Soldiers Battle第17話


すぐさま短剣を振り回してジレフィンとの距離を取り、

先程と同じ様に飛びかかって行くパルス。

連続で前蹴りを繰り出し、更に短剣の攻撃もセットでジレフィンに

隙を与えない位の速さで攻め立てて行く。

「く……!!」

そのスピードの速さにジレフィンも困惑気味だ。


そして余りにもその動きに集中しすぎてしまったジレフィンは

足元の張っている木の根に足を取られてしまい派手に尻から転倒。

「うおっ!?」

それは明らかに大きな隙であり、それを見逃す筈が無いパルスは

一気にジレフィンに向かって飛び掛った。

だが次の瞬間、咄嗟に飛び掛って来たパルスに向かって蹴り出された

ジレフィンの足が、パルスの腹部にクリーンヒット。

「ぐほあっ!?」

同じく後ろにしりもちをつく形でパルスも転んでしまい、2人は同時に

素早く立ち上がってバトルを再開する。


「このやろおおおっ!!」

「おらあああっ!」

武術とは言えない様な荒っぽい戦い方が2人のバトルになっているが、

それでも決着はつけなければならない。

パルスが前蹴りを繰り出してジレフィンを蹴り飛ばせば、お返しと

ばかりに脇腹にジレフィンの回し蹴りが入った。

が、次の瞬間パルスは咄嗟にそのわき腹にヒットした足を掴んで

自分の方へと引き寄せる。

そしてある程度まで引き寄せ、股間目掛けて右のパンチを突っ込む。

「おごほおっ!?」


奇妙な声がジレフィンの口から漏れ、悶絶して頭を下げる格好になった所に

思いっきり拳骨を振り下ろすパルス。

「ぐへっ!」

そして止めのもう1発に、渾身の威力を込めて肘を振り下ろした。

「がっ!」

同時に足を離されて、どさりと地面に崩れ落ちたジレフィンは見事に気を失った。

(結局俺、攻撃魔術使わなかったなぁ……)

パルスはそんな事を考えながらも、荒縄でせっせと素早くジレフィンの身体を

縛り上げるのであった。



ジアルは目の前から襲い掛かって来るジェバー相手に苦戦を強いられていた。

狭い森の中ではこの槍は戦い難いのである。

だが、広場で戦おうとすればまだまだ大勢の兵士達が戦っている為に

隙を突かれてやられてしまう可能性が大だと思い、木々の間でこうして戦っている。


「う〜ん、まだまだですねぇ〜?」

「ちっ!」

軽快に魔術をぶっ放して来るジェバー。そして近づこうとすれば逃げられてしまう。

それに時折舌を出したりおどけた表情をして挑発して来る。

クールな性格のジアルはそこまで気にならないのだが、とにかく馬鹿にされている

事だけは良くわかる。

(腹が立つのは確かだが、だったらその態度を逆に利用してやるのも良いかもな)


そうジアルは考え行動を開始する。

まずはとにかく、ジェバーの注意をこちらに引き付ける事が先決だ。

だがまともに近づこうとしても逃げられてしまうので、ジアルは時折木々の間から

フェイントをかけて自分がどこから来るのかわからない様に、ジェバーの気を散らす。

「そうやって気を逸らそうとしても、無駄ですよ〜!」

ジェバーのそんな声が聞こえて来るが、ジアルは気にせずにその行為を続ける。

先程からされていたジェバーの挑発行為と同じ様に、小さな事でも山となれば

ムカついて来るのは人間の気持ちの問題だ。


後はどこまでジェバーが乗ってくるのかと思うジアルであったが、そんな行為を

繰り返す内にある事に気が付く。

(そう言えばあいつ、魔術をさっきからあんまり使わなくなって来ているな)

もしかしたら……と思い当たる節があるジアルは、それを確かめる為に

次の行動を起こす。

この予想が当たっていれば、自分にも勝機が見えて来る筈だ。


ジェバーは主に火属性の魔術を使って来ている。森が火事にならないのが

不思議な位だが、相手もその事を警戒しているのか威力の小さな

魔術ばかりを使うのだ。

が、その威力の小さな魔術を始めとしたどんな魔術でも例外無く、この世界の

人間の身体の中には必ず存在している『魔力』が魔術のエネルギーとして

使われるので、魔術を使い過ぎる事によって魔力が無くなってしまえば

身体を休めて魔力が回復するのを待つしか無いのだ。


だからこそ、ジェバーは出来る限り魔力を温存してここぞと言う時に

一気に決めようとしているのではないかと言う仮定を、ジアルは心の中で組み立てる。

(これがもし当たっているのであれば、チャンスは確実にこっちに回って来ている。

後はその残りの魔力を使った1発勝負の魔術を、奴にどうやって俺に向かって

使わせるかがポイントだが……)


そこで、少し危険な賭けであるが成功すれば良し、失敗すれば敗北と言う

こちらも1発勝負に出る事にするジアル。

まずは木々の陰から飛び出し、ジェバーに自分の姿を見せる時間を長くする。

するとジェバーは魔術を使って来た。

「ちょこまかと……!」

それを幾度と無く繰り返し、ジェバーの魔力を減らした所で槍を構えてジアルは

ジェバーに突進して行く。対するジェバーは姿を見せたジアルに向かって

ファイヤーボールの上級バージョンである、特大の火炎球を放つ『フレイムボール』を

ジアルに向けて繰り出す。


しかしそれをあろう事か、槍で真っ二つにするジアル。

「なっ!?」

まさかの事態にジェバーの顔から一瞬で余裕の表情が消え、代わりにジアルに

距離を一気に詰められる。

「はあっ!」

距離を詰めると同時にジアル思いっきり槍をジェバーに向かってブン投げたが、

ギリギリの所でジェバーは身体を捻って回避。

が、それもジアルの作戦であった。


「はあああっ!」

身体を捻ってその槍を避けた筈が、気が付けば渾身のタックルを喰らわされて

馬乗りにされてしまうジェバー。

その馬乗りになっている人物と言えば、勿論ジアルである。

「らっ、らっ、らっ!」

魔術を使わせない様にする為に、馬乗りになったままなるべく口を目掛けて

ジェバーの顔面を殴りつけて行くジアル。

「貴様は大罪人だ! ここで俺が殺しても良いが、陛下のお裁きを受ける事だなぁ!」

口ではそう言いつつも、手はジェバーを殴る事を休めてはいなかった。


そうして手が痺れて来て血だらけになった頃、ジェバーはがっくりと気を失っていた。

(死んではいないが、少しやりすぎたかな……)

顔面血だらけで気を失っているジェバーの顔を見て、彼は少し罪悪感を

覚えながらも、取り出した荒縄でジェバーの身体を拘束し始めた。


「貴様の油断が招いた結果だ。この勝負は俺の勝ちだな」

意識が無く縛り上げられたジェバーに向かって、そう呟くジアル。

自分の実力が高い事で油断しきっていたジェバーは、まさかのジアルの

戦法に成すすべなくやられてしまった。

そのまま縛り終えると引っ張って立たせ、ジェバーを肩に寄りかからせる様にして

自分の槍も取りに行き、広場の方へとジアルは歩き出すのであった。


この勝負はそんなジェバーの油断を見抜き、それを逆に利用する作戦を

組み立てる事によって勝利を自分に引き寄せた、ジアルの作戦勝ちとなったのである。


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