Soldiers Battle第14話


休憩もして、体力を回復させた一行は森の中へと足を進めて行く。

奴等がこの先の遺跡に待ち受けている筈である。

「いよいよだ……。武器のチェック、体調、各自大丈夫だな?」

そう背後の隊員達にジアルが問うと、肯定の声が次々に上がった。

「良し、では行くぞ」

そうして森の中へ1歩1歩足を進めて行くと、段々と周りの空気が

変わって来るのが兵士部隊の人間達に分かる。

これは先程のダリストヴェル山脈の中と同じ物……殺気だ。


シュロウェンの森と名づけられたこの森は、次第に奥に行くに連れて

木々の数が多くなって行く事で有名な森である。

つまり奥に行くにしたがって迷う可能性が出て来るのだが、そこは帝国があらかじめ

その先にある遺跡までのルートを1本道で造って置いた為に、迷う人も出なくなった。

それからその遺跡の前には広場があり、かなり広い所であるので

今の隊員達が全てスペースに余裕を持って休める場所でもある。


だが、そこへ行く迄の道のりにおいては常に殺気を感じている為に

気を抜く事が出来ない為、我慢を強いられる隊員達。

(どこだ……どこから来るっ!?)

武器をそれぞれ構え、あの集団がいつでも来ても良い様に臨戦体勢で

進んで行く兵士部隊のメンバー達。

こうしてこのまま進んで行く事が出来ればそれで良いのだが、

そうも行かないのが現実なのであった。


また角笛の音が木々の間に響き渡り、それと同時に木々の間からワラワラと

カルヴァルの私兵団部隊、それから王宮騎士団の騎士達が一斉に躍り出て来た。

「敵襲だーっ!! 総員、戦闘開始!」

ジアルの指示でこちらも戦闘モードへと突入し、一気にシュロウェンの森が

バトルフィールドと化す。

ダリストヴェル山脈の時と違うのは、木々の間から奇襲をかけられたりする事や

弓で木の上から狙われる事があるかもしれないと言う事である。


「アーチャーが木の上に居る可能性もある! それから木の間からの襲撃には注意しろっ!!」

槍を振るって目の前の私兵団の兵士を薙ぎ払い、ジアルがそう叫んで

隊員達に注意を呼びかける。

ヴィンテスもパルスも同じく警戒をしていると、そのジアルの注意が功を奏したのか

木の上のアーチャーを発見してヴィンテスが撃ち落とし、木の影からの奇襲に

パルスが素早く対応して短剣を私兵団の兵士の喉に突き立てる。


更にラルソンはジアルと絶妙なコンビネーションを見せて行く。

槍よりリーチが短いロングソードをラルソンは武器で使うので、

飛び掛って来る敵にはジアルが対応。そして近距離から突進して来たり

奇襲をかけられたりして、槍では戦い難いとなればラルソンがしっかり斬り捨てて行く。

そうして近距離、遠距離どちらにも対応出来る様にして、次々と襲い掛かって来る

王宮騎士団の騎士、それからカルヴァルの私兵団の兵士を殲滅して進んで行く。


それを繰り返して森の奥まで進んで行けば、木々がうっそうと生い茂り

更に敵襲が酷くなって来るがここも同じ様にして対処。

先程とは違ってもっと用心しなければならない分、進軍のペースが落ちてしまうが

これは仕方の無い事である。

「はぁ、はぁ、はぁ……あらかた倒したかな?」

「ああ」

が、彼等にはこの後思いもよらない事態が待ち受けているのであった。



幾多もの敵を倒し、やっとの事で敵襲が止んだと思えば

もう目の前には休憩ポイントの広場が見えて来ていた。

「あそこの広場で休憩して、体力を少し回復させよう!」

ジアルの声を聞き、一同はその広場へとどんどん足を進めて行く。

だが良く見てみると、その広場の中央に人影がある事に気が付いた。


「ん?」

「おいちょっとストップだ! 誰かが居るぞ」

1歩1歩、武器を構えて近づいて行くラルソンとジアル。

そこに立って居たのは茶髪に青い瞳、緑の見覚えがありすぎる服装の男。

自分達が騎士団に入る時に、忠誠を誓った男の側近がそこに居た。

「も、モールティ……様……!?」

まさかの宰相の登場に、驚きを隠せないラルソンとジアル。

でも何故、彼がここに居るのであろうか?


それを確認する為に、広場の中央へと足を進めようとする隊長と副隊長。

しかし、それモールティの鋭い声が静止する。

「こ、来ないで下さい!」

「え!?」

まさかの発言にぴたっと足を止める2人。

「な、何故ですモールティ様? と言うよりも何故ここに?」

そのラルソンの質問に、モールティは頭を横に振って答えた。


「陛下と一緒に誘拐されてしまったんです。それで進軍していた貴方達を

追い抜かす為に馬車で先回りして来たので、今ここにこうして……。

だけど、少しでも貴方達が近づいてこられたら私は弓で射抜かれてしまいます!!」

その発言に、進む事が出来なくなってしまった2人。

そして次の瞬間、その罠を仕掛けた張本人が姿を現した。


「やあ皆さん、このような森の奥深くまでようこそ〜!」

この気に触る喋り方は、先程ラルソンがジャックスと戦っている時に邪魔をして来たジェバーの物だ。

ジェバーは手を胸の前でもみもみしながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべてモールティの斜め後ろに立った。

「き、貴様!」

ヴィンテスが激昂するが、ジェバーはそんな事はお構い無しと言った表情だ。

「残念でしたね〜? 皇帝陛下を助けに来た勇者さん達はここで進軍がストップしてしまう事に

なるなんて。うーん、私は悲しいですよ。こうして宰相を人質に取られて何も出来ない貴方達を

見ていると悲しくて悲しくて……笑っちゃいますよっ!!」

はっはっはと高笑いをするジェバーに、怒りの視線が次々と突き刺さる。


だが次の瞬間、信じられない事が起こった。

「うわっ!」

「ぎゃっ!」

木々の上の方から悲鳴が聞こえて来たかと思うと、そのすぐ後にどさりと

アーチャーが地面へと絶命して落ちて来た。

「な、何事ですっ!?」

ジェバーの注意がモールティから逸れたのを見逃さずに、ヴィンテスが彼の足元へ

矢を射るのと同時にラルソンとジアルが駆け出す。


「はあっ!」

ジアルが槍をジェバーに向かって投げるが、すんでの所でかわされてしまう。

その槍は後ろの木へと突き刺さった。

しかし、モールティからジェバーを遠ざける事には十分に成功したと言えるので、

その隙にラルソンがモールティの身柄を保護した。

「くっ、くそっ!」

ジェバーは角笛を取り出して思い切り吹き鳴らす。すると先程と同じ様に

私兵団の兵士と王宮騎士団の騎士達が現れた。


「まだ残っていたのか!」

「一気に片付けるぞ!」

シュロウェンの森の広場はバトルフィールドと化し、最後のバトルが

始まった事をその場の誰もが確信していた。

(御前達にこのイディリーク帝国は渡さない! 絶対にだ!)

ラルソン心の中でそう決意すると、モールティから目を離さない様にしつつ

ロングソードを構えた。そして他のメンバーも、襲い掛かって来る襲撃者を

相手にして交戦がスタートした。

この国の未来を決める大事な最後のバトルがこの瞬間、始まったのである。


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