Run to the Another World Battle Stage2第3話


由佳よりも小柄かも知れないその身体から繰り出される鋭い突き込みを回避し、バックステップで距離を取りつつ倉庫街の往来へと下がる由佳。

狭い場所で戦うのは日本刀もロングソードもやりづらいので、お互いにこれで楽に戦える様になった。

お互いの様子を窺い、円を描く形でグルグルと回りながら2人は睨み合う。

夜の港湾区域に緊張が走る。

(どうする……この女の子、どう出て来る!?)

(この人……なかなか強いよ。でも私だってエーレスタ騎士団の一員だし、何としてもアーフィリルの居場所を聞き出さないと!!)

お互いの考えが全くかみ合わないまま、波の音が一瞬途切れる。

それを合図に2人は再び打ち合いを始める。

「たあっ!」

若い身体を弾かせて、由佳に対して黒いリボンの女が飛び込んで来る。

一本気な性格なのか、それとも真っ直ぐ飛び込んで来る事で勝負を決めに掛かって来ているのかは分からないが、

それでもさっきと変わらないそれなりに素早い突きが由佳に襲い掛かる。


だが由佳だって黙ってやられる訳も無く、右に避けてからグルンと左回りに回転しつつ女の脇腹目掛けて回し蹴り。

「ぐっ……」

「っ……」

回し蹴りを女の脇腹に当てる事には成功したが、女のつけているロングソードの鞘にかかとを当ててしまう形になり、

結果的に由佳も自爆でダメージを受けてしまう。

(ぐぅ……運の強い子ね……)

まさか鞘でダメージを受けるなんて、と由佳は想定外の事態にビックリしながらも、再び向かって来る女に対して

こっちから先制攻撃でやってしまうしか無いと判断。

ギン、ギィンと金属のはじける音が繰り返され、女同士のキャットファイトがドラム缶や木箱、そして静まり返る倉庫達をギャラリーにして続く。

「はぁぁっ!!」

気合一発、再び飛び込んで来る女の動きを観察して上からロングソードの振り下ろしを仕掛けると読んだ由佳は、

バックステップで一旦回避してから飛び掛かる算段を考える。

(飛び掛かって押さえ付けてしまえばそれで終わりよ!!)

そう考え、ロングソードを振り下ろすのを目で捉えた所で女に向かって駆け出した……までは計算が成り立っていたのだが。


「わわわっ!?」

ロングソードを振り下ろした女は勢いが付き過ぎてしまったのか、はいているブーツのつま先が地面の段差か何かに

引っかかって体勢が前のめりになってしまう。

そこに走り寄りつつジャンプから飛び掛かって、女を地面に倒して押さえつけてしまおうとした由佳が飛び込んで来てしまうと言う事はつまり……。

「ぐぇあ!?」

前のめりになった女の頭が、丁度飛び込んできた由佳の身体の下に潜り込む体勢になってしまい由佳の胸が女の頭にクリーンヒット。

要するに、由佳は空中で頭突きを女に食らう形になってしまったのである。

しかも飛び掛かろうと自分から飛び込んで行った事もあって、普通に頭突きを食らうよりも受けるダメージの桁が違うのも大きかった。


「うぐ……あ……」

「だ、大丈夫ですかっ!?」

最初の威勢の良い様子は何処へやら。

女はロングソードを鞘にしまいこみ、由佳にたたたっと駆け寄って声をかける。

「つ、ついてるわね……」

何と言う幸運の持ち主なんだろうと思う由佳だったが、勝負の内容はどうであれリザルトとしては由佳の負けと言う事になった。

そこで女が「あれ?」と声を出したのを切っ掛けに顔色が見る見る変わって行くのが由佳には見える。

「あ、ご、ごめんなさいっ!!」

「……えっ……?」


何がごめんなさいなのだろうか。

もしかして、自分にいきなり斬りかかって来た事だろうか?

そんな疑問を抱く由佳が、女の差し出された手を取って身を起こした。

ともかく臨戦態勢のままではいられないと思い、日本刀を鞘に2本とも収めた所で2人の間に流れていた緊張感が幾らか和らぐ。

残っているこの緊張感を少しでも減らすべく、由佳は女とコミュニケーションを取る事にした。

「え、あ、ええと……一応、私に対して謝っているって言う認識で良いのかしら?」

「そうです。私勘違いしてまして……その、アーフィリルって言う私の大事なお友達が居るんですけど、そのアーフィリルが

私のそばから小さい状態でさらわれてしまったんです!」

「……うん、全然話が見えて来ないわ」

いきなりお友達だの、小さい状態だのと言われても由佳には全く女の言っている話が見えない。


そこで、まずはお互いの身分を明かす事から始める事にする。

「焦る気持ちも分からないでも無いわ。見るからに焦っているけど、でもとにかく落ち着いて。お互いの事を知ってから、

一体何があったのかを説明してくれた方が私も助かるんだけどなぁ」

「あ……そ、そうですよねっ!」

「それじゃあまずは自己紹介と行きましょうか」

緊急事態だからこそ、落ち着いて行動する事が事態収束への第1歩と言えるだろう。

しかしこの自己紹介で、由佳と女はお互いに自分がとんでもない事に巻き込まれてしまったのだと理解する事になってしまったのである。


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