Run to the Another World Another Stage第1話
(繁忙期だけど残業は堪えるな)
自分の勤めている職場の残業を終えて、愛車のY33セドリックで家路に着くのは岩村遼一。
時は2016年の12月20日。仕事納めまでもうすぐなのだが、それに伴って残業も増加。
最近は同じ孤児院出身の栗山裕二や鈴木流斗の影響で始めた武術太極拳のトレーニングにも
行けず、趣味のホラー映画鑑賞も出来ずに家と会社の往復が続いていた。
おかげでセドリックのリアシートには太極拳のためのトレーニング用品が載せっ放しになっていた。
(あー……そう言えば響双刀の真剣も載せっ放しだったな)
太極拳の講師のツテで手に入れた本身の響双刀。太極拳のオーソドックスな二振りの剣だ。
そんな響双刀を載せたセドリックを運転し、首都高速に乗って都心環状線から新環状線へ。
この時間帯はパーキングで休むトラックも多いので、少しだけ仮眠をしようと岩村は思い立ち台場近くの
パーキングエリアへ。
が、そのパーキングエリアの目立たない場所にセドリックを停めて仮眠の体勢に入った岩村は、
この後に生半可なホラー映画よりも恐ろしい体験に巻き込まれる事になる。
(少し眠ろう……駄目だ、眠すぎる……)
残業続きで現在45歳の身体には堪えるものがある。
なので少しでも仮眠を取らないとやってられなかったのだが、スーッと意識を飛ばした岩村が次に目を開けてみると、
何か背中に柔らかい感触があった。
「……ん……」
太陽の光が閉じたまぶたに当たり、眩しさで思わず岩村は目を開ける。
ん? 太陽?
(……っ、まずい、寝過ぎたか!?)
栗山と流斗とのトリオの中では1番クールで現実的と言われている岩村。
しかしそんな岩村でさえ、今の光景には驚くしか無かった。
それはそうだろう。何故なら今まで自分が座っていたブリッドのシートのセドリックは無く、
何故か柔らかい草地の上に寝ていたのだ。
しかも、自分の身体のそばに落ちているのは響双刀だけであると言う不思議な光景。
(な、何だこれは……!?)
ガバッと身を起こして辺りをぐるっと見渡してみると、遠くの方には何やら港町が見える。
一体何がどうしてこうなったのかさっぱりなのだが、岩村は冷静になる様に自分に言い聞かせつつその町の方に歩き出す。
そして、そこで見た光景は現代の地球に見合わないファッションセンスの人間達……と言うよりも、
自分の方がファッションセンスが間違っているのでは無いのかと思わされる光景であった。
(……ちゅ、中世?)
何時の日かテレビで見た事がある、中世ヨーロッパの町の光景そっくりなその港町。
この瞬間、岩村の脳裏に物凄い音で警鐘が鳴り始める。
とにかく現状を把握しなければならないので、一先ず岩村は近くに停泊している船の船員に話しかけてみる事にした。
その船が、ただの船では無いと言う事には気がつかないままで……。
頭に鉢巻きを巻いた船員の一人が、怪しい人物が近づいてくることに気づく。
近くにいたもう一人の船員に声をかけると、腰にさげていたカットラスの柄に手をかけながら、その男に近づいていく。
後から数人の船員も続いてでてくる。
「テメェか!!俺らのお宝を横取りしやがった盗人は!!」
「見つけたぞ!!ヤロー共!来い!!」
「はっ?」
いきなり何を言われるのかと思いきや、とんだ言いがかりである。
この異様な展開に岩村の頭のCPUもオーバーフロー寸前だ。
岩村は思わず後ずさるものの、頭に変わった形の帽子を被っている黒髪の明らかに海賊です、と言ういでたちの
若い男は岩村にズンズンと近付いて来る。
176センチ、79キロの自分よりもまだ大きなその男に、岩村は警戒心をマックスにしながら身構えた。
「率直に答えろ。俺は今気が立ってるんでな。」
右手で銃をくるくると弄びながら、鋭い眼光を怪しげな男に投げかける。
「見るからに怪しい、いでたちだ。貴様が俺達のだ〜いじなお宝を盗りやがったんだろう?」
男は銃のロックを外すと相手のこめかみに突きつけた。
だが引き金を引こうと指に力を入れるのと、男の首に刃物が当たるのは同時だった。
「さっきからお前は何なんだ?」
クールな岩村の声に怒気がこもる。
「お宝? 俺が知るか。それにいきなりこんなものを向けるとは。俺が何をした?」
答えてみろ、と言いつつ岩村は素早く男の持つ銃を刀を持っていない左手で弾く。
だが男も腰のカットラスを引き抜き、更に岩村の刀も同じく左手で弾き飛ばした。
これで岩村が圧倒的に不利になった。
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