Run to the Another World Another Stage第7話


武術太極拳歴は32歳から始めて今年で14年目。

でも仲間内のランク付けバトルテストでは35人中27位と下から数えた方が早い。

そんな自分だが、それでもやれるだけの抵抗をするならやるだけである。

その思いで、岩村はティルとセバートと自分で三角形になる様にポジションを確認しながら2人の出方を待った。

「怪しい動きに惑わされるな」

それだけ言うと、ティルはスラリと腰に下げていた剣を抜く。

セバートも背中にあった槍を取り、構えた。

「一瞬で決める。」

背後を取れとセバートに目で合図し、ティルは相手に向かって一歩を踏み切った。


1番最初に動いたのはセバートだった。

どちらから来ても良い様に構えていた岩村は即座に対応するが、ティルもプラスされた1vs2の状況なので

海賊(自称)の時ともあの船の上での乱戦バトルの時とも勝手が違う。

ティルのロングソードをバック転でかわし、突き出されるセバートの槍を身を捻って避けて反撃で裏拳をセバートの顔に。

そのまま足払いを繰り出してセバートを転ばせるが、ティルがそこにロングソードを突き出して来たので

ゴロゴロと転がって立ち上がる。

(くっ、なかなか良い連係だな)

1人に構えば1人の攻撃が来る。これがvs多人数の怖い所である。

またしても突き出されたロングソードを持つティルの手を取り、その手を握ったままセバートに向けてドロップキック。

セバートを蹴り倒すと同時にティルを地面に引きずり倒したが、その瞬間身体のそば目掛けてファイヤーボールが

何処からか飛んで来た。

「ぬお!?」

岩村はティルの手を離して、素早く立ち上がってティルとセバートから距離を取りつつファイヤーボールの飛んで来た方向を見る。

そこには赤い長髪を後ろで縛った丸眼鏡の細身の男が、薄笑いを浮かべて岩村に不思議な色の杖を向けていた。


「あいつっ!向こうの任務はどうした!?」

「大方終わらせて来たんだろう。」

興奮気味のセバートにティルが立ち上がりつつ、そう言った。

「こちらも早く終わらせなくてはな。」

ティルの言葉に、セバートが動いた。

素早く相手へ間合いを詰めると、槍を繰り出す。

だがそれは相手が横にずれることで空振りに終わった。

相手はすかさずその槍をつかみ軽く押し出すと、何故かセバートの体が吹き飛んだ。

「あ、ぐ!?何だ今の!?」

「怪しい動きに惑わされるな!」

ティルはもう一度セバートに釘をさすと、相手へと向かっていく。

掴まれたらやられる。適度な距離を保ちつつ、ギリギリのところで剣を振る。


こちらの反撃を警戒しているのだろうか、武器が届く間合いギリギリの所からティルもセバートも攻撃を繰り出し始める。

岩村はそれを見て舌打ち1つ、溜め息1つ。

自分の間合いに相手が飛び込ませない様にするのは当たり前の事だが、自分が相手の間合いに飛び込める様に

何とかするのもまた当たり前の事だ。

パンチやキックを駆使するのも無い事は無いのだが、太極拳の特徴は相手の懐に潜り込んでから身体全体で突き飛ばすテクニックが多い。

事実、岩村も今のセバートの様に向かって来た槍を掴んで軌道をそらし、手を離して素早くセバートを突き飛ばしたのだ。

ティルのロングソードが目の前で空振りに終わり、そのままの勢いで回し蹴りを繰り出して来た彼の足をくぐって思いっ切り

自分の肩を使ってショルダータックルでティルを突き飛ばした。

……が、その瞬間に岩村は頭に強い衝撃を受けて地面にティルと同時に倒れ込む。

それは後ろに何時の間にかやって来ていた、さっきのファイヤーボールを繰り出して来た赤毛で丸眼鏡の男が岩村の頭目掛けて

杖をフルスイングしたからであった。


「よくやった!」

セバートはそう言うと、ロープを手に相手に近づいた。

だがセバートが近づいて来るのを待ち構えていたのか、相手はロープを持ったセバートの腕をとると、くるりとひっくり返した。

「くっ!!」

隙ができた内に逃げようとしていたようだったが、ティルがすぐに前方に立ちふさがる。

相手の後ろからは魔術を発動し、行く手を阻んだ。

セバートが体勢を立て直すと、槍を振る。

だがそれは囮だった。敵がセバートを相手にしている間に、ティルが背後に回り、首に手刀をたたきつける。

ふらふらとしている隙に、赤い髪の魔術師アルバインが相手をロープで縛り上げた。

チョップされたショックで身体に力が入らない。

必死の抵抗空しく岩村は捕まってしまった。

なかなか良い勝負が出来てたと思ったのに、不意打ちでこうして負けてしまった事で岩村には1つ分かった事がある。

(ルール無しのファイトなら何でもありなんだな……)

1vs1の素手でのバトルは少ない。

むしろ相手がこうして複数人なのは当たり前で、セバートやティルの様に武器を持っていたり赤毛の丸眼鏡の男の様に変な事をやらかして来たり。

複数人で戦うトレーニングは両手で数えるほどしかしていないし、岩村は35人の中でそれ程強い訳でも無い。

それでも武術太極拳を10年以上習っている実としては、易々とこうして負けたくなかったと言うのもあった。

しかしこれが現実。岩村はセバートに引っ立てられながら、馬車の中へと押し込められてしまうのだった。


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