Run to the Another World Another Stage第11話


岩村はサンドゥツレラの王城の庭を逃げる。

後ろからはあの兄弟の王子が追いかけて来るものの、大剣と双剣使いだったので

まともにやり合っては勝ち目が無いと判断。

頑張れば勝てない事も無いかも知れないが、あのティルとセバートと戦った時とは違いここは城の敷地内。

戦っている間に増援がやって来る事だって十分に考えられる。

ただでさえ先程の黒髪の兄弟に目を付けられてしまっている以上、城の外へと逃げ出すのが

今は得策だろう……と思っていたのだが。

「くそっ、あいつは何処に行きやがった!?」

「あっちを探してみよう、メル。それと見回りの連中にも知らせろ!」

中庭の庭園に隠れてチャンスを窺っていたのだが、どんどん逃げ場が無くなって来る。

結局岩村は逃げ出すどころか、危うく見張りの兵士に見つかりそうになり城の内部へと

開いていた窓から入り込んでしまう事になった。


魔族の対応に人手を割いているせいか、岩村の予想に反して城の中には騎士団員の数が驚く程少なかった。

逆に外には見回りの騎士団員が多くなって来ているので、一先ずほとぼりが冷めるまで

城の中の何処かで身を潜める事にする。こう言う時に焦って行動するのは命取りだ。

(厄介な事になったな……)

とにかくこの城の中の何処に身を隠すか考えながら歩いていた岩村だが、考え過ぎて

前の曲がり角から歩いて来る人影に気が付かなかった。

「……うおっ!?」

出会い頭に危うくぶつかりそうになり、間一髪で岩村とその人物は回避。

その男は水色の髪の毛をしている、肩眼鏡を掛けた壮年の男だった。

「……貴様、何者だ?」

「あ、いや、俺は……」

とっさに何か上手い言い訳を付こうと思ったが、こんな時に限って何も出て来ない。

しかし、その片眼鏡の男は岩村の予想外の事を口に出した!!


「……貴様、まさか異世界人か?」

「えっ?」

物凄く唐突な事を言われた岩村はキョトンとするものの、言った方の片眼鏡の男は真剣な目つきで岩村を見る。

「何故、と言う顔をしているな。私達の王国騎士団の人間達から連絡があったんだ。

「怪しい動きをする気になる男を捕まえたので、これから王都に連行する」とな」

それを聞いて岩村は「ああ……」と妙に納得した。

「王国騎士団の人間達と言うのはあの金髪の騎士、それから茶髪の騎士の事だろう?」

「ティルとセバートの事か?」

「そんな名前だった気がする。でも、怪しい動きって言うのは俺は納得出来るが「異世界人」と

言う事まではそれこそ「何故分かる」んだ? 俺はこの世界の人間かも知れないだろう?」


何処か挑発的な口調でそう問う岩村だが、片眼鏡の男はさして気にした様子も見せないままで答える。

「怪しい男の連絡を通話魔術で受けた時とほぼ同じタイミングで、国王陛下の執務室の机の上に

貴様にまつわるかも知れない奇妙な物が突然現れた。まるで転送魔術でも使ったかの様にな。

しかし転送魔術の気配は感じなかった。私としても異世界、等と言うものは突拍子も無い考えだと

思うのだが……それが1番納得の行く予想なんだ」

「……そうか」

苦笑いをお互いに浮かべる2人だが、こんな所で立ち話をしていても何だし何時この状況を他の兵士達に

見られるかも分からないから……との事で、その国王陛下の元へと岩村は案内して貰う事になった。


「……岩村です。初めまして」

「私はフリート・エルヴィラム・サンドゥツレラ。このサンドゥツレラ王国の国王だ。こっちはハリスフィル・キースディス。

私を何時も補佐してくれる宰相だ」

国王陛下が目の前に居るだけでもかなり緊張すると言うのに、まさかさっき出会った片眼鏡の男が

宰相だったなんて……と岩村はびっくりした。

(確かに壮年なだけじゃ無い「何か」を感じたのだが、まさか宰相とは……)

ただ歳を食った訳じゃ無い様な貫禄があったのはそう言う事だったのか、とまたしても岩村は妙に納得した。


「それで、そなたと関係があるかもしれないと言う妙な物はこれなんだが……見覚えは無いか?」

そう言いながらフリートがチャラ、と音を立てつつ執務机の引き出しから取り出した物は、確かに

岩村にとっては物凄く見覚えのあるアイテムだった。

「あ、そ、それは……」

「やはり見覚えがあるのだな?」

「ええ、それは間違い無く俺のカギですね」

フリートが取り出した物。

それは岩村が長年乗り続けている自分の愛車、Y33日産セドリックのキーだった。

何でこれがこんな所に……? と岩村は疑問に思っていたのだが、突然この執務室の机の上に

現れたと言うのだからフリートもそれからハリスフィルも分かっていない様子である。


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