扱ってヴィンテスを次第に追い詰めて行く。

レーヴァが使う槍が一般の騎士達が持つ物より、少しだけ小さい

サイズの物であるのもその素早さに拍車をかけているのだ。


「どうしました? 私はこちらですよ?」

うまく木に隠れてヴィンテスの弓から射られる矢ををやり過ごし、

木から木へと素早い移動でヴィンテスに攻撃の隙を与えずに近づいて行く。

その度にヴィンテスは距離を取るのだが、このままでは自分が不利な事を悟る。

(まずいな、このままじゃあこっちがやられてしまうぞ!)

如何にかしてこのすばしっこい私兵団のメンバーを倒さなければいけないが、

考える時間を与えてくれない程レーヴァは攻撃を繰り出して来る。


帝国の運命を決める戦いだと言うのに、このまま何も出来ずに力尽きて

槍で串刺しにされるのだけはごめんである。魔術が使えるとは言え、自分が使えるのは

主に回復系の物である為、パルスと違って実戦では援護位でしか役に立たない物である。

だったら勝負できるのはこの弓だけだと思い、何とかこの状況を打開する策を

ヴィンテスは考え始めた。

(接近されたら槍の長さでこっちは最早お手上げだ。一体どうすれば良い……!?)

近づいてくるレーヴァから距離を取りながら、必死にヴィンテスは戦略を頭の中で

組み立てて行くのであった。


Soldiers Battle第19話へ

HPGサイドへ戻る