Run to the Another World Battle Stage2第2話


近くの曲がり角を形成している建物の壁に張り付く形で隠れて、先の方の倉庫の角から姿を見せた

人影を出来るだけ注意深く観察する。現在43歳、今年でもう44歳になるので老化による

視力の低下も激しいが、それでもまだ裸眼で問題無い。

グラルバルトの行方も気になるが、今はこちらの方に向かって来る人影の方がよっぽど気になる

三浦由佳の視界に姿を現したのは、茶色の長髪を黒の大きなリボンで後ろに縛っている……。

(女の子……かしら?)

華奢でくびれのある体つきから自分と同じ女であると由佳には見えるものの、あいにく今の距離では

年齢の判断がつけられない。


それに加えて良く見てみれば、何やら腰にロングソードの様なブラブラ揺れる長い物を携えているのが分かった。

敵か味方か分からないが、少なくとも普通の人間では無いだろうと由佳は結論付ける。

(迂闊に出て行かない方が良さそうね。ここは様子見でしょ……)

身を翻して、今度は近くのドラム缶のそばに滑り込んでこちらを見られても見つからない様に警戒する。

段々と人影が近づいて来るに連れて、その女の大体の背丈や顔付きが倉庫の上のライトで

照らし出されている事もあって良く見える様になって来た。

そして女が何かを呟いているのも、遠くの方に聞こえる波の音に混じって耳に届いて来る事に由佳は気が付いた。

「アーフィリル、何処行っちゃったんだろ……」

(アーフィリル?)

何かを無くしたのだろうか、それとも女の知り合いだろうか?

さっぱり見当がつかないままに、その女が自分のそばから通り過ぎるのを見つつ由佳はそーっと別の区画へと足を進ませるのだった。


時間帯は首都高を走っていた時と変わらず夜の様で、上空には黄色く輝く月が見える。

今の由佳が居る場所は倉庫街。

日本でもふ頭の辺りに行けば良く見られる光景なので景色自体に驚きは無かったものの、何故自分がこんな場所に

居るのかと言う疑問は由佳の中から消えてくれそうに無い。

そして一緒に居た筈のグラルバルトは一体何処へ?

さっきの女は何者なのか?

(ダメ……考えれば考える程頭が混乱して爆発しそうだわ。ここはとにかく色々とここを歩き回ってこの謎の現象の

手がかりを見つけて行く以外に無さそう)

自分のライバル関係とも言うべき飯田恵であればこう言う分析は得意なのだろうが、いかんせん自分は考えるより

先に身体が動いてしまう性格であると由佳は理解していた。


だったら自分の足で歩き回って手がかりを見つけるしか無い。

さっきから遠くに聞こえる波の音で、ここは海の近くであると予想。

「あ……そうだわ。だったらGPSアプリで位置情報を確認すれば良いじゃない!」

なーんだ簡単な事だわ、と独り言を漏らしながら由佳はスマートフォンをポケットから取り出すが、

その画面に映し出された情報に一気に由佳の表情が変わってしまう。

「えっ、な、何よこれ!?」

まさかのアプリ起動不可。インターネットの回線に繋がっていないらしく、通信サービスが現在利用出来ない状況らしい。

となれば……と色々確認してみた所、電話もメールも同じ様に使用不可になってしまっている。

「何で……どうして……!?」

スマートフォンを再起動してみても結果は同じ。

どうやら、自分は今大変な状況になっているのかもしれないと由佳は絶望感に襲われ始めた。


しかし、そんな由佳の耳にまたもや足音が聞こえて来た。

(足音……さっきの女の子かしら?)

耳を澄まして足音を聞いてみるが、由佳は違うと首を横に振る。

(いいえ重さも、それから歩くペースも違うわね。さっきのはもっと軽くて早足気味だったし……)

だったら別の人物だろうと思い、用心する気持ちはそのままにしつつ今度はコンタクトをとってみようと決心して

由佳はその足音の方へと進んで行く。

だが、この足音に近づいて行く事が由佳をこの後に待ち受けている大事件の発端になるとは、もちろん彼女自身には知る由も無かった。


由佳がその足音に向かって駆け出した数秒後、彼女は腰の日本刀を抜かざるを得ない状況に陥っていた。

何故ならば、その足音を立てていたのはさっきのアーフィリル……と呟いていた女だったからだ。

どうやら向こうも、さっきの由佳と同じ様に足音を忍ばせながら歩いていたらしいので重く、そして遅く聞こえたらしい。

しかもその女はいきなり腰のロングソードを抜いて斬りかかって来た為、由佳も咄嗟に日本刀を抜いて応戦を始める。

「い、一体何なのよ!?」

由佳は自分より若いこの女剣士に日本刀を合わせつつ問い掛けると、妙な答えが怒声混じりに返って来る。

「とぼけないで下さい! アーフィリルを何処へさらったんですか!?」

「はぁ!? 何よそれ……っ」


なかなか元気一杯の剣捌きを見せる女だが、由佳だって22歳の時からずっと剣術混じりの剣道をやって来ているだけあって

そうそう簡単にやられるつもりは無かった。

こうして、由佳は訳の分からないまま今までの武術経験を生かしたバトルをスタートしたのである。


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