Run to the Another World in Playing Cards World第1話


今年の2017年2月1日で51歳になった百瀬和美は、3月3日のひな祭の日に年齢に似合わない

メルヘンチックな世界にやってきてしまっていた。

夜勤で疲れていた和美は会社の仮眠室で一旦私服に着替えて眠る事にしたのである。

しかし、その眠りから目を覚ましてみる、何故かスペードを至る所にあしらっている

町の裏路地に倒れていたのだ。

最初はこれが現実ではあるまい……と思いつつ、町のメインストリートに出てみる。

だけど、そこで引ったくりを追いかけて捕まえた事から彼女のこのメルヘンチックでの冒険が

始まる事になるのだった。


とにかく、ここが一体どんな場所なのかを知る必要がある。

そう判断した和美は、引ったくり犯を捕まえて町の憲兵に引渡したのと同時にその話題を切り出そうとした。

だが、その憲兵達の後ろに出来ていた人だかりの山から青に近い水色の髪の毛の若い男が

歩み出て来たのはその時だった。

「いったい、何の騒ぎだ?」

何かあったのか、人だかりが出来ている場所に足を向けると、憲兵に捕まっている男が視界に入った。

「ジュクト様!このお方が引ったくり犯を捕まえてくださったのです」

近くにいた憲兵に、簡単に何があったのかを聞きくと、近くにいたその勇敢な女性にジュクトは頭を下げた。

「ご協力していただきありがとうございます。とても助かりました……しかし…」

ジュクトは、女性の姿を見て驚いた顔をした。

「女性であって、傷一つないだなんて、とてもお強いんですね。俺は、このスペード国のジャックの

ジュクト=S=ジャックです。あなたは?」

「どうもありがとう。私は和美って言うんやけど……1つ質問良いかしら?」

だが、その次の自分の一言が切っ掛けで和美は一気に窮地に追い込まれる結果になってしまう。


「ここって一体何処なん? 何かすごーくファンタジーっちゅうか、メルヘンチックって言うか……ええと、

そもそもスペード国って……何や?」

そのセリフにジュクトと名乗った若い男を始め、憲兵達もきょとんとした顔つきになる。

そして次の瞬間、一気にジュクトの口調と表情が変わって殺気も溢れ出て来た。

「…お前、いったい何者だ?この国のことを知らないなんて……トランプ国外の者ならば即刻

立ち去ってもらう、その女を捕らえろ!」

ジュクトは、憲兵達に和美を捕まえるよう指示した。

「ちょ、ちょっ……いきなり何やねん!?」

ジュクトと名乗った男がいきなり自分を捕らえる様に命令を出したのを聞き、和美は一旦この場から

退却する事にした。

国外って何だ?

そもそもトランプ国って何だ?

立ち去って貰うって言う事は自分は捕まった後に何処かに追放されるのか?

何で訳が分からない内にこんな目に遭わなければならないのか、和美には全く理解出来ないまま走り出す。


ジュクトの警笛が吹き鳴らされ、即座に兵士達の間で和美包囲網が出来上がった。

もう50代に突入して、身体のキレは若い時より確実に衰えている和美だがそれを長年の経験とテクニックでカバーする。

メインストリートを全速力で駆け抜け、市場に並んでいる売り物の上を飛び越え、後ろから追って来た兵士に足払い。

別に殺すつもりは毛頭無い。

「ちょ、ちょ待……事情説明うわっと!?」

事情の説明はさせて貰えないらしい。やっぱり逃げるしか無い。

メインストリートから逸れて路地裏に向かい、路地裏の狭さを利用して前から挟み撃ちで躍り掛かって来た兵士の

ロングソードを持つ手首を両手でキャッチしつつ、後ろの兵士達にハイキック。

手首を掴んだままの兵士をそのハイキックをかました兵士達に向かって突き飛ばし、飛び後ろ回し蹴りで

怯ませてから更に逃げる。


だけどそのチェイスシーンもどうやらそこまでの様であった。

(え、嘘っ!?)

その路地の先に逃げたまでは良かったが、何とそこは完全な行き止まり。後ろからは兵士達がバタバタと追いついて来た。

その兵士達の中から、ジュクトが警笛を右手に持って弄びつつ左手で少し変わった形のロングソードを構えつつ口を開いた。

「ここまでだな…」

逃げている間、憲兵達の剣を武器も持っていないのに避けていく姿を見て益々怪しいと思ったジュクトは、

左手に持つ剣のレグルスを構えて走り出した。

和美に向かって振りかざすが、レグルスは両手でうまく挟み込まれて、それ以上下に押し込むことが出来ない。

「お前……凄いやつだな。もし、スペード国にこんな腕の女性がいたら女戦士として活躍していたかもしれない………」

国外者じゃなければの話だが。

狭い空間の中、二人の拳と剣が暫く交わると後ろにいた憲兵の一人が、なかなか終わらない戦いに

痺れを切らして前に出た。

「ジュクト様!加勢いたします!」

「!、来るな!!俺が捕まえる。なんとなくだが、この女性は悪者ではない気がする…」

少しの間、戦ってみて違和感を覚えた。

本気で逃げていた割には誰にも怪我一つ与えていないし、自分と戦っていても向こうからしかけてくることもない。

「………だが、国外者には変わりない。」

そう、スペード国はトランプ国外の人間には容赦がない。

もし、国に害をなすものだと分かれば捕らえて殺すか尋問にかけて殺すかだ。

ちゃんと無害と分かれば生かして逃がすが、今までそれはほんの僅かな人達だけだった。

「………和美といったな、なんとなくだが、おまえは悪を感じない…………でも、このまま帰すわけにも行かない。

大人しく捕まって自分の素性を明かす事だ」


そう言って剣を下ろそうとした瞬間、目を塞ぐような強い風が吹いた。

手で目に痛く入る風を避け、目の前に居る和美を捉えていたが彼女の姿が一瞬光って突然消えた。

「!?」

消えたとともに風が止むと、憲兵達は何故か顔を見合わせ何事もなかったかのように散り散りになった。

「お前達………?」

「一体、何で俺達ここにいるんだ?」

「さぁ?、持ち場に戻ろうぜ」

記憶が消えてる?

まるで魔法にでもかかったかのように、憲兵達は和美の記憶をなくしていた。

「………なんだったんだ…兄さんに、報告しに行こう」

ジュクトは、不思議な体験を魔法師であるリシャールに知らせるため、足早に城へ向かったのだった。

「カズミ…一体何者だ?」


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