Run to the Another World Another Stage第8話


馬車で少し進み、例の海賊が向かっていた洞窟の前で停車すると、捕虜はセバートがつれ、中に入っていく。

「奴らも捕らえなければな。」

もうすでに入り口付近に海賊たちはいなかったが、所々残っている足跡でこの中にいることは明白だった。

「海賊たちはどこまで進んだんだろう…?」

セバートが奥に気を取られているうちに、どうしたことかきつく縛っていたはずのロープをほどき捕虜が逃げ出した。

「な!?」

一瞬みな慌てたがティルが冷静さを取り戻し、二人に指示をする。

「生憎奴が逃げた先はこの洞窟の奥だ。この奥には海賊もいる。一網打尽にするぞ。」

セバートは槍を、アルヴァインは杖を強く握りティルの指示に従って進んだ。

ここまでは一本道だった。逃げ道はない。


必死にもがいていた岩村は、何とかロープを解く事に成功。

そのままさっさと逃げ出したは良かったものの、冷静さを若干失っており気がつけば薄暗い洞窟の中。

おまけに後ろからはあの3人組が追いかけて来ているので引き返せない。

このまま進んで行き止まり、と言う事だけは止めて欲しかった。

それでもこうして逃げ出した以上は岩村は前を見て進むしか無い。

すると、不意に前の方から言い争う様な騒がしい声が聞こえて来た。これは一体……?


「海だ…!」

ヴァレントが腹をすかしつつ、お宝を目指して突き進んだ洞窟の先には、海が広がっていた。

途中、変な文様が刻まれた岩でふさがれた場所があったが、どうやっても開くことができなかったので

入ることはあきらめた。

「おか、ヴァレント様、どうしやすか?」

先の少し奥まったところに、見覚えのある船が漂流していた。子分はそのことについて尋ねたのだろう。

「俺の船…こんなところについてやがったのか…。」

それは沈んだとばかり思っていたヴァレントの船だった。

感慨にふけっているヴァレントの足元を、現れてはならないものが通り抜けた。

「ちゅー」

小さなネズミを見た瞬間、ヴァレントが暴れだした。

「テメ―!ふざけんなこのヤロウ!!」

剣を引き抜き、振り回し、小さなネズミに対して威嚇する。子分がそのそばであわあわしていた。


後ろからの足音が段々小さくなって行く。どうやら距離が離れている様だ。

だがそれに反比例して前からの声が大きくなって来た。

止まって様子を確かめたい気持ちで山々なのだが、岩村には現時点で走るのをストップ出来ない理由があった。

(何だ、一体何が起こってるんだ……?)

そう考えるのと同時に、洞窟の中の湿っぽい空気に混じって変な臭いがして来る。

(……これは……潮の臭い……?)

岩村の生まれ育った愛知県は海に面した県ではあるが、あいにく地元の一宮市は海からかなり離れているので

海に行く様になったのは東京に引っ越してきてからである。

そもそも、元々インドア派だった岩村はアウトドアな事には余り興味が無い。

だから懐かしい感じのするその臭いを辿り足を進ませると、その先には今1番会いたくない人間の姿があった。


「うがああああっ!!!」

ネズミ相手に剣を振り回しているヴァレントをよそに、子分が、こちらに近づいて来る足音に気が付いた。

「お、ヴァレント様!あの男っ…!!」

はたと目が合った瞬間、相手が数歩後ずさった。

「ぬがああああああぁぁぁっ!!!」

それにいまだ気が付いていないヴァレントは、ネズミと格闘中だ。

チューチューと這うネズミは、向こうにいた男の方へと逃げていく。そこで初めてヴァレントが相手を見た。


岩村はあの海賊(自称)の姿を見て一瞬足を止めて後ずさったが、ここでやらなければ2度とチャンスは

来ないと思って覚悟を決める。

「どけ!」

目の前に立ちふさがろうとした手下らしき男を全力で横に突き飛ばし、ターゲットの男に狙いを定めて

ダッシュからそのままジャンプ。

そして男がこちらに気がついたのと同時に、男の顔面に岩村の渾身のドロップキックが炸裂。

男は盛大に吹っ飛んでゴロゴロと後ろに転がり、立ち上がった岩村には子分達が一斉に襲い掛かって来た。

その後ろからはあの3人組とその部下達が大勢やって来ている事も知らずに……。


ヴァレントは立ち上がってすぐに相手へ向かって斬りかかる。

「これ以上お宝をやるわけにはいかねーぞ!!」

船の方に向かおうとしていた相手を子分が吹き飛ばされている間に捕まえて、逆の方へと投げ飛ばした。

「こっちに戻ってくるとはいい度胸だな。こうなったら奪われたお宝の分まで貴様をぶっ潰す!!」

子分と連携してじりじりとヴァレントは相手を追い詰めていく。

ちょうど開かずの岩があるあたりまで追い詰めた時、なぜか遠くの方から信じられない数の足音が聞こえてきた。

「まさか、テメェ!?」

慌てるヴァレントの背後、うんともすんとも言わなかった模様がかすかに光った気がした。


(宝、宝って。この男はおもちゃメーカーの広告塔か!)

内心で物凄く呆れながらも、その事を口に出す前に男と子分に追い詰められる岩村。

岩繋がりで岩の壁がある場所まで後退せざるを得ない岩村だが、その岩の壁を背にして自分と戦う海賊(自称)の

後ろから何故か光が漏れ出して来る。

「……!?」

何なんだ!? と咄嗟に岩村はバックステップで相手と距離を置こうとしたが、相手はカットラスを

振り回しながら追いかけて来た。

そのままジャンプして上段から斬り掛かって来る相手を見て、岩村は彼の下に潜り込んで腕を上に突き上げて

相手を自分の後ろに投げ転ばした。

丁度空中で相手の複を掴み相手が向かって来る勢いを利用して投げ飛ばし、そして地面に転ばせたのだった。

岩村はそのまま相手の状況を確認し、更に後ろから向かって来ていた足音が大きくなって来るのを確認。

さっさと退散しなければと思っていたその瞬間、さっきの不思議な壁が急激に大きな光を発し出す。


「な……ななななっ……!?」

岩村は咄嗟に自分のズボンの背中側に挟んでおいた愛用の武器に手をかけるが、それよりワンテンポ早くその光が

岩村を飲み込んで行くのが先だった。

「う、うおおっ……!!」

眩しい光に岩村はぎゅっと目をつぶり、そして光が収まって来たと同時に目を開く。

その目の前には……。


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