Run to the Another World Another Stage第10話


まともにやりあえばこちらには勝ち目が無い。そう、「まともにやりあえば」の話だ。

岩村はハナからまともにやるつもりは無い。

太極拳の試合ではまともに正々堂々とやるが、今はルールも何も無いバーリトゥードバトルだ。

ロングソードを引き抜いたルディアスに向かって、そのままダッシュからのスライディング。

ルディアスはジャンプしてそれを回避するものの、岩村はスライディングしたその姿勢を利用してゴロッと転がってうつ伏せになる。

そのうつ伏せ状態のまま目の前に見えたルディアスの両足を掴んで思いっ切り引っ張って、

文字通り彼を地面へと岩村は引きずり倒した。

「ぬお!?」

足を取られたルディアスは何とか逃れようと身体をバタバタさせるものの、岩村は足を引っ張りながら立ち上がって

プロレスのジャイアントスイング。

そのジャイアントスイングで勢いをつけ、自分達の方へ向かって来ている兵士達にルディアスを投げ飛ばす。

投げ飛ばされたルディアスの身体はそのまま兵士達にぶつかり、まるでボウリングのストライクが起こったかの様に

兵士達とルディアスが地面に倒れこんだのを尻目に岩村は城と反対側の方へと駆け出した。


「兄上ッ!」

 爆発の元凶を見つけようとキョロキョロしていたシヴルに向かって声がかけられる。

そちらを見てみれば、愛すべき末弟シャルロが顔中をすすで汚したままこちらへ駆けてくる。

「お前はまた、勝手に城を抜け出して…。怪我はないか?」

心配しつつ顔のすすを手で払ってやる。そのシャルロの背後からのっそりと背の高い男が現れた。

シヴルの眉間に深くシワが刻まれる。

「俺に殺されに来たか、ジセン・オウンダー」

「違うんです、兄上! ジセンはぼ…、私を守ってくれてたんです!!」

シヴルはジセンを睨みつけたままシャルロへ向けて言葉を続ける。

「ここは俺が請け負った。お前は城の方へ下がっていろ」

そのままシヴルは町の方へと消えていった。


城を脱出しようと思っていた岩村だが、あいにくこう言うファンタジーな世界は彼にとっては良く分からない。

その上、城だと言う事で無駄に広いこの中庭から脇道に入ってみるとそこもまた入り組んでいたので、

結局迷ってしまったのである。

(ちっ、ここは何処なんだ?)

分からなくなったら来た道を戻ろうと思った岩村だったが、幾ら普段冷静な性格の彼だと言えども

この状況で冷静さを保ち続けるのは無理だった。

そして、そんな彼の目の前に2人の男が新たに姿を現した。

「あっ、すまないが……城への入り口ってどっちだ?」

どうやら城の関係者らしいが、それでも岩村はワラにもすがる思いで頼み事を黒いチョーカーを

首に巻いた男と紫頭の細身の男に願い出た。


しかし、そんな岩村に対して男2人はお互いに武器を抜く。

「兄上が何やら中庭でやっていると思ったら、不審な人物がこうして紛れ込んでいたとはね」

「だったら逃がす訳には行かねえよなぁ、イディダル?」

「おいおいメルヴァール、王族は自分の名前を余り他人にばらしてはいけないだろう?」

「あっ、そういやそうだったぜ! すまねえ兄貴!」

イディダルと呼ばれた兄の言葉に、酒場のマスターにも自分の名前がばれている事を思い出し、口が軽い

今までの自分を思い出してボリボリと弟のメルヴァールは後ろ頭を掻いた。

「……っておい、あいつ逃げたぞ!?」

「逃がすな、追え、追えー!!」

敵だと判明した以上、会話をしている間が逃げる好きだと判断して岩村はその兄弟2人から

さっさと退散する事にした。



「おい、火の回りが早いぞ!!」

「魔術師達はまだか!?」

「くそっ、こっちからもあっちからも攻め込んで来ていやがる!!」

サンドゥツレラの城下町は蜂の巣をつついた様な騒ぎになっていた。

人型と動物型が入り混じった魔族の集団が突然襲撃して来た事が切っ掛けで、至る所で火災が発生している。

一般市民達は逃げ惑い、騎士団員達や傭兵達は手を組んでその襲撃を食い止めたり市民を

安全な場所まで誘導したりしていた。

「くそっ、ティル団長やセバート副長はこんな時に一体何処へ……!!」

王国騎士団の第6師団の師団長を務めているストルグ・リガーも愛用の斧を武器に魔族達を撃退して行く。

その一方ではヘアバンドが特徴の傭兵ジェイルが別の場所で戦う。

「魔族め……これだけ大勢で向かって来るとは!!」

その声には怒りの色があった。


更に、魔族の中にも同族と戦っている者が1人。

黒髪の傭兵であるヴァリアスだった。

「うらあああっ!」

愛用の双剣を振るい、自分に害をなす魔族達を撃退して行く。

相手が殺す気で向かって来るのであれば、それこそ同族の魔族であろうが人間であろうが

関係無く立ち向かわなければならない。

戦場とは非情なものである。

(でも、何で魔族がこんな大量発生してんだよ!?)

しかも何で突然王都を襲って来たんだろうか。

同族であってもその行動理念に疑問を覚えるヴァリアスだが、そんな事を考えている間に

次の敵がやって来たので迎撃態勢に入る。


その裏では、海賊が魔族達と手を組んでいた真相があった。

「お頭、王都は大混乱ですぜ」

「ああ、どうやらこれで混乱に乗じて王都に忍び込めるぜ」

部下の何時もの呼び方をスルーしつつ、やっとの事で王都「アイリゼム」に辿り着いた

ガルヴァーニ海賊団とその一味は王都への進軍を開始した。


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