Run to the Another World Another Stage第5話


(……ん? 何だあれは?)

砂煙を上げながらどんどん近付いて来る1つの影。ラリー選手権でもこの近くでやっているのか? と思ったが

どうやら違うらしい。まずエンジンの音がしない事、そしてそのシルエットは車では無い事。そして、そのシルエットが

馬だと理解するのと同時にその背中に明らかに時代錯誤な金髪の騎士? らしき男が乗っていたからだった……。

近付いて来た男が何故騎士? らしいと分かったのかと言えば、まずはその服装にあった。

肩当てや腰にぶら下げているロングソードを見てみれば、明らかに今の地球のテクノロジーに逆行していると言える。

しかも移動手段が今時で馬。何かのコスプレだろうか?

それでも、今頼れる人間はこの馬にまたがった金髪の男しか居ないだろう。

意を決して、岩村は大きく両手を振って馬をストップさせてからその男に話しかける。

「すまない、ここは一体何処になるんだ?」


しばらく街に向かって歩いていると、かなり遠くではあるが、先程の怪しい男を視界にとらえた。

どうやら誰かと話していると悟ったヴァレントは、子分達にその場にとどまるよう指示を出し、

さらにその二人に近づいていった。

「お宝を盗んだ犯人か、はたまた別の何物か…。」

かなり近くに来た時、馬上の人物とはたと目があった。

「貴様はっ…!お尋ね者の海賊!!」

ヴァレントの額に冷や汗が浮かぶ。

馬上の騎士が突然叫ぶ。

さっきから自分をずっと付け回しているこのお頭とか言う若い男はやはり海賊だったのか、とその一言で

岩村は察する。となれば、ここは自分が出る幕では無さそうだった。

「……忙しい様だから、俺は別の誰かに聞く事にする。それじゃあな……」

岩村がそう言って歩き出すと同時に、後ろからはその2人の争いの音が聞こえて来た……。


剣と剣がぶつかり合う。

「今日こそ貴様を捕えてやる!!」

「ふざけんな!!お堅い騎士が!!」

剣を交えながら、ヴァレントの視界に逃げる男の姿が映った。

「今回、お宝を盗んだのはあいつだ!!」

焦ったように騎士を突き飛ばし、その男の後を追う。子分には目で合図を送った。


背後から誰かが駆けて来る音がする。

(何だ?)

振り返った岩村は咄嗟にローリングで地面を転がる。

背後からはまたあの海賊が襲いかかって来ていたからだ。

しかもあの金髪の騎士はお頭の子分を相手にしていてこっちに手が回らないらしい。

一体どうすれば良いのだろうか、と思いながらもここで岩村は勝負に出る。

(しつこい奴だ!)

クールで冷静な岩村だが、流石にここまでやられては堪忍袋の緒も切れる。

カットラスを突き出してきた男の右手首を取り、左手を男の右腕の下から通して男の首目掛けて連続アッパー。

更に首目掛けてチョップを水平に叩き込み、一瞬お頭が怯んだ所で膝の関節を裏からローキックで5発程蹴る。

バランスを崩したお頭目掛け、とどめにドロップキックで思いっ切りぶっ飛ばした。


一瞬意識を飛ばし、倒れている間に、怪しい男は遠くの方へ逃げて行った。

「く…、くそ、逃がすか…!」

ヴァレントは慣れた手つきで銃を取り出し、男に向けた。

引き金を引いて、撃つ。

がちっと、乾いた音が響く。

「くっそ…弾切れかよ…」

今更チューチュー野郎に銃をぶっ放したことを後悔する。ヴァレントは地面に大の字になった。

そのまま気を失う。

「お頭―――!!」

子分の一人があわててヴァレントを担ぎあげる。

そのまま目にもとまらぬ速さで、逃げて行った。

ヴァレントを背負った一人の子分は、近くにあった洞窟に隠れた。

ここで襲い来る騎士や軍をやり過ごすつもりだ。

「まさかお頭があの程度でやられるとは…。」

まだ伸びているヴァレントを不安そうな顔で見ながらそうつぶやく子分だ。

外の様子を音のみで把握しながら、敵が去るのを待った。


それからどれだけ経ったのか、外からの音が聞こえなくなってきていた。

どうやら騎士たちは、こちらを追うのをやめたらしい。

「ん、ん…?」

身じろぐヴァレントに、子分が慌てて駆け寄った。

「おか、ヴァレント様いったいどうしたんっすか!?あんな攻撃でやられるなんてっ…」

「腹が減ってたんだ。ちょっと油断しちまったな。」

「お、この洞窟奥まで続いてそうだ。」

飯かお宝でもないかと、その奥に向かって、ヴァレントは歩き出した。


何とかお頭と呼ばれた人物を退け、岩村は駆け足でさっさと向か……えない。

(場所が分からん!!)

武器はある。金は無い。

命はある。道は知らない。

地球なのか? いやまさか。

今更になって、色々な感情が一気に岩村の中から噴き出して来る。

そんな彼の目に信じられないものが映った。

砂埃を上げながら岩村に向かって真っ直ぐ近づく、騎馬の大軍が遠くに見えて来たのだった……。

「うおうおうお!?」

そのやってきた騎馬の大群は、岩村の前で一斉にストップして風を巻き上げる。

砂埃で視界が悪くなり、思わず顔を腕で覆う岩村。

そんな彼の前にギラリと鈍く光る物が突き出される。

それは先頭の騎馬から降りて来た茶色の頭をしている男が突き出している、槍の先端だったのだ……。


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