Run to the Another World Another Stage第6話


その突き出された槍を払おうと思えば出来ない事も無い岩村。

しかし、槍の先端を払って茶髪の男を倒した所でその後ろに入る数人……いや、数十人の

騎馬隊を相手に出来るとは到底思えない。

ここは大人しく降参する方が良さそうだった。

岩村は地面に武器を置き、両手を上げてホールドアップ。降参の意を示した。

そんな岩村の後ろから、先程の金髪の騎士が再び馬に乗って近づいて来たのはそんな時だった。


岩村は騎馬隊の騎士団員達に拘束され、馬に乗って揺られていた。

茶髪の男がセバート、そして金髪の男がティルと名乗った。

何でも遠征任務でここまでやって来たらしく、彼等の所属している騎士団を擁するサンドゥツレラ王国と

言う国は内陸にあるらしい。

自分は一体これからどうなってしまうのだろうか。まさかこのまま処刑されてしまうのだろうか?

岩村の頭に、そんな漠然とした不安が渦巻いていた。

サンドゥツレラ王国まではおよそ1日かかるらしいと言うので、となれば少しだけゆっくり出来そうだ。

どう考えても聞いた事の無い国の名前、それからこの人間達の格好。

そしてさっきのいきなり斬りかかって来て意味不明な事をわめき散らしていた若者。

海賊(自称)の彼はどうなったのかなーと思いつつ、今はこの騎士団の人間だと言う人間達に身を任せる。

岩村はその中で、この場所はもしかしたら自分の居た世界とは違うんじゃないのか……とうすうす思い始めていた。


「これから奴をどうされますか?ティル団長?」

セバートが隣に腰かけていたティルに話しかけた。

「この辺りの者ではない服装…。いったいどこから来たんだ…?」

「先ほどの海賊も放っておくわけにもいくまい。」

「もしあの海賊と捕らえたヤツが仲間だとするなら…。」

危険すぎる、とティルは眉間にしわを寄せた。

そんな会話が繰り広げられているその横で、岩村は太極拳のトレーニングに励む。

まだ夢であって欲しいと思うのは山々なのだが、これだけの体験をしても全然目が覚めてくれないと言う事は

やっぱり夢では無いのだろう。

だったら少しでも地球の事を忘れない様にする為に、太極拳の型を非常にゆっくりとした動きで練習する。

この太極拳があったからこそ、自分は今まで生き延びて来られたのだ。


同じチーム「寄せ集めサーティンデビルズ」の栗山裕二や小野田博人、大塚誠の事を思い出しながら

岩村は太極拳の型をトレーニングしていた。

「おい、騒ぐな!!」

聞きなれない足音に気付いたセバートが注意をする。

(…ん?あれは…)

遠くの方、小さな洞窟に入っていく数人の海賊を見つけて、ティルは訝しんだ。

「止まれ。」

ティルの命令で、馬車が急停止する。

いきなりがくんと身体が揺さぶられ、急ブレーキをかけた馬車に驚く岩村。

「な、何だ?」

何だか兵士達が騒がしい。ティルとセバートも外を指差して何やら話し込んでいる。

馬車の窓から外を見ている様なので、岩村もつられて外を見てみる。

すると、遠くの方に何とあの海賊(自称)を始めとした大勢の人間が居るではないか!!


始めは何ともない普通の洞窟だったが、だんだんと道が整ってきていた。

「誰かが作ったのか…?」

よく分からなかったが、きょろきょろしながら進んでいく。

ヴァレントの海賊の鼻がお宝の臭いを嗅ぎ取っていた。

「ここには絶対何かある…!」

ヴァレントの顔がどんどんにやけていく。

洞窟の中は意外と奥まで続いていた。

だが、所々から光が差し、視界はそれほど悪くはなかったのが救いか。

「微かだが潮の香りがするな。」

歩きながらヴァレントがつぶやいた。

お宝がありそうな予感がしてきて、歩く足も快調だった。


「セバート、奴らだ。捕らえるぞ。」

緊迫した面持ちでティルが、セバートに指示を出す。

「後ろの奴はどうしますか?」

暫く考えた後、ティルは渋い顔で答えた。

「連れて行くしかあるまい。」

後は連行するだけだと、他の騎士達は別の任務につけたのだ。

仕方なくロープで縛ろうと、後方の荷台を覗きこんだ。

岩村は馬車の中から海賊の姿を見てこれ以上は関わりたくないと切実に思っていたのだが、今のティルとセバートの

会話を聞いた瞬間に身体が動き出していた。

何時もは冷静に物事を考えてから行動するタイプの自分がこうするのは珍しいと思いつつ、馬車の窓を全力で

蹴り割って外に飛び出る。勿論向かうのは海賊(自称)の元……では無く、海賊が居る場所とは反対方向だった。

もし縛られたままあの海賊に見つかりでもしたら、俺には抵抗のしようが無いだろう!)

ティルとセバートが負ける可能性だって否定出来ない。

それに海賊(自称)の元には他に仲間が居る今だからこそ、自分の身の安全を1番に考えて行動するべきだと

考えた上での岩村の結論だった。


ガラスの割れる音でティルとセバートは、素早く外へ出た。

逃走する可能性も勿論予測していた事態だ。

「セバート、前へ回り込め!」

「はっ。」

すかさずセバートが、前へ回り込み、逃げた男をティルと挟み撃ちにする。

さっさと反対方向へと逃げて安全県内まで避難したかった岩村だが、海賊(自称)とその愉快な手下達を

捕まえに行こうとしていた筈のティルとセバートが何故か自分を挟み撃ちにし始めたのを見て、至極まっとうな提案を口にした。

「俺の事はどうでも良いだろう。それよりあの若い奴を捕まえるのが先じゃないのか? 俺は安全な場所まで逃げる。

逃げるのを邪魔するのであれば……」

そこまで言って、岩村はゆっくりと太極拳の構えを取った。

「御前達も俺の敵、と言う事になるからな」


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