Run to the Another World Another Stage第9話


「……えっ?」

ギラリと鈍く光る切っ先を向ける、左目に眼帯をしている黒髪の若い男が芝生に仰向けになっている

自分の視線の先にあった。

「貴様、何者だ。」

返答によってはすぐに斬るつもりで剣の柄を握る手に力を込めた。

それもそのはずだ。ここは王国領、しかも王城内の庭園なのだ。

見覚えのない薄汚れた男が転がっているのを見つけ、危険を感じシヴルはすぐに動いた。

「シヴル、どうした?」

後ろからシヴルによく似た長い黒髪の男も近づいて来る。

「兄上は下がっていてください」

シヴルはその男、ルディアスを庇うように前へ出ると剣の切っ先を相手の鼻先へ更に近づけ睨みつける。

「もう一度だけ聞く。貴様は何者だ」


「……えっ……」

一体何が起こったのだろうか?

あの洞窟の中でまばゆい光にまたしても包まれたと思えば、その光が収まってここに自分は倒れている。

目の前にはギラリと光る剣の先端。

しかもそれを構えているのは、全身が黒と紫のイメージカラーの衣服でコーディネートされている、

黒い眼帯をしている若い男だった。

とにかく状況を把握しないといけないので、岩村はストレートにこう願い出た。

「そ、その前にその物騒な物を下ろしてくれないか。俺だって状況が呑み込めていないものでな。

それからきちんと話をしよう」

あくまで相手を刺激しない様に、しかし言いたい事はハッキリと岩村も伝える。


「俺は何者かと聞いている。質問に答えないなら今すぐその首を飛ばしてもいいんだぞ」

少々苛立った様子でシヴルは目の前にいる男の首に切っ先を当てた。その腕をルディアスが掴んで止める。

シヴルの横に並ぶと冷めた瞳で男を見下ろした。

「状況が飲み込めていないと言ったな? ではなぜ王城内の庭園に寝ている? どうやって侵入したのだ」

見知らぬ者が侵入すれば騎士団が動かないわけがない。

警備に不備があったのか、はたまた自分たちの知らない侵入経路でもあるのか。それにしてもこの男の言動も謎が多い。

ルディアスは調べるべきかと思案したのだ。

「いや、俺も何がなんだかさっぱり……。洞窟でティルとかセバートって奴に追われてて、それからその先の行き止まりで

海賊を追い詰めていて、洞窟の中に一旦戻ったら謎の光に包まれたんだ。そして光が収まったと思ったら俺はここに寝てた。

俺が知っているのは本当にそれだけだよ、シヴル君とシヴル君のお兄ちゃん」


続けて岩村はそのお兄ちゃんが発した「王城」と言う単語について聞こうと思っていたのだが、ティルとセバートの言葉に

この兄弟らしき2人は反応する。

「報告を受けていた賊とは貴様の事か」

ルディアスの言葉と同時にシヴルがさっと前へ出る。

「色々聞きたいこともある。殺すなよ」

シヴルは無言でうなずくと剣を突き出した。

だが一歩先に転がって避けられる。手加減したことが仇となったようだ。


岩村は突き出された剣を避けて素早く立ち上がる。

「それを俺に突き出してきたと言う事は、話し合いには応じない様だな。悪いがそうとなればこちらも考えがある」

穏便に話し合いをしようと言っているだけなのに、何故攻撃を受けなければならないのか。

その理不尽な行為に岩村は反発し、太極拳の構えを取る。

「ランク27位だが、俺にだってプライドはあるんだ。理不尽な高位には決して屈するつもりは無い」

クールにそう言い放つ岩村に対して、黒髪の兄弟は……。

「油断するなシヴル。どうやら奴は戦い慣れしているようだ」

ルディアスの言葉にシヴルもうなずき剣を握り直す。突きではなく斬る握りだ。

「悪いが命の補償はできない」

「抵抗するなら構わん。やれ」

短いやり取りの後、シヴルは猛スピードで相手に斬りかかった。

上段から斬り掛かって来るシヴルに対して、岩村はそのままやられるつもりは毛頭無い。

さっと横に振り下ろしを回避し、その回避した動きを使って身体を横に回転させての回し蹴りで

シヴルの膝の関節を狙う。

膝カックンの要領でコツンと上手く当てた……までは良いが、シヴルも地面に膝をついた状態で

カポエイラチックな回し蹴りを繰り出して、岩村の足を払い飛ばす。

「くっ!」

再び地面に転がる岩村の目の前に迫るは、シヴルの刀みたいなロングソードの先端。

避けるのは間に合わないと判断して足で蹴り飛ばし、ロングソードの軌道をずらしながら足を回して起き上がった。

だが、相手は1人じゃ無いのだ……。


背後からルディアスが剣を突き出す。横に避けた隙を狙ってシヴルが剣を逆手に持ち変えると、左肩にそれをズブリと突き刺した。

「!?」

「どういう…ことだ」

突き刺した相手の左肩からは血一滴流れてこない。それどころかシヴルの剣を包み込むようにそこから光が溢れてきていた。

シヴルはあわてて剣を引くと自身の剣を眺めてみる。剣の方に変わった様子はないみたいだ。

「貴様、何者だ!?」

訳の分かっていない表情の相手に向かって先程と同じ質問をする。


「な……」

その質問に答える前に岩村も絶句していた。

何だ、この現象は。

一体自分の身体に何が起こっているのだろうか?

こんな現象、ヘルヴァナールに居た時だって経験した事が無い。

(まさか、さっきの光のせいなのか!?)

確かに自分は刺された筈だ。なのに、何故か血は流れなかったしそれ所か痛みすら感じなかった。

「……俺は……俺は、ただの一般人なんだ。本当に、その辺りで生きている人間と何も変わらない。

だけどこの状況は余りにもおかし過ぎる。色々と俺の身体、調べてみてくれないか。

俺が1番、何が自分の身体に起こっているのかを知りたいんだ」

クールな性格の岩村は冷静に、しかし力強く黒髪の兄弟に願い出た。


「アルヴァインは今騎士団と共に居たな」

「帰るまで待たれるのですか? 兄上」

「いたしかたあるまい。それまでは牢に繋いでおく」

そのままルディアスは歩き出そうとする。シヴルはルディアスの意思を察し、男を捕らえようと手を伸ばした。

だがその時、突然城門の向こうから爆音が上がる。二人は何事かと振り向いた。

「まさか敵襲!? こんな時に!!」

シヴルはちらりと横にいた男を見、城門の方を見て舌打ちすると、すぐに爆音がした方へと駆け出した。

それを確認すると、すぐにルディアスが男の腕を掴む。

「お前には今後一生実験台になってもらわなければならないからな。こちらに来てもらおう」

不適な笑みを浮かべ、ルディアスは男の腕を引いた。


「おい、ちょっと待て」

掴まれた腕をシュパッと振り払う。

「確かに俺は、俺の身体に何が起こっているのかを調べて欲しいと言った。だが一生実験台になるとまでは

言ってない。この場で約束してくれ。俺の身体を調べたらすぐに解放すると。それが約束出来ないのであれば

俺としてはこの約束は取り消させて貰わなければならん」

この兄貴の方はどれ程の実力かは知らないが、さっきの弟も居ない事だし……と何時でも逃げられる

身体の姿勢を取る。

この城の中は奴等のテリトリーだ。それは間違い無い。完全にアウェイの状態である事も分かっている。

だからと言って一生実験台なんて言うのは自分にとっても御免だな、と岩村は心の中で呟く。

(栗山もこうした実験に協力させられそうになって逃げた、って言ってたからな……過去の傭兵時代に)

栗山はランク付けバトルテストで堂々の2位の成績。自分はそんな栗山程全然強くないけど……でも……そんな

強くない自分でも抗わなければいけない時と場合には必死に抗わなければならないのだと決意し、岩村は

この黒髪の兄貴の次の言葉を待った。


「自ら実験体を願い出ておいて拒否するとは訳の分からない男だ。自分の発言には責任をとってもらわなければ困るな」

そのままルディアスは腰に下げていた剣を引き抜く。

抵抗する事もできたが現在の状況と立地的なことを考え、岩村は逃げる方を選択した。爆発していた城門方面とは逆に駆け出す。

ルディアスはそれを早々に察知し、指笛を鳴らした。それを聞いた兵士たちが城の方から集まってくる。

岩村の進行方向を塞ぐように立ちはだかった。

「奴を捕らえろ」

「くそ、捕まるわけにいくかよっ」

目の前には6人ほどの兵士たち、背後にはルディアスだけだ。

迷うことなく岩村は踵を返し、ルディアスに挑みかかる。

目的はそこを抜け逃げることだ。走りながらルディアスの隙を探した。


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