Run to the Another World in Playing Cards World第5話


(この子、何でこんなにテンション上がってるんやろ)

リュシアンのテンションに呆れ顔になりながらも、和美は自分の考えを述べる。

「この世界が大嫌いって言ってたから、少なくとも友好的なキャラじゃないのは確かやね。でもそれより、何で私が

この世界に呼ばれたのかわからへん。ハート国に行ってみれば何か分かるかもしれんね。上着どうもありがとう」

和美はリュシアンの頭を撫でてやった。

「おい!頭を撫でるな!僕はこれでもこの国の王だぞ!!」

恥ずかしかったのか、さっきより顔が赤くそっぽを向いた。

「でも、気を付けるんだぞ……その男、危険な雰囲気だったんだろう?無事に戻れるのを祈っておいてやる」

しかしツカツカとリュシアンがソファに戻ると、その瞬間ゾクリと空間が冷たくなった。

「な、なんだ!?」

驚いたリュシアンは立ち上がろうとしたが、足に何故か力が入らなかった。


「ふんふーんふふー♪」

どこからか、陽気な鼻歌が聞こえる。

「やぁやぁ、クラブ国はどうだったかニャ?なんだか、顔見知りだったようだねー★オイラってば、カズミンの

オトモダチに奇跡的に会わせてあげたってこと?ニャフフ!オイラすごーい★でもねでもね、そろそろおーしまい!

見ているコッチは飽きちゃった!さぁ、次の場所へレッツゴーだニャ★」

一方的な話が終わると、パチンッと乾いた音が響いた。

「カズミ!!?」

視線を和美の方へ移すと、一瞬で和美の姿が無くなっていた。

そして空間がもとに戻ると、リュシアンは頭を傾げた。

「…僕は、いつの間にソファに座っていたんだ…?」


「う、うえええ!?」

聞き覚えのある声にパチンと指を鳴らす音。これはもしかして……と思っていると和美の意識が

またもや暗転する。

「こ、今度は何やね〜ん!?」

何も出来ないままに暗い世界へと飲み込まれた和美は、再び差し込む光に目を開けてみる。

そこはザァアアアアアア………と先程までいた光溢れた世界とは真逆で、薄暗く霧がかかる世界。

雨が肌に痛いくらいの強さで降り注ぎ、冬のような寒さであった。

和美は、リュシアンに渡されたコートを羽織りフードを被ると周りを見渡した。

するとハートの形が描かれた大きな門が目の前に見えたので、おそらくここはハート国。

だが、周りに人の気配はない。

ただ、雨にうたれる自分の体の音がやけに耳に響いていた。


(何処や、ここ……)

キョロキョロと辺りを見渡すが人の気配は無い。

キリが掛かっているせいで視界も悪く、孤独感を感じつつも誰か居ないかを探してみる。

すると……。

「そんなに、濡れると風邪を引きますよ?」

すぐ近くで声が聞こえ、体中を濡らしていた雨が急に止んだ。

と思ったら真上に透明な傘があり、その横にはとても綺麗な顔をした赤髪の若い女性が立っていた。

女性の平均身長以上ある和美の身長を見下ろす程ある彼女は、おそらく180cmある。

「少し離れた場所に、私の働くお店があるんです。お金はいらないので少し温まっていきませんか?

もう少ししたら雨も弱まって、霧も今より薄くなりますから」

女性は、ふわりと微笑む。

「ご迷惑でなければ…ですけど…こんな、霧がかった雨の日にあまり人は出歩かないので、旅のお方だったら

お困りかと思ってお声掛けしたんです」


仲間内の女では1番大きい173cmの自分より、更に大きなその女に和美は若干動揺しながら答える。

「へっ? あ、あー……だ、誰か分からんですけど突然どうもありがとう。いやちょっと色々

ありまして……話、良かったら聞いて欲しいと思うんですけど……良いんですか?」

むしろ迷惑なのはこっちの方じゃ無いか? と思ってしまうが目の前の女はそうでも無い様なので、

ここはその好意に甘えさせて貰う事にした。

「良かった、じゃあこっちです」

女性は和美と並んで歩き、しばらく歩くとぼんやりとだが街並みが見えてきて

その中にある小さな看板に『BAR』と書かれたお店に入った。


ドアを開けると、カランカランッと落ち着いた木製の鈴の音が聞こえた。

中は暖かく、オレンジ色の光が部屋を照らして落ち着いた空間の店だった。

まだ、開店前なのか客は来ないようだ。

「マスター、ただいま。お客さんじゃないのだけど、少しの間雨宿りにこの女性を休ませてもいいかしら?」

カウンターにバーテンの服装を着た60代くらいの男性がいた。

彼はグラスを拭く手を止めずに、視線を2人の女に向けるとスッと視線をまた下に戻した。

「ありがとうマスター、さぁこっちの席に座って」


カウンターとは別の個別席に案内され、言われるままソファに座る和美。

座ったのを確認すると女性はカウンターの奥に行く。そして少しして姿を現し、ホットミルクを和美に渡した。

「どうぞ」

そう言って和美の隣に腰を落とすと、女は口を開く。

「そう言えばまだ名前を言ってなかったわね。私はマリーン。貴方は…名前を聞いてもいいかしら?」

「私は和美よ。よろしく」

ホットミルクを一口飲んでから和美は答える。

「ええと……それで、ここはハート国? で良いのかしら?」

和美の問い掛けに対し、マリーンと名乗った女は笑顔で頷いた。

「やっぱりそうなんやね。それで、私の事なんやけど……」

和美は今までの事を全てマリーンとマスターに話した。


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