Soldiers Battle第13話


ジアルとローレンが激しいバトルを繰り広げ始めた所で、

ラルソンとジャックスの副官同士のバトルも始まった。

ラルソンはロングソード、ジャックスは両手剣を使うのだが

パワーとスピードの両極端な勝負になりそうだ。

速さであればラルソンのロングソードに分があるが、パワーとなれば

明らかにジャックスの両手剣が有利である。


33歳のジャックス・ラスバートは上官であるローレンの副官を務める近衛騎士団副団長であるが、

元々ローレンとは盗賊団時代からの団長と副団長と言う関係であるので付き合いは15年以上にも及ぶ。

彼もまたローレンと一緒に騎士団によって盗賊団を壊滅させられた1人で、同じく皇帝からの申し出により

一緒に騎士団に入団して近衛騎士団副団長に現在は就任している。そんな彼はローレンと長い付き合いと言う事も

あり、普段の執務から戦場での活動に至るまで以心伝心で徹底的にサポートする事が出来る。ローレンと同じく

口数は少ないが自信家な性格でありプライドが高く、自分の持っているテクニックに自信があると常日頃から思っている。

ただ、そのプライドの高さに甘んじる事無くテクニックを維持するために毎日鍛錬は欠かさず、知識の方に関しても

資料庫で文献を読み漁っている姿が目撃される事が多い。ちなみに、彼とローレンの部下であった盗賊団の大半も

騎士団に入団している為にそれ等の部下との付き合いも長く、王宮騎士団と比べても非常に統率の取れている

行動が出来るのが近衛騎士団なのだ。


なので2人の戦い方も対極的な物になる。

スピードで翻弄しようとするラルソンに対して、ジャックスは

我慢をしてから隙を見つけてパワーで反撃に出ているのだ。

ローレンがガンガン攻め立て、ジアルが防御に徹しているもう1つのバトルとは

逆の展開になっている。

「くっ!」

ラルソンの剣がジャックスの腹を掠めるが、軍服が少し切れただけで問題は無い。

だが、攻撃の手を少しでも緩めようものなら間違いなくジャックスは自分を殺りに

来るだろうとラルソンは考える。それを避ける為にも攻撃の手を緩めてはいけないのだ。


が、もう1つ気がかりな事がラルソンにはあった。

それは攻撃を緩めない事で、スタミナ不足が自分に先に

来てしまうのでは無いのかと言う事。

ジャックスは防御に徹しているので、基本的にはラルソンの剣を

受け止めたり流したり、かわしたりして反撃のチャンスを窺い、その時だけ攻撃に移る。

動く量はラルソンより少ないので、その分スタミナの切れもラルソンより

遅くやって来るのはわかる。

勿論、ラルソンも生半可な身体の鍛え方はしていない。

だが、それでもこの状況はどちらかと言えば、ジャックスの作戦勝ちに

なってしまうのでは無いかと言う不安がラルソンには付きまとっていた。


そして、それは観戦している2人にもわかっている事であった。

「将軍、ラルソンは焦っているんじゃないですか〜?」

「ああ。自分のスタミナが先に切れたら終わりだからな。

早めに決着をつけに行くつもりだろう。ジャックスのあの剣の威力は

確実に相手の命を奪える位の代物だからな。

それを恐れて、ラルソンは焦りの色が出て来る。その時がジャックスの勝負所だろう」

チャンスを待つジャックスと、一気に決めたいラルソン。


だがその恐れていた事態は、思いもよらない形でやって来た。

「ぐああああっ!?」

横から聞こえて来たジアルの悲鳴に一瞬ジャックスの注意が逸れたのを

ラルソンは見逃す筈も無く、素早い突きをジャックスに向かって突き出す。


が、それは突然横合いから飛んで来たファイヤーボールによって阻まれてしまった。

「うあっ!?」

まともにそのファイヤーボールを喰らってしまったラルソンは、後ろに吹っ飛ばされて

しりもちをつく体勢になってしまう。

ファイヤーボールを放ったのは、カルヴァルと一緒に観戦していたジェバーであった。

「ふぅ〜、危ない危ない。さぁジャックス、止めです!!」

形勢逆転したジャックスは、そのジェバーの言葉に素早く大剣を持ち上げて

ラルソンを刺し抜く体制に入った。



しかしその時、登山道の下の方から大量の足音が響いて来るのが

そこに居る6人の耳に届いた。

「な、何だ?」

ジャックスがその足音が聞こえて来る方向に目を向けると、そこには下に居る筈の

ヴィンテスやパルス達の姿があった。

「おらっ!」

それに気を取られたジャックスを、ラルソンが今度は確実に足で蹴り飛ばす。

それと同時にジアルもまた、渾身のタックルでローレンを突き飛ばした。

「うお!?」

「ぐあっ!」


「くっ、邪魔が入りましたね。ローレン、ジャックス、ここは退きましょう!!」

近衛騎士団の2人には疲れが溜っている為に、これ以上の戦いは不利になると判断した

ジェバーは、2人にそう言ってカルヴァルと共に登山道の上の方へと姿を素早く消した。

「ま、待て……くそっ!」

ジアルは追いかけようとしたが、射られた太ももの激痛がそれを阻んだ。

ラルソンも一気に緊張の糸が切れ、彼等を追い掛ける迄には至らない。


「危ない危ない、間一髪でしたね!」

駆け寄って来たパルスが2人の身を案じ、その横でヴィンテスが回復魔術の準備に入る。

「矢を抜きますよ。喋らないで下さいね」

そう言って、一気に矢をジアルの太ももから引き抜くヴィンテス。

「うあっ!」

素早く回復上位魔術のキュアをかけ、最悪の事態は免れた。


そして2人が回復したので、情報を聞き出す為に質問を開始するヴィンテスとパルス。

「俺達と同じく、隊長も副隊長も襲われたんですね?」

「ああ。俺もジアルも角笛の音が聞こえて来たかと思ったら、一緒に来ていた

王宮騎士団の連中が突然襲い掛かって来たんだ。そこら辺に沢山倒れている

見慣れない男達と結託してな」

ラルソンがそこも、ここもと言う様に指を指して行く先を見て、ヴィンテスとパルスも頷く。

「俺達も下の方で、角笛の音と共に襲われました。同じ服装の襲撃者達、

それから王宮騎士団の連中にも。

またあの時尾行の時に見た、カルヴァル将軍と密会をしていた奴の姿もありましたし、

お2人が言っていた黒髪に赤い上着の男の姿も。これは恐らく……」


「間違い無いだろうな」

そこまで言った所で、ジアルが確信の声を上げた。

「王宮騎士団の連中は、その見慣れぬ襲撃者と結託している。俺達をここで殺そうともした。

だからこそ、あいつ等は野放しにしてはおけない」

「ですね。ではすぐに、奴等の足取りを追いましょう!!」

「ああ!」


問題は彼等がどこに向かったのかと言う事であったが、実はもうラルソン達には

目星は付いていた。

この登山道を登って行くと、その先の山頂には森が広がっているのだ。

そしてその山頂の森の奥には古びた遺跡があり、身を隠せる場所と言えば

そこしかないと言うのが現状である。

「そこに行けば、奴等が居る可能性が高いと言う事ですね」

「そうだ。だけど森での襲撃も考えられるからな。各自気をしっかり引き締める様に」


おおおっ、と兵士達の雄叫びがダリストヴェル山脈の中に響き渡る。

奴等の行き先の見当はもう付いている。後は奴等を追い込むだけだ。

ラルソンもジアルも、ヴィンテスもパルスも、帝国に反乱を起こした

カルヴァル将軍やジェバーをどうしても許す事は出来ない。

だからこそ、ここでもう決着をつけなければならない事は登山道を

歩き続ける誰もがわかっている事であった。


登山道は1時間弱で登り切る事が出来るので、そこから先は森の中へと入って行く事になる。

足元の悪い登山道を1時間近くも歩き続ければ、それだけで足は

パンパンになってしまうので森の入り口付近で一旦休憩を取って、各自身体を休める事に。

時間が無いのは重々承知の上だが、無理して突っ込んで返り討ちに

されてしまうよりはここで体力を回復させておいた方が良い。

(絶対に俺達は負けない。何があろうと、誰が来ようとな!!)

そうラルソンは心の中で決意して、拳を力強くギュッと握り締めた。

帝国の未来を決める決戦の時は、もうすぐそこまで来ているのだから。


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