Run to the Another World in Playing Cards World第3話


―地下牢

「あれぇ?こぉんなところにいたんだねー★」

和美のいる薄暗い地下牢から、場に合わない明るい声が聞こえた。

和美を監視していた兵士は、その声に驚き周りを見渡すがどこにも姿が見えない。

「えいっ★」

パチンッと指を鳴らす音が響いた。

それと同時に空気が変わり、兵士の動きが止まった。


「……?」

外の空気が変わった。

敏感にその気配を察知した和美が牢屋の外を見渡してみると、何と兵士から動きが消えている。

「……ちょ、……ちょぉ……どないしたん?」

心配そうに声を掛けてみるが反応は無い。

いきなりの出来事で何が起こっているのか分からなくなってしまった和美は、この状況をどうやって

把握しようかと一旦牢屋の扉から離れる。

(何が起こってるんや、これ……)

薄暗いこの地下牢の雰囲気も相まって、得体の知れない恐怖感が和美に襲い掛かる。

そしてその恐怖感を増長させるかの様に、鍵が掛かっている筈の地下牢の中……つまり和美の

「背後」から声が聞こえて来た。


「そっちに誰かいるのかにゃ?後には誰かがいるみたいだよ?誰かって誰だろう?うにゃ、うにゃ」

意味のわからないことを言いながら、和美の背後にあるベッドに横になってニヤニヤ笑う黒い姿が

ゆっくりと暗い影から浮かび上がった。

「やぁやぁ、サイナンだったネっ★ジュンぴょんに追い回されていた姿を見たときは、ひっくり返って笑ったニャフフ!

そして、お次はこぉんな場所に住むことになっちゃったのかニャ?」

ケラケラと耳に嫌に響く声でベッドで転げ笑う男は、どうやら和美の今までの出来事を事細かく知っているようであった。


思わず和美は身構える。

「……誰や、あんた」

地下牢は薄暗い上に、、子供の様に無邪気な声色を持つ……男? はフードを被っていて顔が良く見えない。

それでもこの得体の知れない、突然現われた侵入者は和美の心に警鐘を鳴らす。

(強いとか弱いって言うよりも、何か……あかん奴やろ、この……)

何と表現して良いのか分からないが、少なくともその話している内容からするとこのベッドの上で寝ている

侵入者は自分の事を知っている様だった。

……そう、まるで「最初から監視していた」かの様に。


「やぁだなー★そんなに身構えちゃダメダメダメ♪オイラはオイラ?黒月だよアハハッ★ねぇねぇ、カズミンはこの世界

気に入ってくれたかニャ?うにゃ?いやいや、好き?嫌い?それとも好き?」

ベッドから飛んで起き上がり、あぐらをかきパタパタと両手を上下に振って和美に対して空気を読まないことを聞いてきた。

「……こく、づき……」

名前からして非常に黒そうな名前だ。

しかし、この世界が隙かどうかと聞かれても和美は「この世界」と言う物が何か分からない。

その事を考えている内に、ある1つの結論に辿り着く。

「……まさか、このスペードとかダイヤって……トランプの世界……?」

その瞬間、黒月の雰囲気が少しだけ明るさを増した気がした。

そして肝心の質問の答えに、和美は現時点での心境で答える。

「今の段階で言えば私は嫌いやな。いきなり追い回されて、それから変な場所に飛ばされてこうして地下牢に

入れられて何時取り調べに呼ばれるかも分からへん様なこの状況で、好きって言う人は非常に変わりもんやと思うで」

けど、とその後に和美は続ける。

「この先の展開次第では好きになるかも知れん。人の心なんて分からんもんやで」


するとその瞬間、また黒月の雰囲気が変わるのが分かった。

「嫌い?嫌い嫌いキライ?そっかぁ………それはイケナイねぇ。でも、嫌いなら好きになれるよね★オイラは

この世界がだーーーい嫌いだから、カズミンには好きになってもらいたいなぁ♪」

黒月は、右手を顔の横に上げるとフードの奥の暗闇に一瞬だけ光った同じく真っ暗な瞳を和美に向けて、

ニヤリと口元を歪ませた。

「ぱちんっ★」

声と同時に黒月はパチンッと指を鳴らした。

その瞬間和美の姿は消えて、黒月は口元に笑みを浮かべて暗闇に溶けていった。

「タイクツ、タイクツ…嫌いはタイクツ。だから、今は退屈じゃないから好きだよ………カズミンも好きになるよね」

クツクツと、牢屋に笑い声が不気味に響いた。


「え、う、うわ!?」

いきなり視界が反転する。

ぐるぐると回って、反転した視界が更に暗転する。

「な、ちょ、何……」

訳の分からない未知の経験に恐怖感しか覚えられない和美は、早くこの暗黒世界が終わってくれるのを待つ。

そして、それは10秒か1分か1時間か。

どれ位の時間が経ったか分からない時に、唐突に終わりが訪れる。

和美の目に光が飛び込んで来て、恐る恐る目を開けてみると……。


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