Run to the Another World Another Stage第3話
下でお頭と子分がいざこざを起こしているとは知らず、岩村は揺れる船内を走り回る。
途中で海賊の仲間らしき連中を見つけるも、太極拳仕込みのパンチとキック、
そして太極拳独特の両手を使った低い体勢からの突き飛ばしを駆使して叩きのめす。
(くそ、どうにかしてまずは甲板に出た方が良いみたいだな)
そんな思いで走り回っていると、ようやく甲板に続く階段を発見したので上へと駆け上がる。
そこはまさに戦場だった。
船上が戦場になっているなんてジョークを飛ばしている暇も無く、岩村の元に1人の海賊が斬りかかって来る。
冷静に岩村は海賊がジャンプした所でミドルキックをその海賊の腹に叩き込んだ。
空中では翼でもない限り自由に動けないのを岩村も分かっているからだ。
(海に飛び込む……いや、ここはあえて隣の船に飛び移る!!)
船上で岩村が戦っているその時、全く真逆の船底に、ヴァレントは辿り着いていた。
「おい、本当にこっちに盗人が来たんだろうな…?」
子分の襟首をみたび締めあげつつ、辺りをきょろきょろ見回す。
いつもの威厳はどこへやら、ヴァレントの背中は小さくまるまっている。
そんなヴァレントの足元で、カサっと何かが動いた。
「でやがったなチューチュー魔神が!!」
ヴァレントは確認もせずに懐に忍ばせていた銃を床に向けて乱射した。
隣の船に飛び移ると決意した岩村は足場を探すが、色々な場所で敵や味方が入り乱れている為なかなか進めない。
(くそ、これじゃあ駄目だ。急ぎたいのに……)
急いで隣の船に飛び移らなければもっとカオスな事になりそうだが、どうやって急ぐか?
そこまで考えた時、岩村の頭に1つの言葉が浮かんだ。
(急ぐ……い……そぐ?)
ああ、何だ簡単な事じゃないか。そうすれば良いのか。
そこで岩村は飛び乗る為のルートを導き出し、いったん甲板の戦場から離脱。
中央部分は敵味方の入り混じる部分なのでなかなか通れない。しかし、遠回りをすれば……。
(急がば回れ……。昔の人間は良く考えたものだな)
ヴァレントが乱射した銃弾があちらこちらの床にえぐり込んでいく。
始めは小さかったその穴も、止めに入ってきた子分の銃すら奪って乱射しているヴァレントにより、徐々に大きくなっていく。
「おらァ!出てこいや!くそチューチューヤロォ!!」
そう言って放った銃弾が、床のある一部を粉砕した。
「お、お頭っ…このパターンはッ…!」
以前にもあった出来事を思い出し、子分達がサーッと青ざめた。
「あ?お頭じゃねぇって言って…」
”お頭”と呼んだ子分の襟を掴みかかろうとしたヴァレントだったが、徐々に湿っていく足元に気づき、まずい、と手を引っ込めた。
「テメェら!!すぐ甲板へ行け!!早くしねぇと船と一緒にあの世行きだ!!」
自分のしでかしたことなど棚に上げ、ヴァレントは子分どもの尻をはたきつつ走り出した。
予想通り、バトルに集中している敵と味方は自分に気がつく事は無い。
それを確信して、でっかいライン取りでバトルフィールドを避けながら岩村は足場を探す。
すると、隣の船からこちらの船に渡る為の足場の板が掛かっている場所を見つけた。
(良し、あれを使えば……)
隣の船に渡ってしまえばそれで少しでも危機は去るだろう。
そう思いながら岩村は板を渡り始めた……のだが!
「うおっ!?」
突然、今まで自分が居た船が大きく揺れて傾く。
当然、自分が渡っている板も途中で引き剥がされる事になる。
考えるよりも先に身体が動いた。引き剥がされる板から、岩村は一世一代の大ジャンプを決行。
(届け……っ!!)
その必死の思いが通じたのか、懸命に伸ばしたその右手がどうにか隣の船の端を掴んだ!!
(あー、死ぬかと思った)
まさに九死に一生。
ドキュメンタリー番組として放送されそうな、それでいて下手なホラー映画よりも怖い体験をした岩村は一息つく。
それにしてもこっちの船は一体なんなのだろうか?
良く分からないまま飛び乗ってしまったが、海賊の船かどうかは分からない。
(友好的な人物達であれば良いのだがな)
それだけで自分の気持ちは随分楽になるはずだ、と思いながら岩村は船を探索し始める。
甲板に辿り着いたヴァレントと子分たちだったが、敵船が徐々に離れて行く姿が見えた。
「テメ―ら!あの船奪うぞ!!」
徐々に傾いていく船体に、足を踏ん張りながら近くに備え付けてあった緊急用のロープを離れて行く船に向けて放る。
上手い具合に船に引っ掛けると、ヴァレントは子分たちに、先に行けと促す。
「アイアイサー!」
そのまま子分達は器用にロープを伝って向こうの船へ渡っていく。最後まで残っていたヴァレントも、
全員移動したのを確認すると、すぐに渡って行った。
「さーて、どこから探索してやろうか」
自分の船とつないでいたロープを、銃で撃って焼き切り、端は海に放った。
その銃も、今の弾を最後にカチカチと虚しい音を響かせる。
「ありゃ、弾切れか」
ヴァレントは使い道のなくなった銃をしまい、歩き出した。
「おかッ…ヴァレント様!!」
子分が奇妙な声音でヴァレントに話しかけた。
「あの男っ…」
「あいつはッ…!やはりつながってやがったのか!!」
それは紛れもない、先程捕えた怪しい人物だった。
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