Run to the Another World in Playing Cards World第6話


和美から話を聞き、マリーンは驚いた顔をしていた。

「大変だったわね…こんな、世界に飛ばされて。はやく、もとの世界へ戻れたら良いわね」

そして、申し訳なさそうに

「魔法に関しては、上流階級の人達しか分からないと思うわ。力になれなくてごめんなさい」

申し訳なさそうに、マリーンはそう言うと

席を立ち、飾りで置いていた赤い薔薇を一輪取るとフッと息を吹いた。

「これは、お守りよ。造花だから少し汚いかもしれないけれど…このハート国は赤薔薇をお守りとして

持つ習慣があるの。生花じゃなくても赤薔薇をかたどった物でも良いのよ」


和美の着ていたコートの胸ポケットにそれを挿すと、マリーンは「早く元の世界へ帰れますように」と、

願いを込めて祈った。

すると、どこからかパチンッと乾いた音がした。

どうやら、また黒月が魔法を使い和美を別の場所へ飛ばしたようだった。

マリーンは祈ってた間目を閉じていたので、目を開けて和美の姿が消えていたので驚いた。

だがその表情は段々と変わり、険しくなると

「……………悪魔…」

と、呟き両手を握りこんだ。


「はっ……え、また……」

マリーンが祈りを捧げ始めたその瞬間、指を鳴らす音が聞こえて来たかと思うとまた視界が暗転する。

流石にこう何度も繰り返されれば嫌でも慣れてしまったが、だからと言ってこの先どうなるのかの

見当は全くつかない。

そして、そろそろ和美の我慢も限界に来ていた。

「ええ加減にせえや……私が何時までもそっちの思う通りやと思ってたら大間違いやで!!」

そう叫ぶと同時に、暗転していた世界に光が差し込んで来た。


和美が飛ばされた場所は、スペード模様が見えここがスペード国だということが分かった。

が、誰かの住む家の一室に飛ばされたようだった。

あまり生活感がなく、ベッドと机と棚があるだけで窓の外を見ると広い大きな庭が見えて

更に向こうに城が見えた。

どうやら、スペード国の別館にある使用人達や兵士が寝泊まりする棟のようだ。

「え………」

急にドアがガチャッと開いたと思えば、そこにはこの国で追い掛けられたジュクトがいた。

「な、な…なんで俺の部屋に…………」

ジュクトは先程急に消えた和美の姿を目に捉え驚きの表情を浮かべたが、すぐさま剣に左手を添えた。


「んっ……え、あれ?」

全く今の状況が飲み込めない和美。

いや、そもそもあの黒月とか言う奴のせいで状況が飲み込めないまま色々な所を転々とさせられているのだ。

そして今、彼女の目の前にはあの時の青い髪の毛の若い剣士が居た。

その男の手が腰のロングソードに掛けられた瞬間、和美も身構える。

「……どうやら色々とややこしい事になってるみたいやな……」

「ジュクト、入りますよ」


ドアをノックする音と共に、外からリシャールが入ってきた。

そしてジュクトと向かい合う怪しい人物……和美を見て柔らかい表情が一変した。

「兄さん!?」

「ジュクト…この者は一体誰です?」

ワントーン声が低くなり、今にも魔法を使いそうな空気だ。

「ま、まって!ちょっとまって!!つい構えてしまったけど、多分違うんだ!………多分」

めちゃくちゃ説得力のないジュクトの言葉に耳を傾けたが、リシャールは問答無用で和美に向かって

魔法を使った。

「風よ…吹き飛ばせ」


その言葉とともに魔法陣が現れ、突風が部屋を荒らす。

集まった風が和美に向かい、後ろにあるドアが開いた。

突風に体を押され、窓から外に放り投げられるとパチンッと指を鳴らす音がした。

「に、兄さん!?なんてことを!!ここは三階ですよ!?」

ジュクトは、慌てて窓へ駆け寄り下を見た。

「あれ………?いない」

下に落下したものと思っていたが、下には庭の芝生が見えるだけだった。

「あの者は…魔法師とはちがう気がしましたが…おかしな、空気を纏っていましたね。

まるで、この世界の者ではないような」

リシャールはジュクトの隣に立ちそう呟いた。


「!、確かに…あの女性はこの世界のことを知らないようでした…だから、一度捕らえようと

したけど…急に消えてしまって…でも、またここに現れたんです。だから、

最初驚いてしまって………無意識に剣を構えてしまったけど、少しくらいは話を聞いてあげたら

良かった…なんとなく、悪い人じゃない気がしたんだ」

そう気を落とすジュクトを側目に、リシャールは嘆息した。

「ジュクト、この世界とまた別の世界に来たものだとしたら、やはり貴方は近付いてはいけません。

どんな人物かは、短い時間で分かるわけ無いでしょう。優しい貴方は、すぐに騙されてしまう。わかりましたか?」

「…………はい」

そういわれたが、やはり気掛かりな部分が拭いきれないジュクトであった。


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