Soldiers Battle第16話
今度こそ、正真正銘の最後のバトルが始まった。
調査部隊のメンバーとこっち側に戻って来たローレンとジャックス、
それに生き残りの兵士部隊の兵士が残りの味方だ。
広場に更に血しぶきが舞い、更にモールティも愛用の大斧を取り出して
戦いにリュシュターが巻き込まれない様にする。
「陛下、私の傍から離れない様に」
「わ、わかりました!」
モールティは普段は余り戦わないイメージなのだが、彼もリュシュターの側近としては
武術を少しでも嗜んでおかなければならない。
なので折りたたみ式の大斧を持っており、それを戦場に出た時は大きくして
豪快に振り回して戦うのである。
実力の方は実際にどうなのかと言えば、執務の間を縫ってカルヴァルや
ローレン、ジアル等と特訓していたのを目撃した兵士が多数居る事からも
わかる通り生半可な鍛練はしていない。
事実、今でもリュシュターを狙って騎士が向かって来るが、彼は落ち着いて対処して
的確に1人ずつ仕留めて行く。
一方のリュシュターはと言えば、護身用にロングソードを持っているのだが
彼自身が血を好まない性格である為に戦う事が無い。
一応、陛下として武術の訓練を受けているのだが実戦はまるで駄目だ。
そんなリュシュターがモールティに守られている一方で、ジャックスは1人の男と対峙していた。
紫色の髪の毛の、長弓を持つ私兵団の兵士だ。
「貴様、確かヘーザとか言う奴だったな?」
「あれ、僕の名前を知ってるのか……全く、僕も有名になっちゃったもんだね」
「いや、ただ単にカルヴァルの私兵団の奴として記憶に残ってただけなんだがな」
有名だと勘違いする私兵団のヘーザと、それに対してクールな答えを返すジャックス。
戦いはすぐに始まる。
この木々が生い茂る狭い森の中では、ヘーザの弓が圧倒的有利に思えるが実はそうでも無い。
弓は広い場所だからこそバンバン射る事が出来る物であり、こう狭くては木がとても邪魔で
狙い等付けられた物では無い。
ではジャックスの大剣は一体どうなのかと言えば、こちらもこの森の中では扱い難い武器だ。
大きな剣ほど攻撃範囲が広くなるので、この木々の中では
下手に振り回せば剣が木に当たってしまってその隙を突かれてやられてしまう
可能性が大である。
ではどうするかとジャックスは必死で考えながら、矢に当たらない様に木の影に
身を隠しながら考える。
(俺があいつに勝てる方法と言えば、魔術しか無さそうだな)
自分は魔術が使えるので、それと大剣を利用した戦い方をしようと考えるジャックス。
(だが、魔術を使えるのは回数が限られるな。何回も使えば相手に
警戒されるだろうし……。使えるのは2回、いや……1回限りだな!)
ヘーザが矢を射って来るので、それを木の陰に隠れて避けて素早くヘーザとの
距離を詰める。
しかしヘーザもその度にジャックスとの距離を取るので、これではいたちごっこである。
(うーむ、まいったな。何とかして奴の気を逸らす事が出来れば良いんだがな)
このままではいつまで経っても決着が着かないので、何とかしないとまずい。
何とも凄い地味なバトルなのだが、これは帝国の運命を決める戦いでもある為に
気を抜く事が出来ないのも実情である。
まず、ヘーザに距離を取らせない様にする事がポイントだ。距離を取らせない様に
すればこちらにチャンスが回って来るので、そのチャンスを作る様にしなければならない。
待っていては時間ばかりが過ぎて行く。
(どうする……奴の気を逸らせる物があれば……)
そうしてふと視線を上に向けた途端、ある作戦がジャックスの脳裏を掠めた。
(あ……そうか、あれを使えば良いのか!)
そのある作戦を思いついたジャックスは、ヘーザを仕留める為に動き出す。
まず、ヘーザに向かって走り出す。
ヘーザはさっきと同じく弓を引き絞り、それを避けたジャックスは木の陰に隠れる。
しかしさっきと違うのは、その手に魔力を集約させている事だった。
(これでも……喰らえっ!!)
手の中に集めた風属性の魔術を、一気に斜め上前方に向かって放り投げる。
ファイヤーボールではなく、ウィンドボールが木の上目掛けて放たれる。
そのウィンドボールは木から伸びた幾つもの枝を切り裂き、それと同時に大量の葉っぱを
地面へと撒き散らして行く。
「な!? うおああっ!?」
そして切り裂いた枝を生やしていた木々の内、その1本の陰からそんなヘーザの
悲鳴が聞こえて来た瞬間にジャックスは駆け出していた。
その木目掛けて今度はファイヤーボールを撃ち出し、それに驚いた
ヘーザが飛び出して来るのを目で確認しながらジャンプ。
そのままドロップキックが彼の胸元に綺麗に決まり、ヘーザは地面へと倒れこんだ。
「ぐはっ!」
倒れこんだヘーザを素早くうつ伏せに押し倒し、懐から取り出した
荒縄でジャックスは彼の両手首を縛り上げる。
更に両足も縛り上げ、これでこのバトルは終わった。
「く、くそっ! 僕をどうするつもりだ!?」
もがくヘーザを足の下に組み敷き、ジャックスは抑揚の無い声で返答する。
「どうなるかはリュシュター陛下が決める事だ。まぁ、多分処刑されるだろうがな」
そしてヘーザを立たせ、広場の方へと向かって歩き出すジャックスであった。
ジャックスがヘーザと勝負している頃、別の場所ではパルスが
黄緑の髪に青い上着の、カルヴァルと路地裏で密会していたあの男を相手にしていた。
ヴィンテスから聞いた話によれば、どうも私兵団の1人であるジレフィンと言う男らしい。
「ダリストヴェルではよくもやってくれたな。だが今回はそうは行かないぜ!」
「それはどうだかな?」
斧を構えて向かって来るジレフィンに対して、短剣を武器とするパルスの方が
この状況では有利である。
立ち回りがしやすい武器なので、この狭い森の中では斧より動きやすい。
が、相手もかなりの実力者である為に油断は禁物だと心に決めてかかるパルス。
斧も短剣程では無いにしろ小回りの利く武器だ。
この勝負はスピードとスピードの戦いだが、パルスにはもう1つの武器がある。
(攻撃魔術を使って、確実に勝利を収めに行ってやる!)
自分は攻撃魔術が使えるので、それも一緒に利用しない手は無い。
まずは相手の戦法をじっくり見極めて……と言うタイプでは無く、最初から
リミッター解除の全開バリバリで飛び込んで行くのがパルス流の戦いのスタイルだ。
一気にスピードを乗せて相手の懐へと飛び込み、壮絶な打ち合いを
展開して行くパルスとそれに対抗するジレフィン。
だが、威力としてはジレフィンの斧の方が当然高いので、サイドキックも
パルスは併用して互角の戦いを繰り広げる。
(スピードではこっちが上だ!)
斧よりも軽い短剣を使うパルスの方がスピードでは上回っているので、
そこで追い詰めて行く作戦に出る。
だがジレフィンも無策で戦っている訳ではなかった。
何度か打ち合いを繰り返した後、パルスの短剣を持つ手を取ったかと思うと
その手を掴んだままパルスを遠心力を利用して振り回し
木に激突させた。
「ぐほっ!?」
予想もしなかった攻撃に呆気に取られるパルスだが、これが逆に彼の
闘争心に火をつけてしまった。
「そうか……そっちがその気なら、俺だって手加減する訳ねぇだろうがぁーっ!!」