Soldiers Battle第15話


目の前の敵をなぎ倒し、広場に血しぶきが飛び交う。

しかしここでラルソンには気になる事があった。

(さっきのアーチャーを撃ち落した矢……一体誰の仕業だ?)

府に落ちない点ではあるが、今はとにかく目の前の敵を片付ける事に

集中して1人、また1人と敵を斬り捨てる。


それはまたジェバーも同じ事を思っていた。

(何故だ……私達の作戦は完璧だった筈! と言う事は、誰か裏切り者が居ると言う事かっ!?)

そう思ったジェバーはキョロキョロと辺りを見渡し、思い当たる1つの結論に達した。

(そうか、まさかあいつがっ……)

しかしこの状況では、その張本人に話を聞きに行こうにも中々動けない。

仕方無く魔法を連発し、敵味方関係無く巻き込んで行く作戦で広場から離脱。

だがその様子を見逃さなかった1人の男が居た。

(あいつ……!)

その男は目の前の敵を斬り捨て、ジェバーを追って駆け出した。


ジェバーは森の広場を抜けて遺跡の方へと走る。

遺跡までは広場から1分位で辿り着くのだが、その遺跡の前に2人の男が立っていた。

その片方の男は縄で縛られている。

「すみません将軍っ! モールティに逃げられました!」

「何だと!?」

縛られて居ない方の男……カルヴァルは、ジェバーのその報告に

感情剥き出しで驚きの声を上げた。


しかし、そこに割って入る新たな乱入者が。

「そこまでだカルヴァル、ジェバー!」

「……やれやれ、また貴方ですか?」

ジェバーを追いかけて来たのは兵士部隊隊長のジアルであった。

「しかし、この状況を見て下さいよ。これで貴方が手を出せるんですかねぇ?」

そう言ってジェバーは隣に居る、縄で縛られたリュシュターを指差した。

「陛下っ!?」

「ジアル隊長……」

心配そうな声を縛られたままリュシュターが上げる。

その声を聞き、ジアルは槍を突き出した。

「これが最後の警告だ。今すぐに陛下を介抱して降伏するんだ」


だがそんな要求を彼等が呑む筈も無い。

「ふっ、そんな事を敵に向かって良く言えた物だな? 御前達が圧倒的に

不利な状況に変わりは無いのだぞ?」

カルヴァルはそう言いながら腰から剣を引き抜く。

「悪いが、貴様もここ迄の様だな?」

しかし、当のジアルは平然とした顔をしている。それどころか徐々にその

口元に笑みが浮かんで来た。

「それは果たしてどうかな?」

「何?」


カルヴァルが疑問の表情を浮かべるが、ジェバーにはその表情の意味が

たった今心の中で繋がった。

「分かりました……」

「どう言う事だ? ジェバー」

意味深な発言をするジェバーにカルヴァルが疑問の声を上げる。

「あの2人はこっちの人間じゃない。最初からそっちと……!」

そして次の瞬間、カルヴァルとジェバーとリュシュターの背後に躍り出る

2つの影があった。


それに気が付いたカルヴァルとジェバーは咄嗟に横にジャンプするが、

2つの影の内の1つが素早くリュシュターを抱えて走り去って行く。

それを見てジアルも広場の方へと駆け出す。

「あ、くそっ!」

「待ちなさい!」

当然、カルヴァルとジェバーはジアルの後を追いかけるのであった。


そうして広場へと戻って来たジアルと、それを追いかけて来たカルヴァルとジェバーが

見た物は、既に全滅させられている私兵団のメンバーと王宮騎士団の騎士達であった。

「どうだ? これでこっちが有利になっただろう?」

ジアルはそう言って、槍の先端を2人に向ける。

ラルソン、ヴィンテス、パルスもまた同じ様に武器を向けた。

「貴様等、まさか最初から……!!」

「ぴ〜んぽ〜ん! 大正解〜っ!」

ジェバーの口調をわざと真似して、ラルソンがニヤニヤと笑みを浮かべる。

「バッカだなぁ? 俺達のメンバーに陛下やローレン様が入っていた事で

気が付かなかったのかよ? 正真正銘の大馬鹿だな? こ〜んな簡単な

嘘に騙されて、わざわざ俺達を襲撃してくれるなんて。まぁおかげで御前達が

この国に反乱を起こした事が陛下にもバッチリ知られちゃった訳ですし、一緒に

居た副将軍とその副官はもう逮捕しちゃいましたからね〜っ! はーはっはっは!」


ジェバーと同じく高笑いをして、すっかりキャラが変わっているラルソン。

そして、その橋渡しとなった人物も姿を現す。

「見事だったぞラルソン、ジアル」

「ありがとうございます、ローレン様」

武器を向けたまま、目線だけを森の方から出て来たローレンに

向けて返答するジアル。

そのローレンのすぐ後から、リュシュターとモールティを引き連れたジャックスも現れた。

「俺達が持ちかけた今までの話は、全て陛下も御存知だったんですよ、将軍」


口元に笑みを浮かべながらそう言い放つジャックスに、カルヴァルとジェバーの

2人が苦い表情になる。

「貴方達が提案して来たダリストヴェル山脈の襲撃計画も、陛下の誘拐をして

それで兵士部隊を黙らせようと言う作戦も、近衛騎士団が

こちらに加わると言う予定も全部、最初からそっちの作戦だったんですね!?」

「ああ、そう言う事だ」


そう、あの作戦を練る為の会議で出てきた囮作戦と言うのは2重の

意味があったのだ。

まず、ローレンとジャックスが敵に裏切ったフリをする。そして陛下を

誘拐すると言う計画を、カルヴァルとジェバー率いる王宮騎士団と私兵団の

グループに流して信用させて手を組んだと見せかける。

その後も逐一、会議で話した計画の内容を纏めた紙をカルヴァルと

ジェバーの元へローレンとジャックスが持って行き、その裏切りと言う物を

確実な物だと思い込ませる事に成功。


だが、それは全て最初に調査メンバーの計画した作戦であったのだ。

つまり、作戦の中で立てた作戦をすっかり信じ込んでしまったカルヴァルとジェバーは

まんまと調査メンバーの手の平で踊らされていたと言う事になる。

リュシュターが誘拐されるのも全ては調査メンバーの作戦であり、リュシュターが

言い出した作戦でもあった。

なのでそれに付け加える形でローレンが寝返ったフリを計画し、誘拐の実行メンバーを

王城に残る自分達にさせてもらうのも怪しまれずに実行できるからと言う事と、

カルヴァルやジェバーに調査メンバーの作戦の内容がばれない様にしたいと言う

用心の為だったのである。


「最初に陛下がこの作戦の事を言い出した時には、正直私も驚いた。

しかしそれは成功して、まんまと罠に嵌ってくれたんだ。感謝してもしきれない。

これで、王宮騎士団は今までの騒動と合わせて国民からの支持がガクンと

落ちる事になる。自ら罠に嵌り、反乱を起こそうとしていたのを私達に

喋ってくれたのだからな」

ローレンがそう言い切ると、カルヴァルとジェバーが一瞬ふらつく。

「ははっ……俺達は騙されていたのか。それはそれは大層な事だ……」

「ええ。それでしたらもう思い残す事は何もありませんね」


ジェバーはそう言うと、荷物の中から角笛を取り出して思いっきり吹き鳴らす。

すると森の中から大勢の足音と雄叫びが聞こえて来た。

「な、何だ!?」

「まさか、まだ居るのかっ!?」

私兵団も王宮騎士団も全員始末したと思っていたが、まだ増援が潜んでいた様だ。

そしてその調査メンバーの驚く様子を見て、カルヴァルが大声で叫んだ。

「ここで全員始末してしまえば、俺達の帝国を乗っ取るこの計画は

まだ終わった事にはならないんだよ!!」


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